獣人王国の精霊使い 2
たどり着いた城塞都市の壁は、建物三階分近くあった。
たぶん、巨大な岩を削りだして作ったのであろうその壁に、やはり石でできた黒い扉がついている。大きくて両開きで、馬車があればそれごと通り抜けられそう。ただし、ぴっちり閉ざされているそれを開けることができれば、の話だけど。
壁の上には通路があって、そこには見張りの兵士らしい獣人が数人立っている。こちらを見て、戸惑っているような感じが伝わってくる。
「自ら開く……って、つかむところもねぇぞ。押すのか?」
ヴァレオさんは扉を押してみたり、ざっと調べてみたりしてから、壁の上を見上げて呼びかけた。
「おい、開けてくれ」
「我らが都市は、自ら扉を開く者を受け入れる!」
決まり文句なのか、すぐに返事があった。
「あぁ? これを、自分たちで開けろって?」
いぶかしげなヴァレオさん。鎧獣人ですら、この扉を開けるのは無理そうに見える。
「長、どういう意味でしょう」
グラーユさんに聞かれ、長は首を横に振った。
「わからん……その部分の記憶も、私の中にはないようだ」
私はヴァレオさんにだけ聞こえるように、そっと囁いた。
「ヴァレオさん、この扉ね、一部に精霊石が使われてるみたい」
「何? ふーん……すず、開けられるか?」
「む、無理。石の精霊たちも、ふーんって感じで、あたりを飛び回ってるだけだし……」
私は扉を見回す。
ふと、ヴァレオさんが自分の顎をなでた。
「待てよ。こういう場面、あったぞ。あの時の、長の記憶……」
「長の記憶って、ミゾラムさんを止めるときにちらっと見えたっていう?」
私の問いに、ヴァレオさんはうなずく。
「確か、手の甲を当てて……こう唱えるんだ」
彼は手の甲の、金属状になっている部分を扉に当て、軽く息を吸い込んでから言った。
「『強き鎧よ、その身の内に汝の血を受け入れよ』」
扉から、黒く半透明の姿をした数体の精霊が飛び出し、ヴァレオさんの頭の周りをぐるりと回った。ヴァレオさんは見えていないようだ。
私は息を呑んで、その様子を見つめた。
言葉だけじゃ、ない。ヴァレオさんはたぶん、頭の中に何かのイメージを描いていて、それを扉に宿る精霊に読み取らせている……
精霊たちがキラキラと光を舞い散らせ、喜びの感情が伝わって来た。そのとたん。
パシュッ、と、扉の境目に赤い光が走った。扉がこちら側にゆっくりと開いてくる。
「おーし」
満足気にヴァレオさんは他の獣人たちと顔を見合わせ、私にもうなずきかけて、壁の上の警備兵に声をかけた。
「開いたんだからいいよな、入るぞ」
「ど、どうぞ!」
妙に腰の低い警備兵が、うわずった声を上げる。私たちはずらずらと、壁の中に入っていった。
入ってすぐに、絶妙なバランスで組まれた石の門があって、その向こうに石造りのお城が見えている。その手前の跳ね橋が、降りるところだった。門の手前で待っていると──
降りきった橋の向こうに、数人の人影が見えた。彼らはこちらに渡ってくる。
「摂政! この方が、こちらの門を開かれました!」
警備の兵が叫ぶ。
「……何だ?」
ヴァレオさんがあたりを見回して、眉をひそめる。
「門を開けただけで、変な反応だな。ここの都市の奴なら、誰でも開けられるんじゃねぇのか?」
そこへ、やや低めの、柔らかい声がした。
「よくぞ、お戻りになられました」
渡ってきた人影の、先頭の人物が、門の陰から明るい場所に姿を現す。私はびっくりして、息をのんだ。
美しく流れ落ちる白金の髪、琥珀の瞳、妖艶な赤い唇。頭をぐるりと帯状に覆う冠をつけ、真っ白な甲冑の肩に首と肩を覆うマントを巻き付けたその人は、片膝をついてヴァレオさんを見上げる。
「王家の血筋に連なるお方。どうか、我が主になって下さいませ」
「あ? 王家?」
ヴァレオさんが片方の眉を上げる。
「この都市にある三つの門。あなたはそのうちの王家の門を、正しい言葉を唱え、精霊にお命じになり、お開けになりました。あなたこそ、王位を継ぐお方」
妖艶な人はどこかうっとりした表情で、そう答える。
「人間たちはここを『自治都市』と呼んでおりますが、我らにとってここは王国。王が不在の間、私の一族がその代理を務めておりましたが、ついに王がお戻りになられた!」
ヴァレオさんが目を剥いて何か言おうとした時、その妖艶な獣人のすぐ後ろにいたおつきの人らしき人が、軽く目を見開いて私を見た。
「なぜここに、人間が?」
「え……あの」
私はうろたえて、あたりを見回した。そういえばこの都市の関係者たちは、獣人ばかりだ。
ここには、人間が……いない……?
