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-輪廻転生のカルマ-  作者: KANAR1024
第一章-異世界転生のカルマ-
11/11

第八話-少年、少女を拾う-

キャラを考えるのは、大変ですネェ

唐突に乱入してきた母の手………実際は足だが。によって倒れた父の姿を眺め、俺は呆然としていた。


「もう!やり過ぎないでねって、言ったでしょう?」

母はそう言っている。俺はその言葉を聞いた覚えがないから、恐らく母は父に話しかけているんだろう。まぁ、届いていないと思うが………


「やり過ぎは、お母さんもなんじゃ………」


俺の心の声が漏れる。俺もはしゃぎ過ぎたし、父もはしゃぎ過ぎた。けど、それを加味しても止め方が強引過ぎやしないか。コレ………完全に気絶してるぞ。


「………?あぁ!ジェリルのことなら、何も心配は要らないわ」

とっても、頑丈だから。


母がそう言い切った時、父は起き上がってきた。そしてどうやら、今の状況を一瞬で察したようだ。


「ジリス、か………」

「もう………やり過ぎのあなたが悪いんだから、嫌な顔しないの」


まるで子供に言い聞かせるように、母は父にミニ説教をした。

いや、今さっきまで気絶していた人にする事じゃない気がするが………まぁ、父は特別頑丈と言う事なんだろう。結構な勢いで蹴り飛ばされた割に、傷一つないしな。………そういえば、俺の母親って………強くないか?

俺の攻撃は、そもそも父には当たらない。もし当たったとしてもダメージは0だろう。だが不意打ちだったとはいえ、母の一撃は父に当たった。表面的なダメージはなさそうではあるが、俺が全力でブっ叩いてもあんな飛び方はしない。つまり、俺よりも母の方が強いって訳だ。勿論、年齢差もある。あるが、別に母は鍛えてるわけではない。つまり、筋肉量は俺の方が圧倒的に上のはずだ。筋肉じゃない。と、すると、答えは絞られる。


「あの、お母さんって………身体強化魔法が使えるの?」

「いいえ?使えないわよ?」


………予想は外れた。まぁ、そりゃそうか。身体強化魔法が使えるんだったら、既に俺に教えているはずだろう。疑って、悪かったなと思う。でも、でも………魔法じゃないとしたら、更におかしくならないか?要は、素であれってことだ。うん………怖い。


「すまなかったな。少し、やり過ぎた」

父は飛び起きると同時に、謝罪する。まぁ、幼稚な煽りに乗っかった俺も悪いからな………あの煽りも、俺のやる気を出すためだっただろうしな。だから、文句はない。文句はないが…………疑問ならある。


「それは良いんだけど………今回の試験って、何が目的だったの?」

父は何故か、呆けた顔をした。………まさか、さっきの気絶で記憶が飛んだのか………?


「………あぁ、思い出した。今回の試験は、お前が一人で狩りをする実力があるか確かめるため…だったはずだ」

だったはずだ。って………やっぱり記憶が飛んでないか?やっぱり、やり過ぎではないだろう——ん?狩り?


「そして、お前に十分な実力があることは十分わかった」

んー待て待て。今、父は何の話をしているんだ?狩り?この試験は卒業試験という話だったはずなのに………変わっていないか?


「だから、今日からは剣術指導と並行して、俺の代わりに………狩りに行ってもらいたい」

ん〜?じゃあ、卒業ってのは、何だったんだ?あと、俺一人?俺はまだ魔獣どころかただの獣とすら戦ったことがないのに、一人で?実力を認めてくれたのは嬉しいが、一人で狩りは心配が勝つ。………大丈夫かな。


「最近、また魔王軍が動き出したようでな………少し、忙しくなってしまった。だから、手伝ってくれるとありがたい」

………まぁ、そういうことなら………頑張るか。よくよく考えると、本来俺は村長にならないといけないのに、その道に背いて剣術指導を行ってもらっているんだ。恩は、返すべきだよな。


