発狂するオタク、九条氷華
◆ 九条氷華 視点
「はっ......!? こ、ここは何処?」
はぁ、私とした事が......気絶しちゃったと言うのかしら? 可愛いが過ぎるのも本当に困ったものだわね.......エルちゃんが可愛過ぎて気絶したと言う前代未聞の珍百景じゃないの。
今まで幼女を見ても可愛いなと思うだけだったけど、エルちゃんに関しては別格でした。エルちゃんがそこに居るだけで、周りはハッピーになれる上に救いようの無い重度のロリコンと化してしまいます。
「え、待って......こ、この部屋はもしかして!?」
私が今居る部屋、ここは恐らくモモネちゃんが配信で使用している部屋ではないでしょうか!? 女子力の高いファンシーな愛らしいピンクの部屋に、配信で使うであろう様々な高価な機材が置いてあるんだもん!
「......すぅ......はぁ......」
落ち着け私......ヒーヒーフー、落ち着くのよ九条氷華! やばい、何だか興奮して来たわ! このベッドで恐らくモモネちゃん......葵さんが寝ているんだろうなと思うとやばい。悪い事してる訳では無いのに謎の罪悪感が芽生えそうです。
「くんくん......あぁ、良い匂い♡」
全国のモモネファンの皆ごめん! 私、今モモネちゃんが寝ているベッドにgo to bedしてるんだ! ワタクシ如きがモモネちゃんのベッドで寝ている。
「ふふ.......」
これは、モモネちゃんと身体を合体させてると言っても最早過言ではありません。この背徳感が堪らない♡ この布越しに伝わるモモネちゃんのメスの匂い。モモネちゃんも可愛いけど、中の人の葵さんも極上の美少女なものだからヨダレものよね♪
「えへ、えへへ♡ すぅ.......はぁ.......♡」
もうこのまま永眠していたい。辛い現実から目を背けて、平和で穏やかな世界で暮らしたい。私はただ平穏な日々が欲しいだけのごく普通の女です。
私は血みどろに塗れた裏社会から足を洗いたい.......普通に推し活したり、お友達を作って一緒に喫茶店に行ったりショッピングに行ったり、コンサートやライブにコミケで楽しくコスプレしたいだけなの!
「ぐすっ.......後、私は何人、人を斬ればいいの?」
私は今回のエルちゃんとの出会いで改めて分かったんだ。私には裏稼業や殺し屋何て向いてない。自分の気持ちをただ押し殺していただけなんだと.......
「美玲お嬢様に辞表出そうかな.......」
しかし、そんな事したら何をされるか分かったもんじゃない。何年か前にこの仕事を辞めたいと行ったら、拷問部屋送りにされて、服を脱がされて動画を回されあんな事やこんな事をさせられたのです。
【氷華ちゃん〜次辞める何て言ったらぁ〜この動画AVとして販売しちゃおうかな〜きっと、一生消えないデジタルタトゥー刻まれちゃうね♡ 氷華ちゃんのナイスバディがネットの海を駆け巡っちゃうなぁ♡】とか本当にお嬢様は人の皮を被ったサイコパスです。私じゃなくて、美玲お嬢様がAV落ちすれば良いのに.......
最早、私の生殺与奪の権利はお嬢様の手にあるも同然。
「ん? 何冊か本が置いてありますね.......」
シンプルな青色のブックカバーがしてある。常識的に考えたら、勝手に他の人が読んでる本を見るのはタブーとされそうですが、西園寺モモネちゃんが読んでる本となるとめっちゃ気になってしまう。非常識と後ろ指を差されても良いから見てみたい。と言うかこの部屋全ての物が気になります! 私が今居る場所は、この世でもっとも尊くも神秘的である聖域です。
「葵さん、ごめんなさいね。どれどれ.......【子育てのプロッフェショナル】、【褒めて伸ばす!教育最強プログラム】、【愛されるお姉ちゃんの極意】、【魅惑のトーク術】、【スイーツ作りのプロッフェショナル】、【企画力の差別化】、【足るを知る。人生の幸福論】......凄い」
おおぉ......葵さん勉強熱心ですね。様々な本にマーカーや付箋が沢山してあります。妹キャラのモモネちゃんとはまた新たな違う一面が垣間見えた様な気がします。エルちゃんの為に色々と頑張っているのですね。
葵さんが西園寺モモネとして、VTuberの最前線に立ち続けている理由も納得できます。真面目でファンを大事にする姿勢、時流を読む先見の明、巧みなトーク術や自己分析、圧倒的の歌唱力と萌え声の美声、企画力、愛嬌と素直な姿勢に裏で人よりも何倍も努力してたり等......
