無知か、それとも愚かか?――第4話(前編)
皆様、おはようございます。
本編を始める前に、読者の皆様のお母様方へ、そしてお母さんである読者の皆様へお祝いを申し上げます。昨日の「母の日」が素晴らしい一日であったことを願っています。
さて、お待たせいたしました。
『Dual Rebirth ―二重の転生―』第4話(前編)をお届けします。
どうぞお楽しみください!
意識がゆっくりと戻ってきた。まるで深くて暗い湖の底から浮上していくような感覚だ。リョウが最初に認識したのは、自室の木の天井だった。窓から差し込む柔らかな光を浴びて、木目がまるで踊っているかのように見えた。
ズキズキとした痛み、リズムを刻むような一定の頭痛が、彼のこめかみを激しく打ちつける。リョウはくぐもった呻き声を上げながらベッドから起き上がり、その不快感を抑えようと片手で額を押さえた。その動きは鈍く、重苦しかった。
ふらつく足取りで洗面所へと向かう。顔に叩きつけられた冷水の衝撃が、一気に意識を覚醒させた。
リョウ:「一体……何が起きたんだ……?」
掠れた声で、自分自身に問いかけるように呟いた。
割れたガラスの破片が刺さるように、森での記憶が蘇る。混乱、血の臭い、木に追い詰められた父、そして、何もできなかった無力感。あの灼熱の感覚を思い出した。胸の奥から湧き上がった息苦しいほどの熱。自分の血が、血管を駆け巡る溶けた鉄のように感じられたあの感覚。そして、その後の……記憶がない。完全な空白だった。
リョウ:「体が異様に熱くなったのは覚えている……だが、その後はどうなったんだ? 体が勝手に反応して、そのまま意識を失ったのか……」
答えを探すように、もう一度顔に水を浴びせる。そして視線を上げた瞬間、鏡の前で石のように固まった。
リョウ:「……っ!?」
鏡の中に映っていたのは、どこか見覚えのある、しかし全くの他人のような男の顔だった。その瞳には、不気味なほどの成熟さが漂っている。それは、前世の自分――かつての「自分」の影を彷彿とさせる顔立ちだった。
唐突な衝動に突き動かされ、眩暈を無視して廊下へと駆け出した。シャツも着ず、ショートパンツ一枚の姿で、姿見の前に立ち止まる。
廊下の大きな鏡の前で、リョウは息を呑んだ。
背が伸びたわけではなかった。その背丈は依然として、父の肩にようやく届くかどうかの子供のままだ。しかし、その輪郭からは幼少期特有の柔らかさが消え失せていた。シャツを脱いだその体には、胸筋から腕にかけての筋肉の一つひとつが、恐ろしいほどの鮮明さで浮き上がっているのが見て取れた。
肌の下で、張り詰めた筋繊維がはっきりと形作られている。まるで数十年にわたる地獄のような訓練を、わずか数秒の間に叩き込まれたかのようだった。子供という器の中に閉じ込められた、凝縮され、効率的で、奇妙なまでに成熟した肉体。
リョウは腹部に手を滑らせ、その変貌した硬さを確かめた。ただの見た目ではない。以前よりも密度が増し、重厚な感覚があった。
リョウ:「僕に、何が起きたんだ……?」
顔立ちにも、異様なほどのはっきりとした変化が現れていた。頬にはまだ子供らしい柔らかさが残っているものの、その輪郭は以前にはなかった鋭さを帯びている。顎のラインはわずかに引き締まり、決然とした雰囲気を漂わせていた。そして、大きく若々しいその瞳は、底知れぬ宝石のように空虚で冷徹な光を放っている。
幼さと、陶器の彫像を思わせる静謐な美しさが混ざり合った、奇妙なほど惹きつけられる顔。鏡に映る自分の冷たい眼差しと目が合った瞬間、前世の記憶がフラッシュバックした。しかしそれは、今現在のあまりにも脆い外見の中に閉じ込められていた。
その時、廊下の端で床板が軋む音がし、彼は我に返った。
リョウは音の方へ鋭く振り向いた。温かみを一切排除したその視線は、ヴィクトルの血を凍らせるほど空虚な深淵だった。男の目に映ったのは、自分の息子ではない。それは正体不明の脅威であり、もはや認識できない肉体に宿った異質の存在だった。
カチャリ、と金属音を立て、ヴィクトルの手が剣の柄に飛んだ。
ヴィクトル:「貴様、何者だ……!? 私の息子に何をした!」
リョウ:「ま、待って! 僕だよ!」
リョウは狂乱を止めようと両手を上げたが、恐怖に目を曇らせた父親の耳にその声は届かなかった。
ヴィクトル:「黙れ! 白状しろ、息子をどうした、この偽物め!」
ヴィクトルが斬りかかってきた。鋼が空を切り、床板を叩き割り、鏡を粉々に粉砕した。破片が散弾のように飛び散る。リョウは本能のままに動き、喉元を狙う太刀筋をかわした。すると、ヴィクトルは踏み込み、真っ直ぐな刺突を放った。それは心臓を貫くための、決定的な一撃だった。