「わかった。頑張る………けど、少し不安かな」

「安心しろ。お前はもう、並の大人は超えてしまうほどの力を身に付けている………はずだ。だから、心配はいらない」


………なんか、微妙なんだよなぁ………まぁ、仕方がないか。取り敢えず、頑張ってみよう。

「それで、狩りにはいつ行けばいいの?」

「明日、だ。明日の朝に、お前用の武器を渡す」


明日かぁ………まぁ今日じゃなかっただけマシだな。それにしても、俺の武器か………やっぱり、あの誕生日に貰った杖は使わないのか?かれこれ、一年以上は放置されているというのに、一向に使う機会がやってこない。そもそも、何のために使うものなんだ?………考えてもしょうがない。


———本当に、異世界ってのは疑問が尽きないな………


「それじゃあ、今日は休んでおいてくれ」

父の言葉に、俺は思考の世界から現実へと引き戻される。少し、考え過ぎてしまった。それで、休め、か。………休めと言われると、かえって困るな………この世界には、娯楽が少ない。サイコロなどあるみたいだが、一人でやっていてもどうしようもないだろう。となると、暇を潰すのに最適なのは、そうだな………新たな知識を得ること、かな。


「お母さん!後で、魔王軍について教えてくれる?」

「えぇ、勿論いいわよ」


先程父の話でも出てきた、魔王軍だ。魔法や戦闘やサバイバルの知識はかなり集まってきたが、魔王軍の事はあまり知らない。何となくわかるのは、なんだか悪そうな奴らってことだけだ。だから、これはいい機会だろう。


「あぁ、そうそう。ジェリル?」

「………何だ?」

母が、家への扉に手をかける直前に振り向き、父の名前を呼んだ。


「あなた。やっぱり少しやりすぎよ。だから………今日の朝食は無し、よ」

そう言って、母は家の中へと戻る。


………残酷だ。突然朝食が消滅してしまった父の顔は無表情を保っているが………ひしひしと悲しみを感じる。そのまま父は、無言で母に続いて家の中へと入ってしまった。………色々と傷を負っているにも関わらず治癒魔法をかけてもらえないまま、俺は一人庭に取り残された。



「ちょうど一人になったし………」

バタン。俺は庭に身を投げ、仰向けに空を見る。………いい、空だ………。ぼーっと見ていると、頭に、色々と浮かんでくる。例えば、前世の事。未だに、何故俺が今ここにいるのかすら、分かっていない。まぁ、元の世界に帰るための研究は、村を出てからが本番………だと思う。それでも、何一つわからないというのは、少し不安だ。解く鍵は、あの巨大百足がいた洞窟………だと思うんだが、それも何も分かっていない。もしかすると、あれは現実では無かったのかもしれないし、偽物の記憶なのかもしれない。そのレベルの理解度だ。だが、魔力は万能らしいから何かしら調べる方法はあるだろう。………少しは、村にいるうちにも研究を進めておいた方がいいか………


「カルトー?ご飯、できてるわよ?」

「今行くよ!」

———色々と考えなきゃいけないことはあるが、今は、今のことを考えよう。


—————————

◼︎


その後、朝食を食べ、じっくりと魔王軍についての話を聞いた。聞いて、みたんだが………結構、恐ろしい組織であり、名実共にラスボス級ということが分かった。確か今までは、世界各地で暴れててかなり昔から存在している。としか知らなかった。まず魔王軍には、魔王軍直属の六嶺王という何だかどこかで聞いたことがあるような所謂四天王的存在がいるらしい。また母曰く、六嶺王に限らず魔王軍の連中はかなりの強者の集まりであり、異常者の集まりであるため、出会ったら死は免れないとか。全く、恐ろしい限りだ。前にも言った通り、魔王軍の主な活動はガティリア帝国周辺らしいので、そこらじゅうに魔王軍がいるわけではないのは幸いだ。だが、安心はできない。ここ最近、この村から近くもなく遠くもない微妙に距離のある村が魔王軍の襲撃を受けたらしい。目的は、不明だ。だからこそ、父は防衛する作戦を立てなければいけない。と、いうわけで、狩りは俺に任されたということだ。狩りの最中に魔王軍に出会ったらどうするんだと思い、一応対策を聞いてみたが、『全力で逃げろ』という何とも恐ろしい助言しか貰えなかった。これが、昨(・)日(・)にあった大体の出来事である。


