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渋々の承諾 — 第2章:後半

「これは昨日投稿した第2話の、後半部分になります。


このエピソードでは、人間の肉体が抱える『限界』の残酷さを描きました。たとえ最強のエンジンを持っていたとしても、それを小型車に積み込めば、車体はその出力に耐えきれず崩壊してしまう。リョウが直面するのは、まさにその矛盾です。強大すぎる力が、十歳の未熟な器を内側から焼き切ろうとする。その代償と、極限の死闘をぜひ見届けてください。


【警告】

本作品には過激な暴力描写が含まれます。飛び散る鮮血や内臓の露出など、想像の余地を一切残さないほどリアルに描き切っています。覚悟のある方のみ、読み進めてください。」

リョウ:「あれは……猪か? もっと小柄なものだと思っていたが」


元の世界の生物に慣れていたリョウにとって、この世界の「猪」がこれほどまで異質なものだとは想像を絶していた。


その怪物は一歩前へ踏み出し、重苦しく腐臭の漂う息を吐き出した。夕刻の光は急激に失われ、周囲は不気味な黄昏に包まれていく。


猪は頭を低く下げ、猛然と鼻を鳴らした。後足で地面を激しく削り取り、その巨体で目の前の「小さな侵入者」を粉砕せんと突進の構えをとる。リョウはナイフを握り締め、手の平ににじむ冷たい汗を感じていた。


獣が地を蹴り、弾丸のごとく放たれたその瞬間――。

枝の折れる鋭い音が辺りに響き渡った。


リョウの右側から、影が猛スピードで飛び出す。


「危ないッ!」


藪から躍り出たサムが、死に物狂いでリョウを突き飛ばし、攻撃の軌道から強制的に排除した。二人が地面を転がる横を、猪が轟音と共に通り過ぎる。一秒前までリョウが立っていた場所を突き抜け、怪物は背後の大木へと激突した。


リョウは呆然としながらも身を起こし、親友の姿を捉えた。


リョウ:「サム……? なぜ、お前がここに……」


サムは青ざめた顔をしながらも、決意を秘めた瞳で服の土を払い、立ち上がった。


サム:「リョウが森へ向かうのを見て……放っておけなくて、後を追ったんだ。僕たちは友達だろ。親友を一人で見捨てるなんて、僕には絶対にできない」


リョウは沈黙の中で彼を凝視した。そのあまりにも無垢な決意に、かけるべき言葉が見つからない。


リョウ:「だが、お前は……」


言葉を飲み込むより早く、背後から深く、腹に響くような唸り声が響いた。猪はすでに体勢を立て直し、怒りに染まった紅蓮の瞳で二人を睨みつけていた。


リョウとサムは同時に極限の警戒態勢に入る。サムの忠誠心は胸を打つものだったが、目の前の異形の怪物に対して、それは何の慰めにもならない。


リョウ:「……クソッ」


リョウは瞬時に周囲を分析した。木々に囲まれたこの地形、そして怪物の圧倒的な剛力と速度。残された選択肢は、もう一つしかなかった。


リョウ:「今は……走るしかない!」


サム:「う、うんっ! 分かったぁぁ!」


二人は迷うことなく全速力で駆け出した。小屋の安全な圏内から遠ざかり、森のさらに奥深くへと突き進む。背後では猪が雷鳴のような咆哮を上げ、追撃を開始した。怪物は行く手の茂みをなぎ倒し、立ちふさがる太い幹を粉砕しながら迫りくる。


執拗な追走だった。大地を叩く蹄の音が、木々の砕ける音と混じり合い、すぐ背後で不気味に響き渡る。


リョウは肺が破裂しそうなほどの激痛を感じていた。十歳の子供の体は、これほどの極限状態に耐えられるようにはできていない。疲労で視界がかすみ始めていた。前方では、サムがわずかなリードを保ちながら、必死に一定のリズムで走り続けている。


リョウ:(クソ……このままじゃ、長くは持たないぞ……!)


奥歯を噛み締め、最後の力を振り絞って親友との距離を詰める。


リョウ:「サムッ!!」


途切れ途切れの声で叫んだ。


リョウ:「戦略を……考えなきゃダメだ!」


サムは一瞬だけ顔を振り向かせた。その顔は汗でびしょ濡れだったが, 瞳には強い決意が宿っていた。


サム:「賛成だッ!」


走りながら、リョウは左側に生い茂る密集した植生を見逃さなかった。危険な賭けではあるが、開けた道に留まることは確実な死を意味していた。


リョウ:「今だッ!」


二人は呼吸を合わせ、刺の多い低木へと頭から飛び込んだ。湿った地面を転がり、深い葉陰にその身を潜める。心臓が胸を激しく叩く音を聞きながら、彼らは息を殺し、石のように硬直した。


数メートル先で、猪が急ブレーキをかけた。蹄が地面を削り、土煙が舞い上がる。獣は荒々しい鼻息を漏らし、巨大な頭を左右に振って、視界から消えた子供たちの痕跡を必死に追い始めた。


リョウは枝の隙間からその様子を観察し、ナイフの柄を力一杯握り締めた。森の静寂は重苦しく、獲物を探す怪物の低い唸り声だけが、その沈黙を切り裂いていた。


ようやく呼吸を整えたリョウは、依然として茂みに隠れたままサムへと寄り添った。そのオッドアイの双眸が、冷徹な光を放ち始める。


リョウ:「あいつを仕留める策がある……だが、相当な危険を伴う。お前も、俺もな」


リョウは親友の耳元に寄せ、策を囁いた。サムは一瞬顔をこわばらせたが、拳を強く握り締め、決然と頷いた。


サム:「分かった……やってやるよ!」


直後、再び森が震えた。サムが隠れ場から飛び出し、開けた場所へと躍り出たのだ。怪物の注意を一点に引きつける。猪は猛然と鼻を鳴らし、新たな怒りとともに彼を追った。激しい呼吸と、喉までせり上がる心拍音の中、サムは己を鼓舞するように雄叫びを上げた。