「ふむふむ......ん? こっちは【一ノ瀬家の日記】。葵さん日記まで付けてるんだ」
もう、ここまで見てしまったら今更です。葵さんの日記を少し覗いて見てみましょう。
【〇月〇日 〇曜日、エルちゃんが初めて【あおいねーたん】と呼んでくれた。私はその日嬉しくて、晩御飯は豪勢に黒毛和牛のすき焼きとエルちゃんの好きなケーキやお菓子を用意しました。エルちゃんは目を輝かせながら興奮して、楓お姉ちゃんに宥められて居たのは、見ていて思わず笑ってしまいました♪】
あらあら、葵さん相当嬉しかったのですね♪ 葵さんの字を見ると何だかこちらまで、ウキウキしてる様な気分になれちゃうくらいに嬉しさが伝わって来ます。一ノ瀬家の日記を全部読んで見たいですが、相当なページがあるので一通り見て気になる所だけ読んで見ましょうか。
【 〇月〇日 〇曜日、楓お姉ちゃんの部屋から......〘ふた〇りショタに転生してしまった件〙と言う、かなりニッチでマニアックな本をまた見つけてしまいました。前はそう言う本がバレるのが恥ずかしいのか、カバーを掛けて机の引き出しや押し入れに隠してあったけど、最近では堂々とベッドの上にカバーも掛けずに置いてあったり等......エルちゃんの目のつかないように私がいつも自分の部屋に持って行くのが日課になって来ています。楓お姉ちゃんの性癖がこれ以上歪ま無いように妹して不安です】
なるほどね。私と楓お姉さん、案外気が合うかもしれません。私も最初はR-18本は恥ずかしくて、押し入れの中に全て隠してましたけど、一人暮らしをしているうちにその辺に置いてあったり、机の上に段積みして置いてあるので私も恥じらい等、日が経つ事に薄れて行きましたね。最早手の届く範囲に置いて置く方が合理的で読みたい時に直ぐに読めると言うメリットがあります。
―――次は、このページを読んで見よう。
【〇月〇日 〇曜日、私はいつも楓お姉ちゃんやエルちゃんよりも早く朝は起きます。その理由のひとつに楓お姉ちゃんのスマホをこっそりと確認する事です。お姉ちゃんに変な虫が付かないようにするのも妹の責務......検索履歴、トーク履歴、SNS、電話帳等を確認をしてますが、1つ気になる事がありました。お姉ちゃんのLI〇Eのトーク履歴に何と男らしき名前があったのです! 名前は前田優希......私はその日、内心穏やかではありませんでした。お姉ちゃんに相応しい男かどうか、妹の私がしっかりと見定め無くては行けません。お姉ちゃんは案外恋愛には無頓着な部分があったり、スカート周りのガードが緩かったりと抜けてる所が結構あります。楓お姉ちゃんは、妹の私が言うのもなんですが、超美人で昔から異性にも沢山モテるのです。お姉ちゃんは経験豊富そうに見えますが、実は初心でまだ殿方との経験も無い。まあ、同性経験ならあるけど......とにかく、お姉ちゃんが悲しまない様に私はその翌日から、お姉ちゃんのカバンの底とヒールの裏に細工をしてGPSを付けるようにしました。これでお姉ちゃんの一日のおおよその流れが分かるし、帰りが遅い時も確認が取れるので少し安心です】
お、お姉ちゃんへの愛が重すぎる......ふふ、でも私はそんな葵さんも大好きです♡ ますますモモネ愛が深まってしまいます♡
【そうしたら、私はありとあらゆるコネも使い、このお姉ちゃんのトーク相手の前田優希と言う男を徹底的に調べ上げました。その結果、お姉ちゃんの高校の同級生で何と女性の方だったのです。拍子抜けしてしまいましたが、内心はホッとしました。これからも楓お姉ちゃんを守れる様に引き続き頑張って行こうと思います】
まさかのそう言うオチでしたか。確かに男性なのか女性なのか分かりにくいお名前の方もおりますよね。
「ふう......読むのはこの辺にしときましょうか」
葵さんは配信でもお姉ちゃんの事を良く話して居たので、葵さんはお姉ちゃん大好きっ子なのかなと思ってましたけど、これは想像を上回る程の重度のシスコンですね。こう言うねっとりとした愛も私は大好物ですよ♡
「失礼するよ〜氷華さん体調の方は大丈夫?」
「ふぅえええええええ!?」
「え、何事!?」
いきなりの葵さんの登場に思わず奇声を上げてしまいました。は、恥ずかしい.......冷静に考えて見れば、今の私は葵さん.......西園寺モモネちゃんとリアルで会って話しているんだ。あの有名な大人気VTuberの西園寺モモネちゃんが私の目の前に.......何だか心拍数が上がって来てる気がする。もう駄目かもしれない。私おかしくなっちゃうよぉおおおおおお!!!!