「まあ……」
妖艶な獣人は私を見て、やはり目を見開いてから、微笑みかけてきた。
「お連れの方ですね、一緒にご案内します。さあ、まずは旅の疲れを癒してくださいませ!」
鎧獣人の都市はとても大きくて、畑とか小さな牧場などもひっくるめて壁に囲まれ、中で自給自足できるようになっているようだ。山の中腹なので、都市の敷地は傾斜していて、私たちは数か所ある門のうち一番高い場所にある門――王家の門――から入ったみたい。低い方にある二か所の門も、ここに住む人たちが出入りに使ってるんだけど、王家の門とは開け方が違うそうだ。
さっき見た跳ね橋の向こうが、この都市というか王国の、お城だった。お城はいくつもの石造りの建物が繋がっている形で、一部は山の内部へと掘り進めて作られている、特徴的な作り。私たちはそんなお城に、すんなりと受け入れられた。
摂政と呼ばれた妖艶な人はどこかへ行ってしまい、私たちは若い兵士に案内されて渡り廊下を歩いていた。向こうの方に厩舎が見えて、ソルティたちはあそこに入れてもらったらしい。
「さっきの人、摂政と呼ばれてるってことは、君主の代理なんだよね?」
グラーユさんが誰にともなく尋ねる。
「つまり、君主だった、もしくは君主になるはずだった鎧獣人が、ユグドマに連れ去られた? それで摂政が代理を務めていた……」
「その君主が、戻ってきたって言ってましたね。それが、ヴァレオさんだって……」
私がつぶやくと、ヴァレオさんは声を抑えながらも勢いよく言った。
「待ってくれ、俺は記憶から読みとった言葉を唱えただけだ。王位継承権者がどうとか言ってたが、王位だか何だか受け継ぐなら長だろ?」
「さぁなぁ。何しろ私は忘れてしまっているからなぁ。ヴァレオ、後は頼んだよ」
珍しく丸投げの長。
はっと見ると、長の足下がふらついていた。そうだ、体調があまり……きっとしんどいんだ。
「長は休んでてくれ。その間に、事情を明らかにしとくからな! くそっ、この俺のどこが王だってんだよ」
ヴァレオさんは長に手を貸しながらも、イライラぶつぶつ言っている。
「この並びの部屋を、お使い下さい」
若い兵士さんが示したのは、石畳の廊下が続く棟だった。
ずらりと並んだドアは全部開け放されていたので、部屋の中をのぞいてみる。鎧獣人の城らしく、石の壁に丸天井。無骨な作りではあったけど、ベッドには天蓋がついているしカーテンや絨毯は高級そうだし、もし地球に「中世の城に泊まってみようツアー」みたいな旅行プランがあったらこんな感じじゃないかな、と思う。実際ありそうだなぁ、調べたことないけど。
グラーユさんが長に手を貸して、
「とにかく、長は休ませてもらおう」
と一番手前の部屋に入っていった。
「あのな、俺たちはこんなご立派な城に部屋を持つような身分じゃねぇ。あんたら兵士はどこで寝泊まりしてんだ? ちょっとその辺に泊めてくれりゃ」
ヴァレオさんが言ったけど、兵士さんはちょっと困ったように言った。
「そういうわけには……ご容赦下さい」
私はそっと、ヴァレオさんのチュニックの裾を引く。
「ヴァレオさん、あの摂政さんとゆっくり話ができるまではしょうがないよ。兵士さんが困ってるよ」
「しょうがねぇな……今日はとにかくここを使わせてもらうが、話したいことがあるからさっきの偉いさんと会う時間を取ってくれ」
ヴァレオさんがあきらめたように言うと、兵士さんはうなずいた。
「わかりました、伝えます。ではこちらの部屋を。そちらの人間の女性は……」
「妻だ。一緒でいい」
ヴァレオさんはさっと私の手を引くと、
「皆、とりあえず部屋を決めちまってくれ」