サム:「行くぞッ!」


怪物の巨体が密集した茂みの横を通り抜けた、その瞬間。リョウが跳んだ。


精密な動きで猪の首にしがみつき、太く荒い毛を掴んでその身を固定する。同時に、サムは回避行動をとり、別の茂みへと飛び込んで突進の軌道から姿を消すと、怪物の背後へと回り込んだ。


猪の喉元にぶら下がるリョウは、その肉体から放たれる息苦しいほどの熱気を感じていた。


リョウ:(背中は鱗で守られている……脇腹は肉が厚すぎて、このナイフでは届かない……。「狙うは、首だ!」)


奥歯を噛み締め、子供の細い腕に全神経を集中させる。そして、柔らかい喉の肉へとナイフを深く、深く突き立てた。


「ギィィィィヤアアアアアッッ!!!」


猪はリョウの骨の芯まで響くような、凄まじい断末魔を上げた。獣は盲目的に走りながら、激しく頭を振り回し、行く手にある大木に次々と激突していく。

その荒ぶる動きと、溢れ出した鮮血のせいで、リョウの手が滑り始めた。足元では地面が猛烈な速さで通り過ぎていき、もし今落下すれば、間違いなく肉片へと成り果てるだろう。


リョウ:「クソッ……!」


絶望的な状況の中、リョウは突き立てたナイフの柄を血にまみれながらも必死に掴み、それを唯一の命綱としてしがみついた。


視界は速度の暴力で歪み、猪は制御を失って叫び狂う。リョウは喉元から噴き出す返り血に翻弄されながら、必死に墜落を拒んでいた。


背後から死に物狂いで追ってきたサムが、目の前に迫る絶対的な危機を察知し、叫んだ。


サム:「リョウッ!! 早くそこから離れろ! 前を見てっ!」


リョウはかろうじて顔を上げた。数メートル先で、大地が唐突に消えている――断崖絶壁だ。

全身を猛烈なパニックが襲う。彼は最後のあがきとして、ナイフをさらに深く沈め、残された全霊の力でその喉を切り裂こうとした。


リョウ:(ダメだ……! 斬りきれない……!)


その恐怖の絶頂に達した瞬間、左目にあの忌まわしくも馴染み深い、暴力的な拍動が走った。

直後、脳を焼き切るような激痛が突き抜ける。未知の力に喰らわれ、身体中のエネルギーが急速に枯渇していくのが分かった。

さらなる拍動が彼を襲い、意識が遠のきかける。


これは時間との戦いだ。自らの命を優先して飛び降りるか、それとも崖から落ちる前にこの怪物を仕留めるか。


サムは無力感に苛まれながらその光景を見ていた。断崖絶壁は刻一刻と迫っている。


サム:「どうすればいい!? 何ができる……! もしかしたら……!」


決意を顔に刻み、サムは地面に転がる手頃な大きさの岩を見つけた。走る足を止めることなく、それを拾い上げる。彼の頭にはただ一つの目的しかなかった。怪物を止めること。彼自身も気づかぬうちに、淡い蒼色のエネルギーが全身から溢れ出し、彼を包み込んでいた。彼は正確に狙いを定め、渾身の力で岩を放った。


その礫はまるで「魔弾」のごとく空を切り、乾いた破壊音と共に猪の後膝を貫通した。


「ギィィィィヤアアアアアッッ!!!」


獣は純粋な苦悶の叫びを上げた。膝を撃ち抜かれたことで瞬時に速度と均衡を失い、湿った地面を激しく滑り始める。しかし、リョウは依然としてしがみついていた。左目の焼けるような熱さは、もはや耐え難いものとなっていた。拍動が次々と眼球から放たれ、痛烈な電流のように全身を駆け巡る。


リョウは理解していた。「今しかない」と。肉体と眼を苛む激痛は限界を超えていたが、彼の意志はそれを上回っていた。半ば狂気じみた行動に出る。彼はナイフの柄から片手を離すと、自らの体を固定するために猪の首筋を渾身の力で噛みちぎるように食らいついた。両手が自由になった瞬間、彼は死の覚悟でナイフを逆手に握り直し、大気を引き裂くような咆哮を上げた。


リョウ:「ああああああああああああッッ!!!」


狂気的なまでの死力を尽くし、リョウは自らの全体重をかけてナイフを振り下ろした。猪の喉元を深く、無慈悲に切り裂く。怪物は最期の喘ぎを漏らし、その場で絶命した。


しかし、死してもなお、その慣性は止まらない。猪の巨大な死骸がリョウの上にのしかかり、彼を押しつぶした。肉と血と毛が混じり合った塊となり、二体は崖の縁へと猛烈な勢いで滑っていく。サムは必死に手を伸ばし、叫びながら駆け寄ったが、届かない。絶望が目前に迫ったその時――。


猪とリョウは、まさに断崖絶壁のきわで、唐突に止まった。怪物の巨体は、半分が奈落の底にせり出した状態で崖に引っかかり、リョウはその下敷きとなって息を弾ませていた。激痛にのたうち回る左目の鼓動と、怪物の傷口から顔に滴り落ちる熱い返り血。リョウは死の淵で、ただ荒い呼吸を繰り返していた。

「最後まで読んでいただき、ありがとうございました。皆さん、良い一日をお過ごしください。


私はこれから休息に入りますが、もし感想やコメントがあればぜひ残していってください。明日の朝、皆さんが眠りにつく前の十分な時間に、すべて目を通させていただきます。


それでは、今日はこの辺で。おやすみなさい。」

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