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招かれざる客人

非常にあっさり風味ではありますが、今回は少し戦闘描写があります。

苦手な方はご注意ください。



 協会に行っただけでなぜかどっと疲れましたが、僕の一日は自宅に戻っても、まだ全然終わりではありませんでした。

 とっくに畑の修復など終わっているだろうに、屋内に翠と萌黄と珊瑚の姿は見当たらず、離れはしんと静まり返っています。確認のために紅と二人で本館前の畑に向かうと、果たしてそこでは意外な光景が繰り広げられておりました。

 「オレには分かる。君こそがオレの運命の相手だ」

 「そんなこと分かるわけないでしょう?私のこと、何も知らないくせに!」

 珍しく語気を荒げた萌黄の前には、軽装備の騎士らしき見知らぬ男。翠と珊瑚は、それを遠巻きに見守っているような、厄介事に巻き込まれないように少し距離を置いているような、そんな感じでしょうか。カニアス君も犬小屋に入ったままで、知らぬ存ぜぬを貫くことにしているようです。

 「一番大切なことは知っている。あの時、君がちゃんと答えてくれた」

 「大切なこと……?」

 「君は、自分は成人しているから子供扱いしないでと言ったじゃないか」

 「それが何だって言うんですの?」

 「つまりは合法ロリ!これぞまさに運命!!」

 「変態!変態ですわ!」

 ああ、何となく状況が分かってきました。マテアスで萌黄をナンパした男ですね。僕は勇者もしくは変態と言いましたが、どうやら変態の方だったようです。その変態がなんで僕の城にいるんだろう。

 「合法なんだから変態じゃない!それに君もデートを楽しんでくれてたじゃないか。一緒に買い物をして、食事もして……なのに急に消えてしまって、どれだけオレが心配したことか!悪いおじさんに誘拐されたんじゃないかって!!」

 「あなた自身が危ないおじさんですわ!」

 あの時のあの山のような買い物袋、貢がせ品でしたか。萌黄、マテアスで何をしてたの……。後輩の所業に何やら頭まで痛くなってきましたが、収拾を付けないわけにもいきませんので、仕方なく声をかけます。

 「あのー、お取り込み中申し訳ないんですが」

 「蒼先輩!」

 「なんだ、貴様は」

 萌黄に対する熱のこもった眼差しとは間逆の、針のように鋭い視線を僕に投げかけた変態は、しかし一瞬目を見開いた後に、流れるような動作で剣を抜いて僕に斬り付けてきました。

 「オレの女神、早く逃げて!」

 「誰があなたの女神ですの!」

 無意識に体が動いて後方に距離を取りますが、これってもしかして間男と勘違いされたパターン……?

 「黒髪に蒼い瞳、人形のような白皙の美貌……この城の魔王とお見受けする」

 と思ったら、どうやら違ったようです。でも僕の特徴を挙げたってことは、確実にマテアスの軍関係者ですよね。面倒な予感しかしないんですが。

 「残念ながら、『元』魔王です」

 「ふざけたことを。オレは当代勇者のレオニール・ヴァレンス!長きにわたって人間に仇をなし続けただけでなく、オレの最愛の女性までかどわかすとは!」

 おおう、まさかの『勇者で変態』。しかも間男(?)勘違いまで健在だし!

 「いえ、本当のことですよ。それに僕は誰もかどわかしてなんかいません」

 そう言いながら離れにある愛用の剣を呼び出すと、鞘を払うのとほぼ同時に勇者が再度斬りかかってきました。聖剣を持ってはいないようなので、特に脅威を感じるわけではないのですが、殺すわけにもいきませんしどうすりゃいいんですかね。

 「でやっ!!」

 上段から振り下ろされた両刃の斬撃を、相手の力をいなすようにして受け流します。予想よりも重い一撃でしたが、即座に手首と肘の関節で衝撃を逃して体勢を立て直しました。

 こんなに重い剣を受け続ければ確実に腕に疲労が溜まってきますから、危険を承知で上段の構えを取らせない間合いに踏み込んで、今度は僕の方から仕掛けます。できるだけ手数を多くして防戦一方に追いこんで、相手の足さばきや太刀筋の癖、間合いの取り方、そういったものを分析しながら平和的解決をも試みます。

 「剣を引いてはくれませんかね?君にしたって、聖剣を持っていないのにやりあったって無駄でしょう」

 「理想のロリを守るためなら、この命など惜しくはない!」

 こんなに残念な勇者は、僕の知る限りいなかった気がします。そりゃあ剣技は確かに一流ですけどね、もうちょっとマシな人材はいなかったんですかね、マテアス……。それとも他の勇者も、戦っていない時は十分に変態だったのか。いや、でも異様にげんなりして気が抜けるのも事実ですから、これまた人間種の新しい戦術とも言える……のか……?

 「いや、あの子は僕の後輩ですから、元々危害を加える気はありませんし」

 「魔王の分際であんな可愛らしい後輩がいるとは、尚更に許せん!」

 変態すぎて話が通じませんでした。とは言え、これだけ打ち合えばそれなりに相手の弱点も見えてきます。僕が打ち合いのリズムを唐突に変えると、予想通り反応が追いつかなくなって、勇者がじりじりと後ろに押され始めました。そのままあと五十センチ、三十センチ、十センチ――。

 「うわっ!!」

 しっかりと踏み固められた通路から外れた勇者が、今日耕したばかりのふかふかの畑土に足を取られて、派手にすっ転びました。飛び起きる前にひたりと首筋に剣先を当てれば、さすがの勇者も目を瞑って両手を降参の形に掲げました。が――。

 「オレの命を奪う前に、最後にもう一度だけ合法ロリの素晴らしさを瞼に焼き付けさせてはくれないだろうか」

 さっきから感じていた頭痛が、一気に数割増しで酷くなった気がします。これが変態の破壊力なのでしょうか……人間種の柔軟性って、何が出てくるか分からないだけに本当に怖いですよ!

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