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コッペリウスの憂鬱

かなり遅くなりました・・・・。すみません・・・・・。『どう考えても私のお守り役が怖すぎる件について・・・・・・』も最終話が投稿されておりますので、読んで頂けたら幸いです。

「ありがとう!!貴方っていい人だ!!私、君と友達になりたい!!!」


 君は僕と君が初めて会った日のことを覚えているかね?そのとき、君は髪を上手く結べず、泣いていたことを君は覚えているかね?泣いている君を見かけて、内心馬鹿にしながらも声をかけ、僕が君の髪を結んでやったことを君は覚えているかね?そして・・・・・君はそのあと自分が言った言葉を覚えているかね?いいや、全て覚えていないだろうね。君にとっては大したことのない日常だったのだろうから。でも、僕にとっては衝撃的な日だった。


「君と私とでは生きてる世界が違うみたいだね。ごめん。」


 誰しもがそう言って離れていった。最初は皆、僕に近寄ってきたのに少し話すと皆こうだ。だから僕は物言わぬ人形に余計に溺れていった。それが、どうだろうか。髪が上手く結べず、べそをかいていた少女はこれまで誰も言ってくれなかった言葉を言ったのだ。それにその日から少女は僕に付きまとい始めた。


「え?料理?あの私がすると異臭を放ったり黒くなったりするやつ?」


 ・・・・・・・驚いたことに少女は何もできなかった。それこそ洋服を満足に脱ぎ着できないほど。それならば、僕が代わりにやってやろうとなんとなく思った。ある意味驚き過ぎて興味が沸いたともいえる。


「ルトゥってすごいね!!なんでもできる!!」


 褒められたことなんて人生で山ほどあったが、なんだか今回は胸の奥がほんのりと温まった。


「ルトゥはお人形さんを作ってるんだね!!」


 体が凍り付いた。なぜそれを知っている?僕の家が人形作りの名家であることは有名だ。だが、僕が人形をつくっているということは隠してきたから誰も知らないはず。


「いやーこのお人形さんがもの凄く欲しくてさ、誰がつくったんだろうと思って人形をよく見てみたら、M.Yって掘ってあったから、あ、ルトゥがつくってるんだ!!と思ってさ!!ルトゥの作るお人形さん綺麗でものすごく好き!!」


 ・・・・・・?しばらく理解できなかった。でも、この少女は・・・確かに、今、人形を気味悪がるどころか綺麗だといった。


「わー!!おしゃれ!!しかもルトゥの手作り!?え!?くれるの?やったあ!!!」


 人形を褒めてくれたお礼として、手作りのドレスを渡した。僕と対のものを。僕と同じような服を着ているフレップを見ていると、心のどこかが満たされていくような気がした。


「ルトゥ、お腹が空いちゃった!!カレー食べたい。」


 ・・・・・僕はただただ幸せだった。君はいつでも僕を頼ってくれる。いつでも僕のそばに居てくれる。僕は、本当に幸せだった。


「シンイちゃん!!!大丈夫!!ほーら、もっと笑って!!」


 ・・・・・・・フレップが前ほど僕に構わなくなった。それどころか他の人間をよく構うようになった。・・・・・・・なぜ!?僕にとって君は唯一の存在であり、僕には君しかいない!!それに僕は君のために君の出来ないことを・・・・。・・・・ああ、大丈夫だ。まだ大丈夫じゃないか・・・・。フレップは何もできない。僕がいなければ何もできないのだから・・・・。


「ルトゥ!!私、自分で洋服を脱げるようになったよ!!」


 ああ。


「ルトゥ!!私、自分で髪を結べるようになったよ!!」


 ああ・・・・・。


「ルトゥ!!私、


 ああ!!!駄目だ!!なぜだね!?なぜ君は僕から逃げ出そうとする!?君は僕がいなければ生きていけなかったはずだろう!?


「ルトゥ、私ね、好きな子が・・・


 なぜだね・・・・?君には僕しか必要ないだろう?それなのになぜ好いた人間などができる?


「うっ、うう・・・・。ルトゥ・・・・。あの子が死んじゃったって・・・・。」


 ああ、そうかね。哀れなことだ。だが仕方ないだろう。その者が悪いのだよ。・・・・・・ああ!!僕に縋って泣くフレップを見ることの心地よさよ!!


 そして月日はたち、僕とフレップは全寮制の花園学園に入学した。


「なんで同じ部屋なんだよ!!!」


 この学園に入ってから同じ部屋なのもあり、フレップとずっといられるようになった。堪らなく幸せだ。時々する軽口の叩き合いも楽しくて仕方ない。だが、なぜかフレップは僕との関係に違和感を感じ始めたらしい。


「綺麗だけど・・・・・少し不気味かも・・・・・・。」


 君はどうしてそんなことを言う?ああ、もしかして・・・・・人形が美しさの裏にこそりと隠し持つ死の気配におびえているのかね?それとも・・・・人形の目に閉じ込められた僕の狂気におびえている?ははは、可愛らしいことだ。・・・・・だが、残念ながら僕も正気の沙汰じゃないと気づきながらも、もうこの感情は止められない。きっと君は近いうちに僕に絡めとられるだろう。可哀想だと思うが、僕を狂わせたのは・・・・君だろう?


 僕とフレップは二年生になった。


 舞踏会が終わり、そくさと部屋へ向かって歩いていると、近くの部屋から紅い瞳を持つ少女が扉を少しだけ開け、こちらを注視していることに気付いた。


「えっと・・・・・・。」


 こちらが視線に気づいたことに気が付いたのか、少し体が揺れた。


「ひさしぶり・・・・・。みするとぅ・・・・。それじゃあ・・・・・・。」


 それだけ言うと、この国の王子クロユリ・バイモ・ユリはバタンッと扉を閉じた。・・・・・相変わらずわけのわからない奴だ。ただ、あれの瞳にどこか自分と同じものを感じてなんとなく付き合っている。どうせあちらもそうだろう。あれは人に興味を持つような人間ではない。・・・・・・いや、そもそもあれは人間なのか?あれからはいつも人形・・・・いや、死者に近いものを感じる。


 二年生になってから、少し経った。


「ああ、君は美しい・・・・。」


 今日も僕は歪んだ想いをこの胸に抱き続ける。





このシリーズの中でミスルトゥの言葉でフレップが「良く聞き取れなかった」といったところの言葉・・・・そこの言葉はみなさまのご想像にお任せいたします。

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