というわけで………今日は、初めての狩りの日だ


「これが、お前の武器だ」

父に、小型のナイフを手渡される。ナイフ、ナイフかぁ。ナイフはリーチが、なぁ………。小回りは効くんだろうが、どうしても初心者に持たせるべき武器ではないのでは?と思ってしまう。まぁ、父はこれしかくれなかったので、恐らく今日はこれだけで頑張れ。ということだろう。


「今日はまず、森自体に慣れてもらう。今回の目的地は、南にあるキリヤナの滝だ。そこに行って、この瓶に滝壺の水を汲んで来てもらいたい」

父は追加で、俺に小さな瓶を手渡す。


ふむ?すぐに魔獣を狩れ。というわけではないのか。まぁ………それはそうか。流石に、初めての地で初めての狩りをたった一人でやらせるのは、酷だろう。


「それと、狩るのは魔獣だけだ。ただの獣を狩るのは、俺たちの仕事じゃない。俺たちの仕事は、危険な魔獣を村の安全のために狩る、それだけだ」

………狩りは………する前提だったのか………しかも、魔獣限定、ね。はぁ…………大きくて長ーい溜息が出てしまいそうだ。だが、やるしかない。


「それじゃあ、説明は以上だ」

………ん?かなり大事なものが、足りないような気がするが。


「えっと………地図とかは?」

「ない。説明は以上だ」

説明は異常だよスパルタ親父。地図が、無いだって?


「今回の目的は、森に慣れる事だ。だから、地図はない。迷って、迷って、辿り着け」

………今、とんでもないことを言わなかったか?要は、魔獣を狩りながら森を迷って頑張れ。ということだ。初めて狩りに行く子供にやらせることじゃないだろ!と思うが、俺に選択権はない。故に、従うしかないだろう。


「勿論、危険を感じた場合は逃げてもいい。最優先事項は、自分の命だ。だから、ちゃんと帰ってこい」

優しさの欠片もないような事を言われた後に、優しそうな事を言われてもなぁ…………まぁでも、諦めよう。うん。しょうがない。頑張るしかない。


不満。実に不満だが、俺は父に「わかった。行ってくる」としっかり告げ、少し危険な冒険の第一歩を踏み締め、扉を開ける。そしてこれは、俺の異世界生活における、重要な一歩と———「あぁそうだ」父が俺を引き留める。

………締まらないなぁ。


「魔王軍とだけは、絶対に戦うなよ。見た瞬間に、逃げろ。勝てるなどとは思うな。あいつらは『化物』だ。これで今度こそ、説明は以上だ」

………最後の最後で、恐ろしい事を言われた。俺は、まだ死にたくない。だから、父の言葉はしっかりと心に刻む。それじゃあもう一度気を引き締めて………


「それじゃあ………行ってきます!」


これは、俺の異世界生活における、重要な一歩となるだろう———!


俺の初めて冒険が、今始まった。


—+—+—+—+—+—+—+—

◆


「本当に、大丈夫なの?あの滝の周辺って、魔獣が沢山いるはずよね?」

夫の手によって、実の子供が少し危険な狩りへと送り出されるのを、物陰からひっそりと見ていたジリスが、夫であるジェリルにとても心配そうな顔を向けながら、そう問いた。


「いいや、大丈夫ではない。今の実力でも、魔獣と戦う事は可能だとは思う。だが、現実とはそう簡単なものではない。だから、初心者であるカルトには厳しいだろう。だから………ジリス。カルトに悟られないよう、後ろから着いていってくれないか?」

別に、隠れてろと言ったわけでもないのに何故か自分で物陰へと隠れたジリスに向かって、ジェリルは依頼をする。


「勿論、いいわよ。万が一、カルトが危険な目に遭ったら………助けていいのよね?」

「あぁ、勿論だ。だから、頼む」

そんな会話が行われた後、ジリスはササっと、異世界人である駆馬に言わせるならばまるで忍者のように、カルトの追跡を開始した。

ジリスに任せておけば、カルトが危険な目に遭う事は確実に無いだろう。ジェリルはそう確信している。


「………俺も、仕事を始めるか………」

一人家に残されたジェリルはそう呟く。

ジェリルには、大量の仕事が任されている。村の整備案に、資金調達。人員の派遣と配置。村民からの依頼や苦情。そして、魔王軍への対策。村長といえど、仕事の量は中ぐらいの領地を持つ貴族となんら変わりはない。故に———


