epilogue
「――――貴方に提出したはずのレポートが、旧アリア教会にあったと聞いたが?」
後日、義行の上司の元を訪ねた影津氏は、静かにぶちギレた。
「これかな?」とデスクから取り出したのは1枚の紙切れで、そこには2行ほどの簡素な文言が書かれていた。
『白砂病は福音である。
その人の願望を視せることによって、
肉体は解放される』
「博士の貴重な意見だ。背中を押してくれる研究者も少なからずいるだろう。短い文章であっても影響力は底知れない。だからこうして」
「慧くんを移動させる事態になったんだろう」
「なんのことかな」
「次はないぞ」
「……博士。こんな文言にすがる人もいるんだ」
「手の届くところに藁を置かなければいいだけの話だ」
やり方は違えど、彼も影津氏が薬の開発に関わるよう働きかけてはいたりする。が、今回の藤堂に関しては彼の差し金ではなかった。
影津氏の退室後、直属の部下に愚痴れば虚偽の甘さを指摘される。
「……バレているではないか、義行」
「袖。ススついてりゃ、そりゃバレますよ」
すこし焦げているレポートの角は不自然だった。
デスクに入れっぱなしなら、そうはならないレポートの所在は藤堂の目論見通り――――旧アリア教会の、あの地下施設にあったのだ。
火をつけた直後に散った三浦が消火の役割を果たし、燃えずじまいとなったところを、藤堂は早とちりしただけにすぎなければ、マウロと到着したときにはすでに回収済みときた。
そう、ツユが先駆けて教会へ逃げ込んだとき、義行もいたのだ。
彼女が鍵であることは保護した際、その場から離れたときに気づいていた。
教団の施術のことも、ツユなら――――義行が白砂病のボーダーラインを調べていたときに出逢った子であるならば、氏のレポートを理解することも難しくはない。
レポートの回収のため、保護した彼女を連れて。
もちろんツユには記憶をたどるため、と。
それが当初の計画だった。
しかし、そこにマウロがやってくる。影津氏の潔白、レポートはないと信じて疑わない、なんの曇りもない小さなARが。
影津氏もまた、ただ起こり得た現象を分かりやすく伝えただけで、このレポートに、それ以上の意味も価値もない。が、紛失したのは上司の過失だ。
マウロが氏に幻滅することがないよう、義行は秘密裏に回収を行っていただけなのだ。
「どうするんです、それ」
煤けたレポートは、上司のデスクに置かれたまま。
片付ける様子はない。
「そうだな……」と手に取れば、おもむろに裏返してため息をついた。
『ふるいにかけられている。
その対価が、擬似的な願望。
そうでなかった者の末路。
これが光
「――ああ。皆、教祖さまのようだよ」
新たな文言になりうる前に、存在ごと滅却する。
白砂病を紐解けば紐解くほど非科学的な答えしか生まれない現状に、上司は火をつけた。




