034
僕は、毎日、学校で本を読んでいた。
しかし、僕の期待した本など、
存在しなかった。
この世界に、魔法など、存在しないのだ。
だから、魔法の本など、存在しないのだ。
『しかし、僕は、魔法使いである・・・』
『つまり、僕以外にも・・・』
『魔法使いは、存在するのでは・・・?』
『ピラミッド建設に、関わった人物に・・・』
『魔法使いが、いたのでは・・・?』
僕は、その様に思っていた。
我が家にも、ネット環境はあった。
『調べたい・・・』
しかし、僕は、何をするか、解らない子供なので、
ネットの使用は、禁止されていた。
『現状・・・魔法使いは、探せない・・・』
『おそらく、ネットでも・・・』
『魔法使いは、探せない・・・』
『ネットで、見つかる程度なら・・・』
『その魔法使いは・・・』
『世界的な有名人に、成っている・・・』
『しかし、そんな人物は、存在しない・・・』
『つまり、魔法使いを探す事は、不可能だ・・・』
だから、僕は、魔法使い探しは、あきらめて、
独自の研究を続けた。
僕には、友達がいない。
魔法使いの僕には、それは幸運な事であった。
登校の時は、姉と一緒に行くが、
帰りは、1人である。
そこで僕は、下校中、魔法の練習を、
繰り返していたのだ。
以前、魔法の練習は、止める事にした。
魔法の暴走が、怖いからである。
しかし、僕の魔法は存在する。
そして、発動する・・・
それをコントロールする為には、
練習する必要があるのだ。
『だから、止める訳には行かない・・・』
僕は、その様に、考えていた。
下校前に、ラムネを食べ、学校を後にする。
そして、周囲に人が居ない事を、確認すると、
必死に走って、神社に向かう。
当然、しんどい・・・
息が切れる・・・
しかし、休憩はしない・・・
絶対に、手を抜かない・・・
僕の住んでいる、地域には、
通称、赤リボンが存在する。
砂利道、河川敷、あぜ道・・・
それら、地道のわきに、
長さ30センチ程の、杭が立っており、
その先端に、赤い布が付いている。
誰が、何の目的で、設置したモノなのか?
大人に聞いても、
水道管の目印だとか、
土地の権利関連だとか・・・
答えが、それぞれ異なるので、
実際には、知らないのだと思う。
ちなみに、この杭は、
10メートル間隔・・・
100メートル間隔・・・
など、
しっかり、測量された間隔で、設置されている。
という話である。
それも、事実である保障は無い・・・
しかし、それでも、それが、僕の役に立った。
人は、全力疾走している「つもり」でも、
それは、あくまでも「つもり」である。
人は、本気を出せないのだ。
ところが、100メートル先に、目印があれば、
少しだけ、走るスピードが上がる・・・
少しだけ、本気を出せるのだ。
10メートル先に、目印があれば、
そこまで、息を止めて走る・・・
その様な挑戦も、可能に成る。
僕が必死に走る目的・・・
それは、疲れる事である。
『出来る限り、疲れたい・・・』
だから、神社の石段も必死に登る。
登った先には、
「おやしろ」と「お百度岩」がある。
本来は、それを折り返し地点に使い、
1周ごとに、神様に、お祈りをするのだ。
そこで、僕も、その岩を、折り返し地点に使い、
呼吸が戻るまで、グルグルと歩き続ける。
お祈りは、しない。
呼吸が回復するまで、ただ、歩き続ける。
そして、回復したら、神様に手を合わせる。
しかし、これは、芝居である。
僕は、神様を信じていない。
そんな都合の良い誰かなど、存在しないのだ。
お賽銭をくれれば、願いを叶えてやる。
お守りを買ったら守ってやる。
『そんな事を言った神様が・・・』
『過去に、存在したのだろうか・・・?』
僕は、聞いていない。
『誰が、それを聞いた・・・?』
『どうして人は、そんな話を信じた・・・?』
結局、誰かの考えた嘘なのだ。
この神社だって、長い石段があるので、
誰も登って来ない。
神主もいない。
神様をまつる「おやしろ」と「お百度岩」が、
置いているだけ・・・
『誰からも、必要とされていない・・・』
『神様など、嘘だから・・・』
『役に立たないから・・・』
『誰も来ない・・・』
そんな環境を、僕は、利用していたのだ。
僕は「おやしろ」に、手を合わせ、力を抜く、
このまま、立って寝る事に、挑戦しながら・・・
身体の、疲れが、溶けて、流れ出す・・・
その様に、イメージをする。
すると、お湯が流れ出す様な、感覚が起こる。
最初は、オシッコを漏らしたと、思った程である。
しかし、それによって、疲労が回復している。
ちなみに、息切れの最中には、この回復は使えない。
これを始めてから1ヶ月・・・
明らかな変化があった。
全力疾走しても、楽勝なのだ。