その瞬間、リョウにとって世界の動きが止まった。時間は蜂蜜のように濃密で、ゆっくりとした流れへと変わる。剣の刃が震える様子、父の顔から滴り落ちる汗のひと粒までもが鮮明に見えた。超常的な冷静さを保ったまま、リョウは体をわずか数センチだけ捻り、突き出された剣を紙一重でかわした。
鋼の刃が木の壁に深く突き刺さる。ヴィクトルは自分の勢いに振り回され、武器を引き抜こうともがいたまま隙をさらした。リョウは待たなかった。近くに掛けてあった小さなマントをひったかると、そのまま駆け出した。
広間を横切る際、キッチンから出てきたセレーナと鉢合わせた。リョウの目には、彼女の動きさえもスローモーションに映る。彼女の表情が困惑から驚愕へと変わっていくのが分かった。二人の視線が永遠のような一瞬、交差する。リョウは止まることなく、正面玄関から外へと飛び出した。
セレーナ:「リョウ……一体、何があったの……?」
彼女は胸を締め付けられる思いで呟いた。ヴィクトルには見えなかった「何か」を、彼女はその瞳の中に認めていた。
ヴィクトルはよろけながらポーチに飛び出し、剣を振り回した。
ヴィクトル:「どこへ行った!? 奴はどこだ!」
遠くの方で、村の境界へと向かって走る子供のシルエットが見えた。彼は、自分が実の息子を追放してしまったことにも気づかぬまま、その背中が遠ざかるのをただ見送るしかなかった。
リョウは裸足で、冷たい土の感触を足裏に感じながら走り続けた。村へと続く道で、ぼんやりと土を蹴りながら歩いているサムの姿が目に入る。
サム:(リョウはもう目が覚めたかな……)
――ヴ、ォォォォォオオオン!!
凄まじい風の塊がサムの横を通り抜け、彼をなぎ倒さんばかりに吹き飛ばした。
サム:「リョウ……? リョウ!! 待てよ!」
サムは全速力で彼の後を追い、持てる力のすべてを振り絞ってようやく追いついた。リョウは肩に掛けたマントを揺らし、荒い息を吐きながら足を止めた。
リョウ:「サム……僕だと、分かるのか?」
サム:「当たり前だろ。この村に左右で色の違う瞳を持つ奴なんて、お前以外にいない。……でも、一体どうしちまったんだ? お前、なんだか……すごく強そうに見えるぞ」
リョウ:「何が起きたのかは分からない。分かっているのは、家族が僕を認識できなかったことだけだ。父さんは僕を殺そうとした……。ここを離れるしかないんだ」
サム:「大げさじゃないか? もう一度戻って、ちゃんと話をすれば……」
リョウ:「正気か!? ヴィクトルは剣を持ってたんだぞ! 『剣』だ! 戻れば、今度こそ殺される」
その瞬間、リョウの脳裏にある懸念がよぎった。それは、他人には決して理解できない不安だった。
リョウ:(それに、賭けはしたくない。もう一度死んだらどうなるか分からないんだ……。特に、この肉体を手に入れた今はな)
サムは一度村の方を振り返り、それから目の前に広がる暗い森へと視線を向けた。大きく息を吸い込み、拳を固く握りしめる。
サム:「分かったよ。……俺も行く」
リョウは足を止め、親友に向き直った。
リョウ:「何を言ってるんだ、サム? 君は家族の元へ帰るべきだ」
サム:「ああ、そうすべきなんだろうな……。でも、リョウ、お前は俺の友達だ。一人になんてさせない。いつかまた、家族に挨拶しに戻る日は来るさ。でも、今日の俺の居場所は……お前の隣だ」
リョウは言葉を失った。サムの盲目的なまでの忠誠心を、ただ静かに受け止めるしかなかった。
リョウ:「サム……」
再び風が吹き抜け、今度は故郷の温もりを奪い去っていった。一人は異能の力を宿し、もう一人は揺るぎない忠誠を胸に。二人の少年は、未知なる世界へと足を踏み入れた。
最後まで読んでいただき、いつも通り心から感謝申し上げます。
今回のヴィクトルの急変について、「物語を急がせるための不自然な展開ではないか?」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、ここで起きていることにはすべて理由があります。
ヴィクトルがリョウを見てあのような反応を示したのは、彼の過去に起きた「ある出来事」や「トラウマ」に起因する、彼なりの論理的な理由があるからです。今はまだその詳細を明かすことはできませんが、いずれ真実が明らかになったとき、この展開が決して唐突なものではなかったと理解していただけるはずです。
これからの展開も、ぜひ楽しみにしていてください!