「ごほんっ。ほ、他の皆様は?」
「下でエルちゃん達と遊んでるよ〜クリスさんや彩芽さんにフィーネちゃんもエルちゃんにもうメロメロで、あれは遊んでると言うよりエルちゃんが弄ばれてるだけかもしれないかな。うちのお姉ちゃんに至っては、エルちゃんを着せ替え人形の様に可愛いお洋服を着せて興奮してたよ。とても見るに堪えない様な.......乙女のして良い顔じゃなかったな.......あれは」
ほほう.......エルちゃんは本当に凄いですね。BOSSと出会ってから、あんな穏やかな姿を見たのは初めてかもしれない。【天狼会の狂犬】と呼ばれ恐れられてはいるけれど、エルちゃんと絡んでる時のBOSSは傍から見れば面倒見の良さそうなお姉さんだ。あの狂犬を誑し込むとは.......しかも、一流の暗殺者ロスモンティスの執行者達も陥落。エルちゃん恐るべし.......
「あ、あの.......葵さん!!!」
「ん?」
やばいまた緊張して来た。目の前に神【推し】が居ると言う、人生で宝くじが当たるかどうかのレベルの確率に私は今遭遇している。今日は私服だけど、いつもより気合いを入れてカジュアル系のラフで余裕のある大人のお姉さんの格好をして来たのです。
「はぅ.......」
「氷華さん、無理しなくて良いからね? きっと日頃の疲れが溜まってたんだよ〜良し、私が少しマッサージしてあげる♪」
「マッ.......!?」
え、マッサージ!? ま? え、嘘.......こんなワタクシ如きにモモネちゃんがマッサージとか、他のファンのみんなに怒られちゃうよ! いえ、冷静に考えて見ればこれは.......そうだ、特典と思えば良い。
今まで推し活に稼いだお金を全て捧げて来たんだ。その額は億単位になるだろう。それに今なら.......私と葵さん2人だけ。あぁ、イケナイわ。落ち着け私.......九条氷華。変な欲望に身を任せたら、きっと私は私で居られなくなる。ケダモノになって葵さん(モモネちゃん)を襲ってしまう!
「こう見えて未経験ですので、お手柔らかに.......ぽっ♡」
「いやいや!? 普通のマッサージだからね!? そう言うのはお姉ちゃんだけで充分だから!」
ふ〜ん。楓お姉さんはそっち系何ですね.......良い情報を聞きました♪ それにしても葵さん.......妹キャラが強すぎて私には眩し過ぎます。私にもこんな可愛い妹が居たら、人生変わってたのかもしれません。
「氷華さんの肌.......めっちゃ白い。柔らかいけど、しっかりと筋肉も付いてて弾力もあるんだね〜つんつん♪」
「うふ.......♡」
葵さんの華奢な指先が、私の肩に触れています♡ 初めてをモモネちゃんに捧げる事が出来たので、我が人生一遍の悔いなし♡
「綺麗なネイビーブルーの長い髪、氷華さんお手入れしっかりしてるんだね。髪からも良い匂いがする」
「こう見えて、美容には気を付けておりますので」
葵さん(モモネちゃん)が私の髪を褒めてくれてる! 葵さんの指先に私の髪の毛が.......ううっ。一つ一つの動作に感動してたらキリが無いですが、今だけは許してください。私にとって、モモネちゃんは人生を変えてくれた推しだもん!