と一行に声をかけて手近な部屋に入ってしまった。私は戸惑った気分で、ちょっとうつむいてそれに従った。
すぐに他の獣人たちも、「じゃあ俺はここ」「じゃあ私はこっちで」と部屋に入っていったみたい。開けたままのドアから、そんなざわめきが聞こえた。
「あぁ、参った」
ヴァレオさんが、肘掛け付きの椅子にどっかりと腰掛けて頭をわしわしとかいている。私は荷物を部屋の隅に置きながら、ぽそっと言ってみた。
「巫女姫じゃないのに巫女姫やらなきゃいけなかった私の気持ちが、少しはわかった?」
「ぐっ……わかった、理解したよ。この、足場が急に高くて狭くなった感じっつうか……あー」
ヴァレオさんは天を仰いでため息をつくと、私を手招きした。
「すず」
近寄ると、ヴァレオさんは私の手を引いて膝の上に抱き上げた。もはや、ドアが開いていようが開いていまいがお構いなしよね。
「疲れただろう、大丈夫か」
私の顔を覗き込み、じっと見つめているヴァレオさん。
「うん、割と平気」
私はそう答えはしたけど……そっと、ヴァレオさんの太い首に手を回した。
一応歓迎されている様子の私たちだけど、いくつか、とても、不安なことがあったのだ。
「あの……私、ここで……」
言いかけた時。
コンコンッ。
いきなりノックの音がして、私は「はいっ」とヴァレオさんの膝から飛び降りて直立してしまった。
「失礼」
開いたままのドアから顔を出したのは、グラーユさんだ。
「どうした」
「ごめん、伝えておきたいことがあって」
グラーユさんは中に入ってきて、言った。
「この棟に来るまでの間に、その辺の兵士をつかまえて聞いたんだけど……ここさ、人間がいないんだよ」
「いない?」
ヴァレオさんが眉を上げる。私は黙っていた。やっぱり、と思ったのだ。グラーユさんが私を見る。
「すずは気づいてたみたいだね。……この、山の中腹にある都市はまるごと、鎧獣人だけの都市なんだ。山を下りていけば人間の町や都市はいくつもあって、そこと取引はしてるそうだけど。道理で、僕やすずはじろじろ見られるわけだな、と」
グラーユさんは、人間と鎧獣人の混血。鎧獣人の男性は、甲冑を身につけていなくても肩が金属になっていて、首周りともども盛り上がっているんだけど、彼はそれがほとんどなくて見た目は人間に近い。人間にしては強靱だけど、丸装化はできない。
「ユグドマの集落も、まあほとんど鎧獣人だけの集落だったけど、一応人間もいた。でもここは本当に、人間は住んでないみたいだ。別に、住むことを禁じられてるわけではないみたいだけど、完全に住み分けてるんだね。……なんて言うか、不安な気分になるもんだね。僕やすずは明らかに、ここでは弱者だから。歓迎はされてるけど、すず、あまり一人にならない方がいいかも」
「はい。グラーユさんも、気をつけて」
「うん、一応ね。他の混血のやつにも言ってくる」
グラーユさんはにこりと片手を上げると、部屋を出ていった。出る時にこちらをちらっと見て、ちょっと笑って扉をずいぶん丁寧に閉めたのは……ええと、なんかすみません。
「そうか……それで、不安そうな顔をしてたんだな」
ヴァレオさんが立ち上がり、私の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。私は頭をぐらんぐらんさせながらも、答える。
「う、うん。獣人と人間と、くっきり分かれてたら、どんな風に暮らすことになるのかなって……」
私が言うと、ヴァレオさんはぎゅっ、と私を抱きしめた。
