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小学1年生、2学期・・・
祖母のガンは、完治していた。
完全に、消えていたのだ。
祖母は、泣きながら、僕に礼を言った。
僕は、偶然を主張した。
正直、実感が無かった。
『本当に、魔法で治ったのか・・・?』
『偶然治ったのでは・・・?』
小学1年生の僕には、その様にも思えた。
しかし、
祖父母は、うれしくて、
この出来事を、言いふらした。
もちろん、2人は、魔法の事など知らない、
あくまでも、肩叩きの話を広めたのだ。
しかし、それでも、僕は、近所で、
ガンを治した孫として、有名に成った。
現在、僕は、神社には、行っていない。
しかし、この地域の人は、僕の事を、
毎日、お百度参りに行く、
お婆ちゃん思いの孫・・・
その様に、思っているのだ。
その為、
孫の祈りが通じた・・・
お百度参りのご利益だ・・・
などと噂に成って、僕は、ほめられた。
当然、魔法の事など、誰も気付かない。
つまり、上手く誤魔化せたのだ。
ところが、考えるベキ事が出来た。
今後、家族の誰かが、ガンに成った場合・・・
『肩叩きをするのか・・・?』
『それで再び、奇跡が起きたら・・・』
『どう成るのか・・・?』
当時、小学1年生の僕に、解る訳が無い。
しかし、考える必要はあった。
『ガンを治せる・・・』
『それは、素晴らしい・・・』
『しかし、本当に良いのか・・・?』
僕は、この事を、何度も何度も考えた。
当時、小学1年生だった僕が、
小学2年生に成るまで、毎日、考えていた。
その間、魔法の消費・・・
つまり、魔法を使い、達成感を、得る方法として、
歯磨きの時に、コップに、ラムネを入れて、
それを溶かす事で、魔法を使っていた。
ラジコンカーに関しては、
『小学2年生に成ったので・・・』
『もう玩具では、遊ばない・・・』
などと、多少無理のある理由で、
遊ばない様にした。
そして、体育以外では、運動をしなかった。
その為なのか、魔法は、暴走しなかった。
しかし、当時、僕には、深刻な問題が起きていた。
それは、知識を得た事での、心境の変化であった。
もう「魔法遊びなど」している場合では、
無かったのだ。
僕は、知っている事を、総動員して考えた。
『魔法を使っても、良い事・・・』
『魔法を使っては、駄目な事・・・』
それを、しっかりと、理解する必要があったのだ。
僕は幼稚園の頃、父に質問した事があった。
「なぜ、もっと沢山、お金を作らないのか?」
すると、父が教えてくれた。
お金を沢山作ると、お金の希少価値が、無くなる。
しかし、お金があれば、働く必要が、無くなる。
すると、食べ物を作る人も、働かない。
すると、食べ物が、無くなる。
すると、お金があっても、食べ物が買えない。
つまり、お金の価値が、無くなる。
すると、人は、食べ物をうばい合う。
だから、お金は、少ししか作らない。
少し足りない様にしている。
その結果、お金が無くて、死んでしまう人もいるが、
お金を沢山作れば・・・
食べ物の、うばい合いが起こって・・・
それ以上の人が、死んでしまう。
だから、世界中で協力して、
お金を、作り過ぎない様にしている。
それを聞いて、当時、幼稚園児の僕は、
納得出来なかった。
だから、幼稚に反論した。
『バレなければ良い・・・!』
『お金と、食べ物を、沢山作れば良い・・・!』
しかし、その後、僕は、
様々な経験から、現実を学んだ。
走っているだけで、ほめられた・・・
僕は、その事に、納得出来ないが、
僕には、解決出来ない問題であった。
小学校の全学年、全教科を勉強した・・・
その結果、姉が傷ついた。
それは、もう、取り返しのつかない、
問題であった。
その様な経験が、僕の精神年齢を、
成長させたのだ。
だから、父の言っていた事が、理解出来た。
『モノの価値は、人間が守っているのだ・・・』
食べ物と、自動車、
本当に必要なのは、食べ物である。
もちろん、自動車があれば、便利だが、
無くても、生きては行ける。
昔は無かったのだ。
しかし、車が無いと不便な世界を、人間が作る。
すると、人間に、車が売れる。
ガソリンが、必要に成る。
タイヤの交換も、必要に成る。
つまり、必要は人間が、作っているのだ。
ネットだって、
化粧品だって、
テレビだって、
新聞だって、
玩具だって、
アイドルだって、
無くても、生きては行ける。
病院さえ、昔は無かったのだ。
でも、これらは必要なのだ。
これらが、あるから人間なのだ。
食べ物だけで良いのなら、猿でも良いのだ。
人間に成る必要は、無いのだ。
しかし、我々は人間だ・・・
人間を選んだのだ・・・
だから、人間は、
本来なら、不要な、お金を作り・・・
それが必要な、世界を作り・・・
人間が、人間の様に・・・
生きて行く世界を、作ったのだ。
僕は、以前、ファンタジー小説を、ゴミとして捨てた。
そして、大切な事を学んだ。
世の中には、
この「ゴミを作る人間」と
この「ゴミを買う人間」がいる。
ゴミに、価値を与える。
それが文化であり、人間なのだ。
猿には、それが出来ない。
原始的な生活をしている部族も、人間なのだ。
だから、顔に色を塗り、身体に飾りを着けている。
無駄なのに重要。
それが人間の誇りである。
だから僕は、決意した。
『もう2度と、魔法で、病気を治してはいけない・・・』
『そんな事をすれば、人間が誇りを失う・・・』