「………おっと」


ジェリルの体がブラリと左右に揺れる。ジェリルは………疲れていた。疲れ、果てる。とまではいかないが、疲れていた。自分の、可愛い可愛い子供であるカルトとの剣術指導などなどは、ジェリルを疲れさせるに至らない。むしろ、ジェリルにとって子供との触れ合いとは回復薬と言える程の癒しだった。だが、実際に肉体から疲労が消え去るわけではない。村長としての激務による疲労は、蓄積され続けている。そしてさらに、ジェリルは最近、悩んでいた。悩ませるものの内の一つ。それは、魔王軍だ。脳裏に浮かぶのは、優秀な部下によって作り出された、ここ周辺の魔王軍による被害報告図。事態はかなり、深刻であった。


「魔王軍の目的、か………」

被害は、広がり続けている。だが、目的はわからない。目的がわからない以上、対策はより難しいものとなる。まだ、ジェリルが管理している地域は魔王軍に襲われてはいないが………いずれ、この村にも魔王軍はやってくるだろうと、ジェリルは予想する。

それに、原因は不明だが、最近この村の周辺の魔獣の発生数の増加も報告されていた。


「………ジリスに、カルト。それと、他の皆と………傭兵団のやつらにも、協力してもらうことになるかもしれないな………」

村民の大部分は、農民だ。故に、魔獣の討伐にしても、魔王軍との戦闘にしても、戦力は圧倒的に足りなかった。この村を護るために外部の力を借りることも、ジェリルは視野に入れなければならなかった。

だがしかし、戦力不足の問題を解消したとしても、ジェリルが解決すべき問題は、まだまだ山積みである。


「………頑張る。しか、ないな」

カルトも、頑張っているんだ。父親である俺が頑張らなくてどうする。

ジェリルは自分に喝を入れ、自分の仕事場へと向かう。




ジェリルは、疲れていた。




—+—+—+—+—+—+—+—

◼︎


「さて、と」

俺は今、薄暗い森に一人佇んでいる。目的地は、南にある滝。…………地図が、ないんだよなぁ。つまり、方向もわからない。距離もわからなければ、道もわからない。実に大変だ。

だが、


「悩んでも仕方がない、か」

とにかく、進むべきだろう。進まなければ、辿り着くことは絶対にない。闇雲に進むことも、時には大切だろう。ならば、進まねば。


「よしっ」

気分的にはこの少し危険な冒険の二歩目であり、実際には、二十から三十歩目かを踏み出して———


「!」

森の奥の方から物音がした。待てよ、早速戦闘になるのか?流石に、早くないか?まだ、森に入って一歩目だぞ?


『ガサッ』

「………!」

奥の茂みから、何(・)か(・)が出てくる。あれは………兎、だな。どっからどう見ても、兎だ。もふもふしてて、愛らしい顔をこちらに向けている。いたのか、この世界に。とても可愛らしいが、俺は警戒を解かない。魔獣である可能性は、十二分にある。………が、魔石は………なさそう、だな。どこにも見当たらない。それじゃあ、魔獣じゃないだろう。よし、安心だ。それにしても………


「………可愛い、な」

もふもふしてて可愛い。少し、撫でたくなる。だが、構っている暇はないんだよな………


「ぐ………」

悲しいが、進むしかない。俺は可愛らしく首を傾げている可愛らしい兎をスルーし、森の奥へと進む。………森は、思ったよりも静かだった。所々に日の光が差し込み、薄暗い森を照らしてくれている。気温も、丁度いい。暑くもなく、寒くもなく。湿気もそこまでないから、ジメジメしていなくて気持ちがいい。ん?また、兎だ。可愛い。結構普通に居るんだな。この短時間に二匹も出会うとは…………でも、一昨日に父と森へ行った時は一回も見かけなかった筈なんだが………


「ん?」


今の兎の首元、何か見えた気が………ん?