「俺たちは一緒だ。……あのな、それなら言っておく。俺たちユグドマから来た一行は、おそらく……数人は、この都市を出て行くと思うぞ」
「え」
私は顔を上げた。ヴァレオさんは無骨な手の甲で、私の頬をそっと撫でる。
「長はもちろん故郷に帰りたかっただろうし、たぶんこれから血縁の消息をたどるんだろう。でも、ユグドマで生まれて育った獣人や、ユグドマ人との混血のやつらの中には、ここに馴染まないやつもいると思う。この一行に、最初から加わらなかったやつもいるくらいだしな」
確かに、鎧獣人と結婚したユグドマ人女性、ついてきていない……
ヴァレオさんは続けた。
「自分たちの源流を知りたい、その気持ちがあるやつが、ここへやってきた。でもそこから先は、それぞれが決める。そうしよう、と話し合った。俺も、もしお前がここの居心地が悪いって言うなら、お前と一緒にここを出ても構わないんだ」
私は言葉に詰まって、目をそらした。ヴァレオさんがまた私を、腕の中に抱く。
「ばか、心配すんな」
でも……でも、ヴァレオさん。
巫女姫でなくなった私は、こちらの世界ではただのひ弱な女の子だ。そんな、何もできない私のために、この都市で見つけるかもしれないヴァレオさんの生き甲斐を無駄にして欲しくない。
ああ、だめだめ。思考が悪い方へ行ってしまう。そうじゃなくて、人間の私でもここでやれることを考えないと。
私にできること……何がある?
……精霊使いの、力を、鍛えたら……?
神殿の地下でのミゾラムさん、記憶を失って悩んでいるミゾラムさんが脳裏をよぎり、背中がぞくっとした。
そこへまた、ノックの音がした。
「おう」
ヴァレオさんが私の肩を抱いたまま返事をすると、さっきの若い兵士さんが顔を出した。
「摂政が、お会いになります。今お時間よろしければ、ご案内します」
「わかった。……長は、今は休んでた方がいいだろうな」
ヴァレオさんは私の肩を押すようにして、扉の方へ踏み出した。
「行こう」
「え? う、うん……」
私も? と思いつつ、でも一人になるのも怖い。一緒に歩き出しながら、私はもう一つの不安が頭の中でぐるぐる回るのを感じていた。
「名乗るのが遅れて、失礼いたしました。摂政を務めております、ルザミと申します」
摂政さん――ルザミさんは、艶やかな唇で微笑んだ。
中庭に面したバルコニー。石のテーブルに、背もたれが綺麗な透かし彫りになっている鉄か何かの椅子。私たちはそこで話をしていた。
「何はともあれ、今夜は歓迎の宴を開かせて下さいませ。失われた同胞が戻ってきたのは確かなのですから」
長いウェーブヘアと緑青色のマント、銀の幅広の額飾りが似合うルザミさんは、本当に嬉しそうだ。
ヴァレオさんは、まだ態度を決めかねているような感じで答える。
「俺たちの親世代が、なぜここを離れなければならなくなったかは、知っているのか?」
「いいえ。ただ、当時の状況から、こうだろうと言う憶測は」
ルザミさんは引き締まった表情になる。
「精霊の力が働いた跡が、あったようです。自らの意志ではなく、精霊の力によって山脈の向こう側へ行ったのですね」
「そうだ」
ヴァレオさんは、だいたいの事情を語り始めた。
ユグドマ軍に所属していた精霊使いたちに、おそらく一人ずつ狙い打ちにされ、何らかの手段で山脈を越えさせられたと思われること。血縁の記憶を奪われて、故郷に戻れなくなったこと。記憶を盾に取られて、戦争に手を貸さざるを得なかったこと──
「今では、そういう精霊使いは罰せられる。俺たちは甲冑師として暮らしていたんだが、俺がちょっとしたきっかけで、当時の記憶の一部を取り戻したっていうか、のぞき見ることになってな。それで、この場所へ帰る手がかりを得た」
