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 それに気付いた時、ぼくは少し心臓が跳ねた気がした。


 このゲームには一つ、大きな分岐点となる場所がある。神の町と呼ばれるそこは、今向かっている町の次の町だったはずだ。


 神の町では、勇者に神託が下される。内容は仲間との関係性について。


 この神託によって誰のルートに分岐するかが正式に決定することとなる。今回の場合は幼なじみだろう。


 誰かのルートに入れば以降はそのキャラ以外の好感度を上げても友達レベルまでで頭打ちになる。


 そして、エンディングで結婚する相手もそのキャラとなるのだ。


 ぼくは友達として、勇者と幼なじみの結婚を祝福したいと考えている。式ではきっと美味しい料理が食べられるし、ブーケをキャッチするのもやってみたい。やってみたい……けど……


 なぜか、勇者が幼なじみと式を挙げているところを想像すると胸のあたりが変な感じがした。


 妙な気持ちを振り払うように、外の景色を見ることにする。今は花の町を出て、馬車でのんびり走っているところだ。



「花畑、もうほとんど見えなくなっちゃった。なんだか寂しいわね」


「草原だっていいじゃねえか。見ろよ、すっげえ広いぜ」


「悪くないけれど、草原の緑は見飽きたわ」


「まあ、移動に使う時間も長いんだから仕方ねえよ。それに、草原よりもこっちの方が見飽きただろ」


「あはは、違いないわ。……なんでそんなに撫で回してるのに何も言われないのよ、ずるい」


「ふっ、愛の大きさの違いだ」


「しゃらくさいわね。そこ代わりなさいよ」


「エルに聞くといい。無論、俺を選ぶだろうがな」



 昨日、ぼくが体調を崩してしまっていたので今日は心配した勇者にひざ枕をして貰っている。


 実は今まで一度もやって貰ったことがなかったので、少し嬉しい。それに安心感がすごい。ひざ枕がカップルの定番になるのも分かる気がした。



「エルちゃん、あたしがひざ枕してあげる。こっちおいでー」


「ん……ちょっと、やだ」


「どうして!? あたしの方がエルちゃんを目一杯可愛がってあげるのにっ」


「や」



 幼なじみの撫で方はこう、上手く言えないが執拗なのだ。さながらペットの小動物を愛でる飼い主のような……


 勇者の撫で方は安心するゆったりとした撫で方で、ぼくの全部を受け入れてくれるような包容感がある。


 今まで見たことも無いような勝ち誇った顔をしていても撫で方は変わらず、とても快適なひざ枕が維持されていた。


 しばらく揺られていたら眠くなってきた。まだ次の町には着かないし、寝てしまっても大丈夫だろう。



「まあ、なんだ。あまり構いすぎると敬遠されるぞ」


「ずるい……」




 夕方ごろに目を覚ますと、ちょうど次の町に着くところだった。


 辺りは岩山に囲まれており、彩度は低いが雄大な町並みに圧倒される。ここが神の町の一つ前の町である、谷の町だ。


 町の中央部に巨大な亀裂が走っているのでそう呼ばれている。岩山の高低差を生かしたマップは迷いやすいものの、とても美しいと評判がいい。


 ここのクエストは谷を渡るためのつり橋の修復だ。と言ってもぼく達が直接修復するのではなく、資材を集めて大工さんにお願いする形になる。



「何、つり橋が落ちてしまったのか」


「そうなんです。長年使われ続け老朽化が進み、最近ついに……」


「いつ直る予定なんだ? 俺達にできる事があるなら協力しよう」


「勇者様にそう言って頂けると心強いです。橋板に使われている木材がこの辺りでは魔物からしか入手出来ないのですが、町の民の力だけではあと数週間はかかるかと」


「なるほど、分かった。その魔物を狩って木材を集めてこよう」


「ありがとうございます! ですが、今日はもうこんな時間ですから、宿にご案内しますね」


「いや、今からでも十分だ。エル、いけるか」


「ん」


「勇者様、お待ちください。勇者様!」



 というわけで、魔物狩りだ。十数匹倒すだけなので、数分で終わるだろう。ついでにもう一つ要求される素材を採ってくる。



「エル、その実は苦いやつじゃないか。何に使うんだ?」


「ん、ちょっと」


「まあいいか。久しぶりの狩りだ、腕が鳴るな」


「ん」



 予想通り数分で終わり、資材と素材を持って町に戻ると町長に驚かれた。



「本当にこんなに短時間で集めてきてしまったのですか!? それにこの実は……」


「その実に何か意味があるのか?」


「これは、橋大工の好物なのです。資材があってもこの実が無ければ仕事をしてくれないのですが、これで橋をかけてくれるはずです」


「そうだったのか。すごいな、エル」


「ん」



 えっへん。これで、明日には橋が出来上がっているはずだ。


 同時に、橋を渡れば次は神の町での神託があると思うとちょっとドキドキした。






「ああ、これできっと確信に変わった」



 少女は、その様子を町の高い建物の上から眺めていた。



「彼女は異分子だ。明らかに、これまでとは違う動きをしている」



 少女は、先を憂うように笑う。



「くく、神はこれを見逃さないだろうね。今回もまた失敗だったと言うのだろう」



 少女は、鋭い目で神の町を見る。



「けれど、ここは既に作りものの世界じゃないんだ」



 そして、その姿は夜闇に紛れ消えていった。



「何があろうとも、最高の結末にしてみせるさ」

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