「うぁっ!」

父のスパルタ修行によって鍛えられた反射神経によって手元のナイフで咄嗟に攻撃を防ぐ。油断した………こいつは魔獣だ!ていうか、こいつの攻撃方法………噛みつきじゃなくて飛び蹴りかよ。


「キュィ」

ナイフに薙ぎ払われ地面へと降り立った兎………魔獣だから魔兎(まっと)が、鳴いている。確か、鳴き声は、感情によって変わるんだよな?じゃあこれは、どういう感情なんだろうな………って、そんなこと考える暇はないな。こいつは、ただの兎じゃなく、魔獣だ。


「うぅ、ごめんな」

だが魔獣とはいえ凄く可愛いので、流石に躊躇ってしまう。だが、容赦していては俺が死んでしまう。それだけ魔獣は危険だと父と母から教わった。だから………


「やるしかない」

俺はしっかりとナイフを構え、魔兎と相対する。体格差はあるが、もう油断はしない。しっかりと見極めて———!


「ここだ」

飛びかかってきた瞬間を狙い、ナイフで突き刺す。ナイフ越しだから温度を感じる事はないが、生々しい感覚はしっかりと伝わってくる。この感覚は苦手、だな。だがこれも生きるためだ。


「———ゥゥ」

ナイフに突き刺され魔石が割れた魔兎が地面へと落ちる。その瞳からは生命を感じられない………………罪悪感が、もの凄い。魔獣とはいえ、罪悪感がもの凄い。解体をしてしっかりと埋葬はしたいが………流石に、一回で覚えきる事は出来なかった。………解体をせずに土に埋めるしかないか………


「ごめん、な」

俺は謝罪をしながら魔兎を土へと埋める。でもやっぱり、罪悪感がな………『ガサッ』


「?」

またまた葉と何かが接触するような音が聞こえ、その方向を見る。


「………勘弁してくれよ………」

どうやら世界というのは残酷で、初めての狩りの場をここにした父もかなり残酷でスパルタなようだ。もふもふふさふさの可愛らしい体が、周りの茂みから沢山出てきた。だが勿論………首元には黒い魔石が輝いていて………


「「「キュィー!」」」

「マジか」

大量の魔兎が俺に飛びかかってくる。避けて、ナイフで刺して、避けて、ナイフで刺して、魔法で攻撃して、ナイフで刺して、可愛らしい魔兎が一匹二匹と地面に倒れ込み動かなくなる光景に心が痛む、が!今はそんな場合じゃない。今現在、俺は完全に、生命の危機に瀕している。だから必死に、ナイフで刺して、ナイフで刺して、ナイフで刺して、ナイフで———待て待て待て待て。多くないか?一向に、数が減る気がしないぞ?


「「「「キュィー!」」」」

大量の魔兎が一斉に鳴く。これはマズイ、かなりマズイ。数が多すぎて、処理が追いつかない。どうする、どうする!?


「「「キュィー!」」」「「「キュィー!」」」「「「キュィー!」」」

静寂だったはずの森の中は鳴き声によって埋め尽くされる………待てよ、どこに、ここまで大量の魔兎が隠れていたんだ?あの静かな森の中、これほどの数の魔兎が息を潜めてたとは考えにくいが………


いや、そうか。魔兎は、魔獣だ。ただの獣じゃない。つまり………


「魔法、か!」

そうだ。魔獣ということは、魔力を持つということ!魔力を持つということは、魔法を使えるということ!そして魔法は………万能だ。


となると選択肢は限られてくる。

①増殖 ②幻術 ③繁殖加速 こんなとこか。③は………ないな。結局元から大量に居たことになるからな。………まぁ、戦闘が終わったら共食いして数を減らすとかいう物騒な性質があったりしたら成り立たないんだが………極論はこの場合一旦無視だ。次に、①。これも③と同じ理由でないはずだ。となると、②………いや、ナイフの感触はしっかりと伝わってくる。だから、実態はある。………ん?じゃあ、なんなんだ?