ヴァレオさんはちらりと私を見てから、ルザミさんに続きを話す。
「俺はユグドマの生まれだ。扉を開ける合い言葉は、ここで生まれた長の記憶にあったもので、俺の記憶じゃない。一応、俺の系図について調べてみてもいいが、王家に連なってるのは俺とは思えない」
「けれど、どちらにせよ、その記憶はあなたに渡ったのです」
ルザミさんは微笑んだ。
「王家の血のつながりも大事ですが、記憶があなたにつながったということも、私たちは重視します。言葉と記憶を持ち、精霊によって認められ、扉を開けたのがあなただった。そのことこそが、あなたが王位を継ぐ権利を持っているという証なのです」
「本気かよ」
ヴァレオさんは呆れたように天を仰いだけど、私は何となく納得していた。
あの、神殿の地下で起こったことを、私は見てたもん。ヴァレオさんはミゾラムさんの行動を阻止して、皆を守った。そんな彼に、大事な記憶が渡ったことが、良かったなぁと思えるんだ。
ルザミさんは、私に視線を移して微笑んだ。
「連れ合いの方だそうですね。私たちの鍛冶の技で作る製品の取引の場で、人間の男性と話をすることはありますが、人間の女性とはほとんど会ったことがないので新鮮ですわ。なんて小さくて、可愛らしいこと」
「お世話に、なります」
私は小さな声で言った。
全然、褒められている気がしない。ルザミさんにその気がなくても、私には「力も弱そうだし、役に立たなそう」と言われているように聞こえた。
「すずだ。ここには人間が住んでいないようだが、こいつは俺の妻だ。良くしてやってくれ」
ヴァレオさんが元気づけるように、私の肩を叩いてくれる。ルザミさんは満面の笑みを浮かべた。
「もちろんですわ、こちらこそよしなに」
その笑みがとても綺麗で、一瞬見とれてしまった私は、あわててまたうつむいた。
ヴァレオさんとルザミさんは、今後の話を始めた。
ユグドマから来た一行が、ここの獣人たちの暮らしを見たいと希望していること。自分たちの持つ技で仕事ができるならしたいこと。そして、合わないと感じたらここを出ていく自由がほしいこと。
「もちろん、みなさん一人一人は自由です。思うままに、これからのことをお選び下さい」
「俺も、そうさせてもらうからな」
ヴァレオさんが念を押すように言うと、ルザミさんは軽く身を乗り出した。
「ええ、はい。でも、私は是非、貴方にここを統治していただきたいわ。お側で、全力でお助けしますから」
ヴァレオさんは、軽く鼻を鳴らした。
「妻や皆と相談して決める」
「すずさん、貴方が夫にした方は人の上に立つ素質のある方だと思うんです。すずさんもそう思われません?」
急に振られて、私はあわててしまった。
「あ、はい、えっと……ユグドマでもそんな感じでした」
「でしょう?」
嬉しそうなルザミさん。
「もしヴァレオ様がここの王になられたら、すずさんは王妃様ですわね!」
私は戸惑って、むっつり顔のヴァレオさんに目をやったけど、またうつむいた。
無理。ヴァレオさんが王様っていうのは、正直すごく似合ってると思うけど(偉そうだし)、私が王妃っていうのはあり得ない。無理。
「その話は後だ、後」
ヴァレオさんの不機嫌そうな声に、ルザミさんはあくまでもにこやかに答えた。
「ええ、急ぐことはありませんわね。まずは明日、ここを見学なさって……それから、あなた方の長のために、当時のことを知っている者を呼びましょう。今はとにかく長旅の後ですから、ゆっくりなさって? 夕食はここの下の広間に用意させますから」




