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第39話 結末

 意識が澄み渡っている。

 まるで自分の体に腕がもう一対増えたかのようだ。【魔素】で形成した銀の剣は、俺が思い描くイメージ通りに宙を舞い、男へと斬りかかる。


「ぐっ……ぅぅぅっ! 〈腐壊弾〉!」


 男は掌から赤黒い光を放って剣を撃ち落とそうとするが、それはすべて無駄に終わっている。

 そして剣に気をとられるということは、


「こっちを忘れんなよ!」

「うっ、あああぁっ!?」


 魔銃から放った氷の弾丸を、男が転がってかわす。そこへ襲いかかる二対の銀剣。脚を軽く裂かれつつ軌道から身をそらしたのは、単なる幸運か、教団から受けた何かしらの訓練の賜物(たまもの)か。

 でも、そんな苦し紛れの抵抗は長く続かないはずだ。


「大人しくしろよ。殺しはしないから」

「は……はははっ、だったらどうするんだい。優しく手当して、家に帰してくれるのかな?」

「んなわけないだろ。軍に引き渡す。その前に、アンタの仲間のことをいろいろ話してもらうけどな」


 魔神崇拝者は学院にも紛れ込んでいる。その手がかりが手に入れば、遠くない未来に学院で起こる〈儀式〉を、もしかしたら阻止できるかもしれない。

 そしてシロンの親のことを聞くためにも、こいつは絶対に逃がすわけにはいかなかった。


「抵抗するなら骨の一本や二本くらい、容赦なくへし折るからな」

「……そいつは怖いね……」


 ……おかしい。

 戦況を覆された時はあんなに狼狽(ろうばい)していたのに、追い詰められたと言ってもいい今は、ニタニタと笑みを浮かべて、むしろ余裕すら感じる。


(なにか奥の手があるのか? もっと強力な【暗黒魔法】? それとも……)


 思考を巡らせながら、魔銃の狙いを定める。

 降参しないなら、死なない程度の【魔法】を撃ち込んで拘束するだけだ。あるいは、まだ反撃の手段を持っているのなら……


「きっヒッ!」


 ひきつった笑い声をあげて、男は掌を向ける。

 俺ではなく、子どもを背にかばうシロンの方へ。


「〈腐壊槍(イロードジャベリン)!」


 万物を朽ち滅ぼす真槍がシロンへと飛翔する。

 男を警戒していた彼女は回避に移っているが、子どもを抱えたぶんの時間だけ、ほんのわずかに遅れている。このままでは大怪我は免れないだろう。


(それなら……!)


【魔素】でできた腕を伸ばし、銀剣をシロンと〈腐壊槍〉の間に割り込ませる。

 ギッと(きし)む音が鳴ったかと思うと、次の瞬間に剣は砕け散った。

 だが、それで十分だ。

 銀剣が壊れるまでの、ほんの一瞬の時間で、シロンは攻撃魔法の射線から脱出を果たしていた。


「もう言い訳はできねぇよな!」


 シロンの無事を目の端で確認すると同時に、俺は魔銃から【魔法】を放つ。

 氷の弾丸が男に突き刺さり、そのまま上半身を凍りつかせる。

 どうっと音を立てて男が床に倒れた。

 ……声ひとつあげることなく。


「……くっ! そういうことか!」


 俺は男に駆け寄り、襟首を掴んで引き起こす。

 その顔の穴という穴から黒い液体があふれ出ていた。


「ご、ぐばっ……ごほっ……」

「吐き出せっ、この……!」


 無理矢理に口を開かせ、喉に手を突っ込む。

 だけど、大量の血と一緒に吐き出したのは小さな薬の欠片だけだった。大部分はもう溶けて体に吸収され、あっという間に男を内側から壊していっている。


「ご主人さま、これは……」


 シロンが子どもの頭を抱き、この凄惨(せいさん)な光景を見せないようにしながら、俺に問う。


「毒だ。それも強力なヤツだな……まさか、ここまで躊躇(ちゅうちょ)なく呑むとは……」

「……助かりませんか」

「ああ。もう解毒系の【魔法】を使っても手遅れだ」

「…………」


 シロンが何かを(こら)えるような視線を男に向ける。

 怒りなのか、悔しさなのか、もしかしたら憐れみなのか。どんな感情であるにせよ、行き場がなくなった思いはシロンから漏れ出ることはなかった。


「ごぼっ……ぐ……ぉ……」


 やがて男の声が途切れ、とめどなくあふれ出ていた血も止まる。

 最期の表情は、やはり俺たちを蔑むような笑顔だった。

読んでいただいてありがとうございます!

宗教施設編もそろそろ終わり。

次はシロンとぴっとりするお話です。


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