「「「「キュィー!」」」」


やっぱり、マズイな。考えてる間にも魔兎はどんどん増え続けているみたいだ。早くカラクリを見抜いて、対処法を考えないと………ん?


俺は超大群と化した魔兎の集団にふと違和感を覚える。群れの中でも、後方にいる魔兎の体には、魔石が付いていない。気のせいかと思ってもう一度しっかりと見たが、付いていない。それに、一向に襲いかかる気配はなく、じっとこっちを見続けている。………怪しいな。


「『火矢』」

とりあえず………攻撃だ。勘というのは、意外と頼りになる。ひとまず、小手調べということで火矢をお見舞い。———命中。


「………そういうことか!!」

魔石が付いていない兎に命中した瞬間、群れの中から魔石付きの魔兎が3………いや、4、5か?数はどうでもいい。とにかく複数体、体が解けるように消滅したな?それともう一つ。俺が捌き続けて殺していたはずの大量の魔兎たちの死骸が地面に落ちていない。つまり………


「魔法を使っているのは………魔石が無いほうか!」

魔石がないと魔法は使えないため、実際は体内にあるんだろうがな。そして、魔法の詳細とは、実体のある増殖品………簡単にいえば、分身か。………いや、なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだ?やっぱり、戦闘中だと思考が裂かれて「———キュィッ!」っと危ない。鋭い飛び蹴りが俺の首筋目掛けてやってきた。やっぱり戦闘中に油断はできないな………


だが、


「種は、分かった」

要は、魔石が付いていない個体を狙えばいいって事だ。………今少し思ったんだが、確か父は、「獣は殺すな」と言っていた。でも、今回の敵は魔石が体表に無くて一見すると獣に見える魔獣………これは、や(・)っ(・)た(・)な?


「………やっぱり、スパルタじゃねぇか」

だがもう見抜けた。あとは………ぶっ放すだけだ。


「『大いなる大地を統べる土の精霊よ』」

詠唱なしでは、威力が足りないだろう。だから、豪華に全部乗せだ。


「『今こそ、我らが英雄賢者アルテロの意思を継ぐものに力を与えたまえ』」

俺が思い浮かべるのは、父の姿。あの、スパルタだが優しい父の、勇ましい姿。


「『土槍・雨(ダートスピア・レイン)』」


詠唱終了と共に空中に形成された無数の土の槍が魔兎を狙う。その矛先は、いずれも魔石が体表にない真の魔兎に向けられ………


「可哀想ではあるけど………死んでくれ」


無数の槍により貫かれた魔兎の生命が潰える。そして、俺の周りにいたはずの大量の魔兎は全て解けるように消え、周りには20体ほどの魔兎の死体だけが残された。


「………よし」

この場に立っているのは、俺一人。俺は、初めての勝利の味をグッと噛み締めて———『ドガン』


「あ?」

突如森に響く爆音。それにより森が揺れ、騒ぎ出す。恐らく方角は………俺の目的地である滝があるはずの南だ。

…………行く、か?突然のことで、何が何だかわからなかったが、なにか異変が起こったのは間違いないだろう。でも、魔兎を倒したとはいえ、狩りは終わってない。今回の目的は、滝の水を持って帰ること。敢えて何だか危なそうなところに行く必要はない。でもやっぱり好奇心はある。とてつもない音だったし、もしそこに辿り着けた場合、確実に何かはあるだろう。もし何かがあったとしても、先程の戦闘では詠唱のおかげで魔力を節約できたから、まだまだ残っている。だから、逃げるぐらいは出来るだろう。

うーん………


「行くか」

寄り道した事は、バレたら謝ろう。まぁ、どうせバレないとは思うが。いや、そもそも悪い事じゃないのか?迷えとも言ってたし………ま、今はいいか。


「今は、進むだけだな」

そう呟いた俺は、音が聞こえた方向へと歩み始める。好奇心に釣られ、一直線に。


—+—+—+—+—+—+—+—

◆


「はぁ………なんだか今年は、数が多いわね」

息子を見守りながら、大量の魔兎をまるで忍者のように静かに殺し、回収し、埋葬したジリスは嘆く。息子を見守りながらの駆除ではあるが、一切の苦戦はなかった。魔兎………正式名称は増兎(ぞうと)で、名前の通り増殖魔法を使用し大群で襲ってくる性質を持つ魔獣だ。だが、仕組みさえわかってしまえば、倒すのはそう難しいことではない。現に、ジリスは襲いかかってきた増兎の全てを一撃で倒していた。


