第2巻・第1話『並行する道』第1分冊
リョウとサムは森を抜け、ある村へと向かっていた。そこは極めて奇妙な場所――目は見ているが、決して見つめはしない。耳は聴いているが、決して聞こえはしない。そして、お前の行動はお前自身のものでありながら、お前の手では決して行うことができない場所だ
一方、急造のシェルターとして機能していた息詰まる地下空洞は、崩落の余波がその強度を減退させるにつれ、緊張に満ちた静寂へと沈んでいった。内部の空気は濃密な白い砂埃で飽和しており、呼吸を著しく困難にさせていたため、一行は影の中に身を屈めることを余儀なくされていた。ヴィクトルは髪や肩に堆積した土砂を払い落としながら、外部の構造の推移を測るべく耳を澄ませた。地鳴りの震動が最終的に終息し、爆発の残響が完全に死に絶えたのを確認すると、彼は重い声で沈黙を破った。
ヴィクトル:「……差し迫った危機は脱したようだ。もうここから出られるぞ」
自身が分子を圧縮して固めた岩壁に背を預けていたスリは、重いため息を漏らした。彼の額には冷や汗が滲んでいたが、それは脱出に要した肉体的疲労によるものではなかった。彼の脳裏には、数分前に目の前で霧散した、あの「六本の腕と垂直に裂けた口」を持つ怪物の悍ましい残像が焼き付いて離れなかったのだ。この未知の墓穴に一秒でも長く留まるという思考だけで、彼の胃袋は不快に反転しそうだった。
スリ:「ああ、そうだな……。これ以上、この泥穴に一分だって長くいたくない」
時間を無駄にすることなく、スリは衝撃波から身を守るために封鎖した垂直のトンネルへと確固たる足取りで向かった。右腕に残されたわずかな魔力を収束させ、崩れかけの岩壁に向けて鋭く強烈なストレートを叩き込む。衝撃によって岩の封印は瞬時に粉砕され、その開口部から極めて強烈な白い光が差し込み、暗闇に慣れていた彼らの視界を一時的に奪った。
ヴィクトルは装備のベルトを整えながら脇へと退き、神秘の摩耗によって限界を迎えている魔術師の少女たちを気遣い、出口へと手を差し伸べる紳士的な仕草を見せた。
ヴィクトル:「レディたちから先にどうぞ。気をつけて登ってくれ」
白熱するナイフに自らのマナを流し込み、極限の消耗を露わにしていたアカネは、小さく頷いた。
アカネ:「……ありがとう、ヴィクトル」
セレナは僅かに残された身体のキレを誇示するように、即座に縦穴の壁を登り始め、ルシアとアカネがそのすぐ後ろに続いた。上昇の行程は短く、垂直の導管を二メートルほど這い上がると、一同は地表の外部へと到達した。しかし、三人の少女たちが地上へと頭を覗かせ、森の確固たる大地を踏み締めた刹那、彼女らは自らの目の前に広がる光景の衝撃に圧倒され、完全に言葉を失って凝固した。
ヴィクトルとスリも、衣服に付着した不規則な石ころを払いながら直後に出現した。顔を上げ、あたかもトランス状態(催眠状態)に陥ったかのように硬直している仲間たちの姿を見て、ヴィクトルは懸念に眉をひそめた。
ヴィクトル:「おい、みんな、どうしたんだ? なんでそんな風に突っ立ってる?」
セレナの身体の硬直を観察していたスリは、警戒しながら一歩前へと進み出た。
スリ:「体調でも悪いのか? 外で何が起きたんだ?」
その時、二名もまた周囲を見渡し、その静寂の理由を完全に理解した。一行が立っていたのは、凄まじい魔力結晶の同時爆発によって引き起こされた、焦土と化した巨大かつ完璧な「真円のクレーター」の中心だったのだ。穴の障壁は険しく切り立っており、地面からは未だ灰色の薄い煙の柱が微かに立ち上っている。バンカーの出口の座標を分析した瞬間、全員の背筋に恐るべき現実が突きつけられた。爆発による絶対的な破壊の境界線は、彼らが潜伏していた場所の、正確に「二メートル手前」で完全に静止していたのだ。もし避難所をもう少し浅い位置に構築していたら、あるいはスリが入口の封鎖をあと一瞬でも遅らせていたら、奔流するエネルギーによって全員が塵に還されていた。まさに紙一重の生還だった。
死の境界線がこれほど身近にあったという現実を咀嚼しながら、不快な沈黙が場を支配した。スリはこの呪われた領域から一刻も早く離脱することを望み、籠手を整えながら身を翻した。
スリ:「一刻も早くここを離れるべきだ。この森は不吉すぎる」
スリはクレーターの周辺に散乱する瓦礫を掻き分けながら、早足で歩き始めた。他の面々は一言も発しなかった。精神的な衝撃があまりにも大きく、言葉を失っていた彼らは、ただ静かに彼の背後に整列し、グラウンド・ゼロ(爆心地)から離脱するためのルートを求めて行軍を開始した。
