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司書

 第二区の外側、第三区にほど近い場所に位置する小さな宿。ローブに身を包み顔を隠した男が取った一室に、同じくローブ姿の人間が入って行くのが目撃された。力こそが身分である王都に於いては不審な格好をした人物など大勢いた上、そのような人物には後ろ暗い事情が付き物である。増してやある程度の力を持ちながらも正体を隠す人間など、関わるべきでないことは自明であり、それは王都に暮らす者の不文律であった。故に誰一人とて、彼らのローブに隠された顔を見たものはいないし、興味を持つものもいなかった。


「お疲れさん」


 部屋へ入ってきた男に労いの言葉を掛けたのはまだ年若い青年だ。


「にしても顔を隠しても怪しまれないのは助かったよな。お蔭で白昼堂々動き回れるってもんだ」


 そう言いながらローブを脱ぎ、仮面を外したのは同じく年若い青年。否、この部屋の主と全く同じ顔を持った分身、ダペルだ。


「全くだな。この宿だって俺達が何回出入りしてもお咎めなしだからな」


「まあ怪しまれてはいると思うけどな。さて」


 と、先程ローブを脱いだ分身が、本体であるダペルと同期しようとしたが、本体が手を前に出して拒否する。


「ああ待ってくれ。俺もずっと部屋に篭ってると退屈なんだよ。まずは口で報告してくれるか?」


「そんなことか」


 一瞬きょとんとした分身だったが納得したように椅子に腰掛ける。現在、この王都第二区には三十人程の分身が散らばっている。各々がギルドへ行き、情報屋を訪ね、細かな地理を確認し、酒場で噂話を聞いてはこの部屋へ戻って本体に帰ってゆく。いわゆる情報収集だ。勿論分身はそれだけではなく、人目につかない場所で魔法や徒手格闘、或いは剣などの鍛練をしている。そして今しがた報告に来た分身は、図書館へ行っていたものだ。


「結論から言うが、あそこは王都で最も危険な場所だ」


「……やつ(・・)のせいか?」


「ああ。他の分身の情報から知ってるだろうが、王立図書館の司書は能力者だ」


「それで、能力はわかったのか?」


「わからない。あいつ、隙だらけのように見えて全く勝てる気がしなかった。正直底が見えない。」


「じゃあどうして能力者だってわかったんだよ」


「初めてやつを見つけたとき、向こうからやって来て俺に言ったんだよ。『お待ちしておりました。次は本当の貴方ににお会いしたいです。なるべく近いうちにもう一度いらして下さい』ってな。」


「……っ! どうして俺の能力がわかった!? 何時から! そもそも何故俺のことを知っているんだ?……そうか」


「ああ、そういう能力らしい」


「しかしだからと言って、戦闘に向いていない能力だと高を括るのは楽観的すぎるな」


「そうだな、しかし本体を呼ぶ理由はなんだ?」


「まず一番に考えられるのは、俺を殺すことだな」


「ああ、それ以外の可能性は考えにくい」


「しかしそうなると困ったな。本を読むために王都に来たようなもんなのに」


「まあ後はじっくり考えてくれや」


 分身はそう言うと本体の元に帰ってしまった。同時に分身の経験が本体に蓄積される。


「そうか」


 王都第二区東部に位置する王立図書館。その管理の一切を任されているという司書は『最強の司書』として恐れられ、そして以外にもその正体は妙齢の女性である。曰く、王都で最も安全な場所であり、力こそが全てのこの都で唯一、図書館だけは静寂と秩序がその場を支配する。

 分身の言ったとおり、今の自分が彼女と戦えば勝つのは難しいだろう。仮にこちらの命を狙っていたとして、その理由には興味があるが、わざわざ命をかけるほどではない。相手の意志には反することになるが、再び分身を送って詳しい話を聞いてみるべきか。


「『最強』の司書か。」


 自らも最強を目指す身の上。ならば則ち、その道程には必ず立ちはだかる壁に違いない。ダペルは必ずその壁を越えてみせると心に誓った。

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