だが、ジリスは嘆く。何故なら。


「数が多いせいで、カルトが頑張ってるところを集中して見れないじゃない!」

襲いかかってきた増兎を魔法で貫きながら再び嘆く。ジリスは、カルトの母だ。故に、晴れ舞台はしっかりと目に焼き付けておきたい。


親としての、どうしようもない本能であった。


—+—+—+—+—+—+—+—

◼︎


「こっち………だったか?」

俺は、森の中を進んだ。進んで、進んで………迷ってしまったのかもしれない。というか、迷った。あの後もちょいちょい魔兎たちが襲ってきたせいで、方角が曖昧になってしまった。多分、南には進めていると思うんだが………心配だ。本当に、こっちだったか?


「まぁ、考えても———」

仕方がない。そう言おうとした。だがその瞬間、本当に、本当に小さな音ではあるが、何か異音が聞こえた気がした。だが、森に吹く風によってその音はすぐにかき消される。それでも、


「多分、こっちだ」

大体の位置はわかった………気がする!少し不安だが、滝か、音の現場、それとも獣、魔獣………やっぱり不安になってきた。そうだよな………別に、虫の鳴き声かもしれないし………俺が探し求めてるものとは違う可能性の方が高いか………?


「いや、うーん………」

不安になりながらも俺は歩みを止めず、葉っぱをかき分けて進んでいく。ん?


「今度は、確実に聞こえたぞ」

風の音の合間に、確かに聞こえた。水が流れる音だ。


「………こっちだな」

今度は確信を持って、葉っぱをかきわける。………あそこ、森が開けてるな。水の音も大きくなった。これは………!


「あったぞ………」

滝、だ。


滝は、崖の中腹にある洞窟のような空間から流れ出ている………ん?この崖、遠くからでも見えそうなぐらい高いんだが………俺、鈍感過ぎないか?………まぁ、着いたものは着いた。えっと、水を………この瓶に入れるんだな?


「………これで、いいだろう」

無事に、滝壺から水を掬い、瓶の蓋を閉める。これで、父から与えられた狩りの仕事は終了………でも、


「やっぱり、気になるよな」

あの音は、やっぱり気になる。大きな音だったからな。好奇心は、抑えない方がいい。俺の持論だ。だから、俺は少し探すことにした。


—————————

◼︎


音の発生源は、すぐに見つかった。滝から、およそ150メートルほど離れた所に、それはあった。

それは、馬車だった。ベタな感じで言うとすれば、馬車だったモノ…だろうか。横には、高い崖が聳え立っている。恐らく上から落ちてきたんだろう。馬は死に、馬車は完全にひしゃげ、潰れている。近くには、馬乗りと思われる死体もあった。


「おぅぇ」

俺は吐いた。死体を見て吐いた。自分の好奇心を呪った。こんなことなら、見なければ良かった。来なければ良かった。そう思った。初めて見る人間の死体は、死というものは残酷で、不条理なモノであることを証明するかのように、馬車と同じく無惨にひしゃげていた。