一方、彼らとは異なる緯度、全く無縁の座標において、村人たちの隊列は土の小道を急ぎ足で前進していた。森の異常現象が自分たちを追尾してくるのではないかという潜在的な恐怖が、彼らを通常以上の速度で進ませ、休息を一切許さなかった。そうしてかなりの距離を走破した頃、ようやく、連なる山々の地平線を背景に、彼らが居住する村のシルエットが視界に入ってきた。――それは、リョウとサムがその前途多難な旅の始まりにおいて、本来目的地として設定していたまさにその田舎の集落だった。
村人たちは村の境界線を越え、その中心的な通りへと侵入した。彼らを迎えた空気は、奇妙に歪んだものだった。すでにそこで日常の労働に従事していた住民たちは、帰還した一行を一瞥すると、事務的な手の仕草で挨拶を交わすのみで、完全に無関心だった。まるでそれが極めて平穏な日常の一コマであり、わずか数キロ先で大変動が起きたばかりだとは微塵も思っていないかのようだった。避難してきた面々は、その異様な大気を噛み締めながら、逃走の疲弊を隠蔽すべく、可能な限り自然を装って挨拶を返した。やがて、言葉を交わすことなく、集団は段階的に分散していった。一人、また一人と、村人たちは隣接する路地へと進路を変え、それぞれの家へと帰っていった。
避難民の集団において長として行動していた老人は、主街道の真ん中に一人取り残され、サムが守り抜いたあの幼い少女の手を強固に握り締めていた。厳粛な面持ちのまま、老人は彼女を特定の場所へと連れて行くことを決意した。石と木で造られた住居が完全に戸締まりされ、静まり返った村の最も辺鄙な通りを、彼は沈黙の中で歩み続け、やがて年月によって風化した壁を持つ、小さな古い教会(神殿)の前へと到達した。
村人は無骨な木製の重い扉へと近づき、拳の関節で三度ノックした。数秒の待機の後、掛け金が回転して扉が開き、厳格な修道服を身に纏った一人の修道女( nun )が姿を現した。女性は男に軽い一礼を返し、一言の言葉も発することなく、少女の手を引くために腕を伸ばし、彼女を教会の内部へと招き入れた。
重厚な扉が完全に閉鎖される直前、その隙間から、蝋燭の光に照らされた廊下の奥が視認できた。そこには、様々な年齢層の子供たちが数名、暗がりの private 空間の中で静かに座し、あるいは徘徊している光景が存在していた。――それは、この施設が孤児院であり、あの幼い少女にはこの村に引き取るべき家族が誰一人として存在しないという、悲痛な現実を決定的に証明していた。
修道女は扉を激しく閉め、視界を遮断し、通りを完全な静寂へと還元した。老いた村人は、その表情に一切の感情を浮かべることなく、踵を返して自らの家への帰路に就いた。その村は、極めて不気味で物静かな場所だった。住民同士が意思疎通のために言葉を発する必要がないかのような、奇妙なコミュニティ。彼らは虚ろな眼差しの背後に、この渓谷の秘密を完全に隠蔽していたのだ。
サムとリョウは、鬱蒼とした森の境界線に沿って、埃っぽく険しい小道を未だ足を引き摺りながら前進していた。太陽は地平線へと降下を始め、木々の梢を茜色に染め上げ、歩道をさらに果てしないものと思わせる長い影を投影していた。共有される沈黙を破るのは、磨耗したブーツの下で擦れる枯葉の音と、不規則に刻まれる二人の荒い呼吸音だけだった。サムは均衡を維持するためにリョウの肩に腕を強く預けたまま、その静寂を破った。その声は極めて低く、彼特有のあの溢れんばかりのエネルギーは完全に消失していた。
サム:「ねぇ、リョウ……。村の人たちはどうなったかな? 無事にみんなお家に帰れたのかな? 家族に会えたのかなぁ……。僕、気になるんだ……あの、ちっちゃい女の子、どうしてるかな……」
リョウは視線を前方から逸らさなかった。岩だらけの地面の不規則性に固定された彼の瞳は、その小さな子供の肉体が引き摺る明らかな疲弊にもかかわらず、不屈の真剣さを維持していた。
リョウ:「分からない。今の時点で確実な解答を提供することはできないし、俺は根拠のない推測を口にするのが好きな性分じゃない。だが、お前と同じように、彼らが無事であり、安全な場所を見つけられたことを願っている」
サムは頭を完全に落とし、前髪の束でその両眸を覆い隠した。彼の歩行はさらに質量を増し、まるでブーツが鋳造された鉛の塊に変化したかのようだった。
サム:「すごく疲れたよ、リョウ……。本当に、もうこれ以上歩けるか分からない。身体の全部が痛いんだ。筋肉が今にも動かなくなっちゃいそうだよ」
相棒の悲痛な吐露を耳にしながら、リョウは沈黙を維持したが、その脳内では、あの洞窟の深淵に足を踏み入れて以来遭遇したすべての事象が精密に再検証されていた。
