第23話 真相とその後
ショックから回復した男子学生を椅子に座らせて、俺たちはそれを取り囲むように立つ。
昼間の威勢はどこに行ったのやら、彼はうつむきつつ、落ち着かない様子で俺たちの様子をちらちらと見ている。
やがてアオイが、
「事情をお話してもらいましょうか」
と話を切り出した。なぜ最低辺の〈カッパー〉クラスと、学年首席のアオイが一緒にいるのか理解できないんだろう。戸惑った様子でアオイと俺の顔を見比べた。
「話すつもりはないのですか?」
「あ、いえ、ええと……話す、話すよ……」
膝の上に置いた手の指をもぞもぞと動かしながら、男子生徒は口を開く。
「お、俺は……人から【魔素】を奪らないと調子が悪くなる体質なんです」
(〈吸精〉の固有体質か)
ハトリの〈眼〉とおなじ、先天的に得る特殊能力。〈吸精〉は他者から【魔素】を奪って自分のものにできる力だ。
「これは昔からだったんだけど、子どもの頃は大したことがなくてさ。親や使用人から気付かれないように【魔素】をとってたんだ。でも入学した頃から、それじゃ全然足りなくなってきて……」
「体が成長して必要とする【魔素】の量が増えた、ってこと?」
カーラの問いに男子生徒は「たぶん」とうなずく。
「親に相談すりゃいいじゃん。それかさ、貴族なんだから、使用人に命令すりゃ【魔素】もらい放題なんじゃないの?」
「そ、そんなことできないよ! 俺が普通の人間じゃないって知られたら、どうなるか……」
その言葉を聞いたハトリが少しだけうつむく。昔の自分を思い出しているのだろう。
実際、帝国では固有体質に対する理解はあまり進んでいない。固有体質であることがバレると、なにかの呪いだとか、魔族が入れ替わっているだとか、そういう迷信じみた思い込みで迫害されることが多い。
「で、学校で人を襲って【魔素】を奪ってたってわけだ。凝った【魔法具】まで用意して、七不思議を隠れ蓑にしてたってわけだなァ」
「……ああ、その通りだよ。仕方がないだろ、そうでもしなきゃ……」
ロックへの反論も力がない。俺たちだけならともかく、アオイにバレたら教師陣への報告と罰則を免れないと思っているのだろう。
「でもさぁ、あんたのせいで学校休んだ子たちは、別に何も悪いコトしてないでしょ。それわかってる?」
「それは……でも……」
「言い訳すんなし。それともまた〈ゴールド〉だから下のクラスの生徒に何しても許されるっておもってんの?」
「っ……」
「カーラちゃん……」
厳しい言葉を投げかけるカーラの手を、ミジィルがそっと握る。
「怒るのはわかるけど、被害者じゃない私たちが代わりにこの人を傷つけていいわけじゃないよ。ね?」
「……まぁ、そうだけどさぁ」
まだ怒りが収まらない様子のカーラに、ミジィルは、
「こんな人にカーラちゃんが怒ってあげる必要なんてないよ。はやく先生たちに報告して、退学か休学になればいいんだから。ね?」
と言って微笑んだ。
(ミジィルって怒らせるとやべーヤツだな……)
〈原作知識〉にはない情報だ。ちゃんと覚えておこう。
それはそれとして……
「アオイ、どうする? こいつを突き出したら、たしかに一件落着だけど……」
「そうですね……」
アオイは言葉を切って黙る。きっと、どんな形で報告するのか悩んでいるのだろう。
公正さを重んじるならあらゆる事実を学院に明かすべきだけど、それは目の前の男子学生の人生を破滅させるかもしれない。かといって、隠蔽するという選択はあり得ない。
だったら――
「なぁ、こういうのはどうだ?」
と、俺はとある案を切り出した。
* * *
「はぁ? こんな細かい細工をタダでやれって?」
騒動から数日後、あの男子生徒――マッケルは、俺とロックの店の作業台で文句をたれていた。
「あのさぁ~、誰のおかげで処分保留になったと思ってんの? あーし、いまからアオのところ行って、やっぱバラしちゃおうよ~って言ってこようかな」
「ぐっ……脅迫なんて卑怯な。これだから一般市民は……」
「なんか言った?」
「い、いやなんでもない……」
カーラに凄まれたマッケルはあっけなく引き下がる。
結局、アオイはあの騒動を「新しい【魔法具】を使ったマッケルの悪戯」として届け出た。〈吸精〉の固有体質のことは明かさず、そのかわり今後は事情を知る俺たちから少しずつ【魔素】を奪っていくと約束させた。
もちろんタダじゃない。マッケルの技術を生かして俺たちの【魔法具】製作に協力することが条件だ。謝罪文の山だけで終わったのだから、取引としては悪くないだろう。
「まぁまぁ。実際にマッケルとロックの腕が合わされば、すごい【魔法具】を作れるってわけでしょ? 僕はとっても楽しみだよ」
「そ、そうか? まぁ素直に俺を認めるのなら力を貸すのもやぶさかじゃないぞ。これも〈高貴なる者の務め〉ってやつだ。ははははは!」
(ちょろい……)
性格はちょっと難があるけど、前ほど高圧的ではないし、なんだかんだ仲良くやっていけるかもしれない。マッケルの腕があれば〈カッパー〉クラスの装備はより充実するはずだ。
ちなみに中間試験対策の勉強もマッケルに講師役を頼んだので、順調に進みつつある。
……と考えていた俺は、1つ気になっていたことを思い出した。
「なぁマッケル。屋内演習場の女子更衣室、【魔法具】はどこなんだ? 昨日うちのメイドに取りに行ってもらったんだけど、見当たらなかったみたいでさ」
「ん? 何言っているんだ。そんなところに【魔法具】は仕掛けてないぞ。最後の1つは新校舎西の男子トイレだ」
…………え?
マッケルの言葉にみんながピタリとお喋りを止める。
「いやいや、お前七不思議の場所に【魔法具】仕掛けたんだろ?」
「そうだ。第2実習室、第3美術室、屋外演習場の裏、第1音楽室、新校舎の4階南階、そして新校舎西の男子トイレ。そもそも俺が女子更衣室に入れるわけないだろ」
「……たしかに」
七不思議の内容が食い違っているというのは、あり得ない話じゃない。
だとすれば女子更衣室の〈儀式〉は関係ないのだろうか。
それとも、実際に行われたなにかを元にした――
「……あれ、これ七不思議揃っちゃったんじゃないスか?」
「「「「あっ」」」」
はたして俺たちが呪われるのかどうか。
それは誰にもわからない……
読んでいただいてありがとうございます!
今回で中間テスト編は終わりです。
次の話から新しいエピソードが始まります。
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