「ぅぇ」

死体から発せられる悪臭により、再び嗚咽感がやってくる。


「———ぅ」

「!」


今のは俺の声じゃない。多分、馬車の中だ。馬車の中から、声が聞こえた。もしかして、生存者———

「え」


馬車の中を確かめようと、嘔吐し汚れた口を拭った時、俺は驚愕した。そこに居ないはずの人物が木の上から飛び出してきたからだ。

それは、俺の母であるジリスだった。


「なんで、ここに………」

「話は後でするから!今は、中の人を助けましょう?」

「う、うん………」

母は早急に俺との会話を終わらせ、馬車の中を確認する。続いて、俺も中を見た。


中には、俺と同じ………いや、少し年下に見える少女が、血だらけで倒れていた。


「出血が、多すぎるわね………でも、まだ生きてる」

母は慣れた手つきで少女を診断する。そういえば、母は教師を目指していた。だから、医療知識もあるんだろう。


「………やるしかないわね………カルト!水を頂戴」

「水?あの、滝壺の———」

「いいから早く!」

急かされ急いで水が入った瓶を渡す。


「ふぅ………っ!」

母は少し息を吐いた後、一気に水を飲み干した。その時、母の顔が少し苦痛に歪んだ気がした。


「これで、大丈夫なはずよ」

「———?」


何が大丈夫なのか。一瞬わからなかった。だが、すぐに理解した。少女の傷が、治っていたのだ。目を話した隙に、完治………とまではいかないだろうが、傷は塞がっているように見えた。


「これで、応急処置は完了ね………カルト。私はこの子を村に運ぶから、あの水をもう一度汲んできて頂戴」

「………うん。わかった」


母は俺の返事を聞いた瞬間、少女を抱え、森を駆け始めた。ぴょんぴょんぴょんぴょん、森の木々を悠々と飛び越える姿は、まるで忍者のようだった。


「………」

俺の心中は、後悔や自責とかの様々なダークな感情の詰め合わせ、闇鍋状態だった。

何となく、俺は穴を掘り始めた。証拠隠滅とか、そんなくだらなくて悪意のあるモノじゃない。ただ単に、弔いたかった。すでに死んでしまった、馬とその乗り手を、弔いたかった。葬送の仕方は、間違っているのかもしれない。でも、この場に放置する訳にはいかなかった。


死体を土に埋めた俺は、母に言われた通りに再び滝壺から水を汲み上げ、真っ直ぐに村へと帰る。

幸運なことに、帰り道に魔獣と接敵する事はなく、悲壮の中、不気味なまでに静かな森の中を一人孤独に歩むことができた。


—————————

◼︎


「………」

父と母は、村唯一の医者と共に少女を治療している。でも俺は無力だ。無力だから、邪魔はできない。扉の前で、治療が終わるのを待つしかできなかった。


「………!」

扉が開かれ、父が出てきた。治療が終わったのか、何なのか。分からない。


「………すまなかった」

開口一番に放たれたのは、謝罪だった。そして次に頭を撫でられる。

「勿論、お前のせいじゃない。あれは事故だ。それにもし、お前があの場に居なかったとしたら、あの少女は助からなかっただろう」

それは、つまり………少女は。馬車の中にいた少女は、死んでいないということか。そうか。それなら………良かった………


「だがそれでも………辛かっただろう」

「………」

俺は何も言わない。


「死とは、皆平等に訪れる。訪れる順番が、人それぞれに違うだけだ。だから、お前が責任を感じる必要はない」

「………」

俺は何も言わない。言えない。


「お前は、まだ子供だ。責任を背負う必要はない」

「………」

俺は何も言わない。言えない。言えなかった。


「だから………」

「だから、何?」

突然の返答に、父は出かけていた言葉を止める。そして、バツの悪い顔をした。


「悲しむな?無理、だよ。俺が悪いとか、悪くないとかじゃないんだ。責任とかじゃ、ないんだ。俺は、好奇心であの場所に行ったんだ。それで、見つけた。好奇心で見つけたってところが、駄目なんだ。よく分からない。よく分からないけど、どうしようもなく申し訳なくて、情けない気持ちになるんだ…………だから、だから………っ!」


涙が込み上げてくる。自分が悪くないのは、理解できる。理解できるが、逃げれない。自分が背負う必要がないことも、理解できる。でも逃げれない。俺の心が、逃げることを拒んでいる。

ただ、どうしようもなく、無力で、悲しくて。


父は、何も言わずに俺の頭を撫で続けた。今一番必要なのは、とにかく泣いて、気持ちの整理をすることだろうと考えたのか、何も言わなかった。


俺は精神年齢から見ると情けないが、とにかく、泣いた。



魔石が体表にあるか体内にあるかは、生物としての自信で決まります。つまり、白魔狼は自分が強いという自信がある、ということです。逆に、魔兎ちゃんは生物としてはよわっちいので体内に隠してあります。


因みに、詠唱は適当でも効果はあります。

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