リョウ:(サムはよくやった。実際の生と死が交錯する現実の局面において、それが初陣であることを考慮すれば、極めて見事な立ち回りだった。あの巨大なオーガと対峙した際、彼は驚異的な正確さで反応してみせた。アキレス腱の直上を正確に切断すべきであることを完全に理解し、敵の腱を一刀両断して完全な不動状態に追い込み、俺たちに戦術的優位をもたらした その後、状況の推移によって分離を余儀なくされた際も、彼はパニックに陥らなかった。あの地下の迷宮の中心で俺を正確に捕捉し、その眼差しには以前以上の決定的な意志が宿っていた。変異ピラニアとの戦闘方法を理解し、俺がアノマリーの根源を求めて深淵の底へと潜水するために必要な、正確な時間を稼ぎ出した。そして何より、村人たちを避難させるために、閉鎖されていた障壁をただ一撃の下に粉砕するという、驚異的な機転を見せた。……あらゆる危機の局面において、彼は正解を引き当て続けた。俺は興味があるな。……彼が成長した時、一体どのような男に変貌を遂げるのか)
その深遠な内部的省察を終えると、リョウはサムの脇腹を支える力を僅かに強めて物理的な支持を提供し、いつもの冷静かつ計算されたトーンで応じた。
リョウ:「心配するな。この一定のペースを維持できれば、あと一時間ほどで村に到達する。そこへ行き着けば、ようやく休息をとり、食事にありつける」
サムは弱々しいため息を漏らし、自らの脚に最後の一メートルを進むよう強制した。
サム:「うん……。早く着きたいな。本当に待ちきれないよ」
リョウは声を大にして言葉を発することはしなかったが、背中と脚を蹂躙する裂けるような激痛は、彼の内なる領域において冷酷な現実を認めさせていた。
リョウ:(実を言えば……俺も相当に限界だ。歩を進めるたびに、水中での両眸のアビリティの二重解放によるバックラッシュ(反動)が、筋肉に凄まじい激痛を突きつけてくる。一刻も早く目的地に到達し、完全に休息したいと切望しているのは、サム、お前だけじゃない)
まさにその刹那、森の鬱蒼とした茂みを透過して、特定の音波の震動が濾過されるように伝わってきた。それは人間の声だった。明確で、完全に識別可能な音節が、左の側面から接近しつつあった。ヴィクトル、セレナ、スリ、アカネ、そしてルシアの一行が、わずか数メートルという極めて至近距離の、生い茂る木々の境界線一枚を隔てただけの場所を、実質的に並行して前進していたのだ。距離の近さゆえに、リョウとサムは、彼らが歩きながら交わしている会話の内容を完全に、かつ鮮明に盗聴することができた。
スリ:「おい、ヴィクトル……。この呪われた森を抜けたら、俺たちはまずどうするんだ?」
ヴィクトル:「安全を最優先するなら、まずは村に戻り、結晶の件や構造物の大崩壊について、現地の治安当局に即座に通報すべきだろうな」
ルシア:「それに、まずは身体を休められる宿を探さないと。全員、マナも体力も完全に空っぽだわ」
セレナ:「その通りよ。私の脚も、もう一歩も動かない」
葉擦れの向こうからヴィクトルとセレナの明瞭な声が鼓膜に到達した瞬間、サムの瞳は大きく見開かれ、そこには安堵と無邪気な火花が点火された。この偶然の邂逅こそが、自らの瀕死の肉体的苦痛を解決する完璧な救済策であると誤認した彼は、左側の低木へと視線を向けた。
サム:「あ、ヴィクトルとセレナだ! リョウ、あっちに合流して、お水をもらうか一緒に休ませてもらおうよ……っ! ヴィク――っ!!」
サムの絶叫は、その中心部で完全に切断された。彼の名前が全線で発音されるより前の、まさにその同じ「微小秒」。少年の小さな肉体は、地表へと向かって崩れ落ちるように完全に「機能停止」し、大地に激突するよりも前に意識を完全に喪失していた。
彼のすぐ背後。完璧な戦闘の初動姿勢を維持したまま、リョウが佇んでいた。彼の腕は真っ直ぐに伸長されており、その右手の平は武術の鋭い剛剛の形へと強固に硬直していた。サムの神経システムを一瞬でシャットダウンさせ、彼が別の集団に自分たちの座標を開示するのを未然に阻止すべく、彼のうなじの特定の圧迫点(頸椎の急所)に対して、ミリメートル単位の正確さで精密な一撃を叩き込んだことを証明していた。
リョウはゆっくりと腕を下げ、草の上に気絶した相棒の肉体を冷徹に凝視し続けた。その表情にはいかなる感情の揺らぎも検出されなかったが、その双眸には、極めて冷徹な「戦略的必要性」のみが刻まれていた。
リョウ:「……それ(合流)をさせるわけにはいかないんだ、サム」
皆様、おはようございます!この月の初日、いかがお過ごしでしょうか。ついに僕たちが第2巻とともに帰ってまいりました!皆様に心から楽しんでいただければ幸いです。それでは、これ以上多くは語りません。また明日お会いしましょう。皆様、良い一日を!




