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「……こうして魔王を見事討ち倒した勇者とお供の女性は国へ返り、王へ報告した。その日のうちに盛大な祝いの祭りが開かれ、三日三晩続いたという」


「ん」


「二人はその後国で一番高い塔に登り、結婚式を挙げた。民からはたいそう祝福され、また少しの嫉妬も投げかけられた」


「ん」


「やがて塔は恋愛の聖地とされ人が集まり、いつしか町となった……共に景色を見た二人は結ばれるという塔の町での話はこれが元みたいだな」


「ん」


「エル、この話を聞いて何か思うことはないか?」


「ロマンチック?」


「あーほら、エルは俺と塔に登って景色見ただろ? それでこう……」


「きれいだった」


「ああ、綺麗だったな……」



 ため息は余計くすぐったいからちょっとやめて欲しい。



「それにしても、貴重な記録が誰でも読めるなんて凄い宿ですね」


「言い忘れていてすまなかった。俺の方は気を利かせて貰ったってのにな」


「いえ、いいんです。僕の確認不足ですから」


「次に見つけたらしっかり伝えよう」


「ありがとうございます」



 ショタの子は本が好物だ。ゲームでも好感度が二番目に上がるプレゼントは本だった。ちなみに一番は全キャラ共通で指輪である。


 別行動の時は大抵そこかしこの本を読んでいるショタ君が宿の本を見逃したのは珍しい。勇者は気を利かせてくれたからと言っているけど、何にだろう。



「それでは、僕は買い物して来ますね。勇者様、頑張って下さい」


「ああ、ありがとう」



 ぼく達は今、花の町にいる。花畑の広がる土地の中心に位置し、常に甘い香りが漂う夢のような町だ。


 旅人の宿を出てから数時間で着いて、ボスも例のごとく勇者が一撃で吹っ飛ばしてしまい自由時間となっている。


 一応、ここのクエストは町の中心で暴れ花畑を荒らすボスを倒して欲しいというものだ。町に入ったら突然暴れるモンスターの姿が映るのはインパクトのあるイベントだった。


 町の中心なんて分かりやすい上ひらけた場所にいたばっかりにぼく達が町に入った瞬間に倒されてしまったわけだが。勇者の魔法って結構遠くまで狙えるんだなあ。



「エル、またよだれ出てるぞ。ほら」


「むぐ、ありがと」



 いけない、ここは花の香りで勝手にお腹が空いてくる。勇者のハンカチがベトベトになる前に何か食べよう。


 近くの屋台に丁度二人で頼むと安くなるメニューがあったので、それを買って食べる。



「勇者も食べる?」


「折角だから、一口残しておいてくれ。後はエルが全部食べていいぞ」


「一口でいいの?」


「昼食がまだ残ってるからな」


「じゃあ、いただきます。もぐもぐ」



 おいしい。料理の香りが町の香りによく合っていて、ふわふわした気分になる。



「おいしいか?」


「おいひい」


「そうか、良かった。……ん?」



 食べていたら本当にふわふわしてきた。それにからだが熱い。頭もくらくらするし、もしかしてかぜかな。



「エル、大丈夫か? 突然顔が赤くなって……まさか」



 でもなんだかいいきぶんだからいいかぁ。あ、ゆーしゃにフォークとられた。



「かえひて」


「やはり酒か……エルは弱かったんだな」


「ぼく、つよい」


「ああ、エルは強いな」


「ゆーしゃがなれてくれたぁ。えへへ、ゆーしゃすきぃ」


「!?」


「あぇ、おもったことぜんぶでちゃう。まいっかぁ」


「な……るほど。このままでは色々とまずいな、ひとまず宿に帰るか」


「もうかえるの。たのしかったぁ」


「エルが楽しんでくれたなら良かった」


「ん、またでーといくぅ」


「デっ!?」


「これでーとらよ? でーといべんと、ゆーしゃと。うれしい」


「デートイベント……? あ、ああ。ありがとう」


「えへへぇ……」


「……寝てしまったか」





 そういえば、花の町のデートイベントではヒロインが酒を飲んで酔っ払ってしまうというものがあった。ぼくはどうやら宿で寝ていたみたいだから見てないけど。


 ベッドから起き上がるとすっかり夜になっていた。それに頭が痛い。



「エル、起きたか。とりあえず水を飲んだ方がいい、ほら」


「ん、ありがと」


「頭痛はきてそうだな……夕飯は持ってきてあるが、どうする?」


「たべる」


「そうか、分かった」



 風邪を引いていたのか、体がだるい。寝る前のことも思い出せないし多分風邪だろう。


 転生してから一度もかかってなかったけれど、かかる時はかかるものだ。汗は勇者が拭いてくれたのかすっきりしている。


 勇者が湿ったタオルとハンカチを丁寧にたたんで袋に入れて保存魔法をかけているけど、タオルとかを保存してどうするんだろう? 勇者ってたまによく分からないことをする。


 宿のご飯は体に優しいものを特別に用意してもらっていたようで、普通に足りなかったので食堂で食べた。


 宿のおばさんに二日酔いは大丈夫かと心配されたけど、お酒なんて飲んでないから別の人と勘違いしているみたいだ。


 結局、頭が痛くて三人前ぐらいしか食べられなかった。






「急にどうしたんだい勇者様、弱めの酒について教えてくれって」


「うむ、昼にエルが酒入りの料理を食べて酔っ払ってしまってな。これから先絶対に飲まないというわけでもないだろうから慣らしていきたいんだ」


「なるほどねえ、嬢ちゃんは酒に弱かったか。……でも、俺もそんなに詳しいわけじゃねえぞ?」


「構わない。この件についてはパーティーの中で一番頼れるのがあなただからな」


「頼られるってのは嬉しいね。じゃあ俺の知っていることを教えよう。……ちなみに、逆に酔わせるための酒ってのもあるんだが」


「……教えて欲しい」


「ははは、青春だねえ。応援してるぜ、勇者様」

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