第22話 悪役貴族の幽霊退治
学院を回って〈カッパー〉の教室に戻ってくると、聞き込みに行ったアオイたちの姿があった。
「そっちも一段落ついたか?」
「ええ、ご学友の皆さんも快く協力してくださいました。おかげでいろいろと分かりましたよ」
「ヴィはどう? なんか分かった?」
「ああ、こっちも収穫あり」
ロックと俺は抱えていた【魔法具】を教卓の上に置いた。
「空いている場所を調べたら、やっぱり幻影を映し出す【魔法具】が仕掛けられてた。こっちは屋外演習場の裏。〈落ちてくる自殺した生徒の霊〉を映し出すやつだな。で、こっちが第1音楽室の〈ピアノを弾く腕〉のやつ」
「い、いちいち解説しなくても大丈夫です……」
「どれもすげェ造りだよ。どんな目的かは知らねェけど、大した技術だぜ」
ロックは工具を取りだして【魔法具】の分解に取りかかっている。新しいオモチャを手に入れた子どもみたいだ。何かの手がかりが見つかるかもしれないし、放っておいてもいいだろう。
「で、そっちは何がわかったんだ?」
「体調を崩した生徒たちは、やっぱり七不思議にまつわる場所へ行っていました。第3美術室、屋内演習場の女子更衣室、そして第1音楽室です」
「第3美術室と屋内演習場の更衣室は使用中だから入れなかったけど……たぶん、なにかしら仕掛けがあるんだろうな」
俺の言葉にアオイがうなずく。
「第3美術室は夕方に1人で残っていると、不気味な女が現れて絵の中に引きずり込まれる……というものです。屋内演習場の女子更衣室は、3人で降霊の儀式をすると、願い事を叶える精霊が出てくるのだとか」
「更衣室のはそんなに怖くないっスねぇ」
「少しでも儀式の手順を間違えると、首を吊り上げられて殺されるそうです」
「厳しい精霊っス……」
たしかにちょっと手順を間違えたくらいで殺されたら、たまったもんじゃない。
でも、これも作り話というか、根か葉のない噂ってところだろう。元になってるのは魔神や魔族の召喚に関わる儀式かもしれない。
アルカの方をチラリと見ると、視線が合った。「あとで調べとく」という感じでうなずいている。
「アオイ、体調不良になった生徒は全部の場所に行ったのか?」
「いえ、3カ所に行っている人もいますが、ほとんどは1カ所か2カ所です。最後にどこに行ったのかもバラバラですが……女子更衣室が最後という人はいませんね」
「なるほど……」
俺はさっき黒板に書いた七不思議スポットのうち、第3美術室と第1音楽室に丸をつける。
「体調不良になった生徒は幽霊を見たとか、妙なものに遭ったとか、なにか言ってなかったか?」
「はっきり何かを見たとは言っていなかったそうですが、ひどく怯えた様子だったそうですね」
「ということは、なにかがあったんだな」
もともと学院にあった七不思議の噂、その舞台となる場所に仕掛けられた【魔法具】、なにかに遭遇して体調を崩した生徒たち。
はっきり言って推理の材料は足りない。ここで考えてるだけじゃ、真相にはたどり着けないだろう。
だけど――
「隠れ蓑ってやつかもな」
「ん? どゆこと?」
「なにかバレたくないことをしていて、怪談でカモフラージュしているというか、幽霊の仕業にしようとしてるっていうか……」
「では学校を休むほどの体調不良は、何者かが故意に起こしたものだと?」
「あくまで仮定だけどな。ここから先は確かめてみるしかない」
「確かめるってぇ……実際にやってみるってことぉ?」
ハトリの言葉に俺はうなずく。
「条件が合うのは、第1音楽室だな。夜1人で教室に行くと、腕だけの音楽教師が現れてピアノを弾く。それを聞くと呪われる……か」
* * *
夜の校舎は、騒々しい昼間とはうって変わって、自分の息づかいが大きく聞こえるほどの静寂に包まれている。あれだけ激しく降り続いていた雨はいつの間にか止み、廊下の窓からは月の光が差し込んでいた。
俺は事務棟で借りてきた鍵を使い、第1音楽室に足を踏み入れた。学院の音楽室はおもに【魔法】と音楽を組み合わせる技術の訓練に使われている。カーラが得意とする【歌唱魔法】や楽器を使う【演奏魔法】がその代表例だ。
音楽を使う【魔法】は、【魔素】のコントロールだけじゃなくて音楽の素養も必要になる。
(〈前世〉の学校で見た音楽室と、あまり変わらないな……)
学生用の机が並んでいて、壁際には楽器や楽譜を収めた棚がある。
そして教室の前方には大きなグランドピアノが置かれていた。
(これが例のピアノね。夜に1人で残ってると、腕だけの音楽教師が現れてピアノを弾く。その音楽を最後まで聞くと呪われる……だったっけ)
呪われた結果どうなるかは伝えられていない。怪談話ではよくあるパターンだ。
装置は取り除いているから、怪奇現象が起こらないはず――
ターン……
「!?」
音楽室にピアノの音が響く。
(【魔法具】はもうない。なら、これは……)
俺は慎重にピアノに近づいていく。鍵盤の蓋は空いていて、カーテンの隙間から差し込む光が白と黒の配列を照らしている。
鍵盤を叩いた教師の腕は――ない。
ゆらり
空気が揺れる。俺の背後に何者かが身を起こす。
「耳、押さえた方がいいぜ?」
俺は後ろ手に持っていた筒を床に落とした。筒がコツンと音を立てて跳ねるまでの短い間に目をつぶり、手で両耳を塞ぎ、ついでに口を開ける。
バァン!!
「ぎゃあぁぁっ!?」
すさまじい破裂音が教室を震わせ、まばゆい光が弾けたことが、閉ざした目と耳でも確認できた。そして、それを間近で食らった誰かが、机をなぎ倒しながら床に転がったことも。
「とぉつにゅ~~~!!」
威勢のいいかけ声と一緒にカーラをはじめ〈カッパー〉のクラスメイトが音楽室に飛び込んでくる。
俺は頭を振って衝撃の余韻を振り払った。
「至近距離で使うものじゃないな……まだクラクラする」
「そらァな。でも威力は身にしみて分かっただろ?」
ロックが床に転がった【魔法具】を拾い上げてニッと得意げに笑う。
「ああ、大したもんだよ。これなら実戦でも使えそうだ」
俺はそう言って床に転がった犯人に目を落とした。
男子学生だ。制服の肩についた校章は金色で〈ゴールド〉クラスの生徒であることを示している。
俺はその姿に見覚えがあった。
「お前、あの時の……」
「ぐ、ぅぅぅ」
頭をおさえて呻く男子学生は、昼間に事務棟で俺に嫌がらせをしてきた同級生だった。
読んでいただいてありがとうございます!
さて犯人の彼、どんな事情があるのでしょうか。
鍵はどうしたのかって? 〈ゴールド〉だからなんとでもなるのさ。
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