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悪役令嬢の影  作者: あお
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「ねぇ、聞きまして?」


「オルコット様のことでしょ? なんでも病におかされた子供を抱き上げて癒されたとか。」


「本当にオルコット様は機嫌が悪くなければ女神のようなお方ですわね。」


 私がオルコットの代わりに学園へつくとそんな噂話がなされていた。

 正直恥ずかしい。


「おはよう。」


「これはジャック様。おはようございます。」


 私に気付いたジャックがカイルたちから離れこちらに来る。


「どうしたんだ?」


「いえその、少し恥ずかしくて…」


 女神と身に余る言葉で持て囃され、居心地の悪さを感じるほどだ。


「恥じることなどないだろう? それだけのことをしたんだ。」


「しかし、配給はまったく足らなかったですし……」


「病人を癒したじゃないか。病人に躊躇わず触れられるなんてそう出来ることじゃない。」


「あれは感染力の低い病でしたし、私は治癒魔法が使えますから。」


 ジャックは驚いた顔を見せた。


「医学の知識もあるのか?」


「いえそこまで大したものではございません。ただ少しは知識が無いと魔法の選択が出来ませんので。」


 例えばひどい症状でも体力が落ちているだけで病気自体は下級魔法で治ることもあれば、逆に症状は軽くても上級魔法でなければ完治しないこともある。


「すごいな、オルコットは…」


「えっ?」


 何のことだろうか?


「自分になにが出来るのか、どんな知識がなければいけないかを理解して行動できている。」


「あのっえっと… ありがとう、ございます……」


 恥ずかしくてジャックの顔が見えず私はうつむき答える。


 顔が熱い。


 どこか芝居臭いダンテとも含みのあるオルコットとも違う、真っ直ぐな言葉と態度にむず痒い照れくささを覚えた。


 ああ、何て失礼な態度をとってしまったのだろう。


 それでも真っ直ぐに見つめる勇気が出ず、私はちらりとジャックを見上げる。


 ?


 ジャックも顔を背けてあらぬ方を見上げていた。


「あの? どうかなさいましたか??」


「いっいや、なんでもない。それより俺は戻るぞっ。」


 どこか焦ったジャックの声。


 ? あっ、カイル様たちが移動しそうなのか。


「これは長々とお話してしまい申し訳ありません。それではまた。」


「ああ、またな。」




 なんなんだ。


 ジャックは自身の胸の高鳴りに動揺している。

 確かに先程のオルコットは可愛かった。頬を赤らめてうつむき、まさしく花も恥じらう乙女とはいかんといった感じであった。


 だが今はそんなことにうつつを抜かしている時ではないだろう。


 ジャックは頭を振って邪念を払おうとする。


「…ずいぶんと仲がよろしいようで。」


 すっと寄ってきたデヒドに声をかけられる。


「…そんなんじゃない。からかうな。」


「そんなつもりはありませんよ。ただ、ジャックが王妃様より受けた恩を忘れてしまったのでは、と思いまして。」


 王妃、つまりカイルの母親だ。

 王子の友人となるのは自然になれるものではない。そもそも出会う時点で周囲の大人、カイルの場合は王妃により付き合うに足る人間か厳しく選ばれているからだ。

 そして選ばれれば、未来の王の側近という地位とそれに相応しい人物となれるよう、教育支援が与えられる。


「…忘れてはいないさ。」


「では王妃様がどのような状況にあるのか、ご理解無いと?」


 王妃はオルコットの叔母に王の寵愛を奪われただけでなく、アーティファクト『祝福の杖』も奪われている。

 アーティファクトとは神話の時代に神が創り、人間に授けたとされる魔法効果を増幅させる武器だ。だがその希少性故に強力な武器としてではなく、権力者の権威の象徴として利用されている。

 そして『祝福の杖』はこの国の国母の象徴だった。

 そんな杖を王に回収され、側室に与えられた正妻、それが王妃様だ。


「わかっているさ。」


 肩書きだけの王妃として発言力もなく、肩身の狭い生活を余儀なくされている。


「でしたら…」

「それでもオルコットを、彼女を仲間にすることは出来ないのか?」


 デヒドの言葉を遮り、ジャックは問う。

 王妃様への恩はある。だがオルコットと手を取り合えればこの国の問題を解決出来るのではないか?いや、以前よりより良い国に出来るのではないか? そんな思いがジャックには生まれていた。


「…無理ですね。」

「っ! 何故だ!」


 しかしデヒドはあっさりそれを否定する。


「あの女が男児を産んだ以上、殿下と伯爵が対立するのは時間の問題です。」


 あの女、つまりオルコットの叔母だ。今はまだ義母弟が幼くカイルの廃嫡の話は大きくないが、学園を卒業しカイルの成人が認められるまでには必ずぶつかるであろう問題であった。


「そう、だな…」


 政争に明るくないジャックにもわかることだ。


「ほら行きますよ。殿下が待っています。」


「ああ…」


 それでも、とジャックは思ってしまうのだった。




「なんですの!? オルコットが女神だなんて!!」


 ソフィアは声を荒らげる。


「ソフィア様、どうか落ち着いて下さい。」

「私は落ち着いていますわっ! 皆の頭がどうかしてしまったのではなくて??」


 取り巻きの令嬢たちが落ち着けようとするもとりつく島もない。

 そんな有り様なので万が一にもカイルに当たることの無いよう、ソフィアは取り巻きにカイルたちと距離をとらされていた。


「そっそうですわっ。ソフィア様も配給をなさってみれば…」

「そっそれがいいですわっ!」

「この私にオルコットの真似事をしろと!!」


 取り巻きとしても大将であるソフィアの評価が低いのは困る。

 そのための提案であったがむしろソフィアは怒りを露にしてしまった。


「めめめっ滅相もありません。」

「そっそうですわ。オルコットの真似をしろだなんて…」

「ではなんなのです!!」


 取り巻きは威圧されて萎縮する。


 だが何とかして何か捻り出さなくては…


「あっ! そういえばオルコットは無様にも十分な量の配給を用意することが出来なかったとか…」

「そうです! 食べられなかった者が暴動を起こしかけたとか!」

「配ったのも残飯紛いの粥を器に少ししか渡さなかったとか!」


「…それは……」


 オルコットの失敗を聞き、ソフィアの溜飲が少し下がる。


「どうでしょうソフィア様。ここはソフィア様が本物の貴族とはどうあるのか、愚民に教えて見ては!」

「そうですよ。ソフィア様が配給を行えば、愚民も真に女神と崇めるべきが誰であるか理解出来るでしょう!」


「…確かに……」


 公爵家の財力をもってすれば出来ないことではない。

 そのためソフィアは取り巻きたちとうきうきで配給の計画を始めた。豪華な食事を振る舞えば民衆は自分達を支持すると、そしてそうなればオルコットや伯爵は悔しがると信じて…



 だが彼女たちは知らなかった。

 貧民全員分は配給が無いことは本物のオルコットはわかっていた。そして配給を行うことでオルコットの評価が上がり、でも配給自体が足らない状況になればソフィアたちも配給を行うことも…


 全ては本物のオルコットの手のひらの上で転がされていた。

ローファンタジーではない気がしてきたのでハイファンタジーに直します。

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