「はぁん.......♡」
「うわ.......氷華さんめっちゃ肩凝ってるね。あんまり無理したら駄目だよ?」
「胸が大きいと肩凝るんですよね.......」
「それめっちゃ分かる! しかも、歩いてると自分の足元が胸に隠れて見えないし」
「大きいサイズだと良い事全然無いですよね」
またこうしてマッサージして貰えるなら、いくらでも無理しちゃおうかな♡ 天国はここにありました♡
氷華はうっとりとした表情で葵のマッサージを堪能したのであった。
―――2時間後―――
「そっかぁ〜氷華さんも色々と苦労してるんだね」
「そうなんです! 美玲お嬢様は人の皮を被った悪魔なのです! 拷問が趣味で人が苦しむ表情を見るのが好きな超ド変態!」
もうどれ程の時間が経過したのでしょう.......葵さんは聞き上手で、思わず色々な事を喋ってしまいました。暗殺者の一面を持つ私を葵さんは怖がらずに受け入れてくれたのです。と言うか大半が美玲お嬢様に対する愚痴だった様な気がします。それ程までに私の心は、鬱憤や不満が溜まっていたのかもしれませんね。
「珍しいな。氷華が感情をそんなに見せるなんてな」
「ボス!? い、いつの間に.......」
「え、彩芽さん!?」
「葵ちゃん、すまんな。勝手に乙女の部屋に入ってもうて〜氷華の具合を見に来たんや」
気配に全然気付けなかった.......え、ボスに何処まで聞かれたのかしら? この流れだとボスが美玲お嬢様に報告をして、私が処される可能性がある?
「所でボス.......何処まで話しをお聞きに?」
「あぁ.......氷華が美玲の抱き枕になっての所から」
めっちゃ最初じゃん! え、全部聞かれてたの!? あぁ.......恥ずかしい。もうやだ、普通の一般人に戻りたい。これ間違いなく後で美玲お嬢様から罰が下される!?
「氷華の気持ちは良く分かるで.......あいつは頭のネジが1本.......いや、100本くらい外れてるからなぁ」
「ボス.......」
「よし、あたいの責任でもあるからな。氷華さえ良ければ、神楽坂組本部で事務員やってみへんか?」
「はい、是非お願いします!」
「おいおい、即答かよ(笑)」
神様.......ようやっと人生に希望が見えて来ました。もうこれで美玲お嬢様から解放されるのであれば、私は何でもします!
「美玲も食い下がって来るやろうが、あたいの命令には素直に聞くからな。氷華はもう関東に戻らなくてもええからな。あたいが美玲を説得しとくで」
「あ、ありがとうございます! ボスに一生付いて行きます!」
今回の出来事が、私にとって人生の転換期となるかもしれません。最初は気乗りしなかった任務でしたが、西園寺モモネちゃんと言う推しとの出会い、エルちゃんに癒されたと思えば、職場の環境も良くなりそうです。生きていれば良い事もあるんだなとこの瞬間に思いました♪
「氷華さん良かったね! 私思ったんだけど、氷華さんVTuberやってみたらどうかな?」
「えっ.......わ、私が!? 陰キャなコミュ障ですが.......」
「そんな事ないよ♪ 氷華さんはもっと自分に自信を持った方が良いよ! 氷華さんのVTuberに対する知識や美しい声に言葉のポキャブラリーの引き出しの多さ、ひとつの事に向ける情熱の熱量。意外とVTuberに向いてると思うんだ♪」
私がVTuber? そんな事1ミリも考えた事がありませんね。
「暗殺系お姉さんVTuberとか需要ありそうやな!」
「彩芽さん、それは未知のジャンルだね(笑)」
「いや、待てよ.......神楽坂組のイメージアップの為にヤクザ系VTuberとかええんちゃうか?」
「おお! 彩芽さん、それありかも! 面白そう!」
「うちらも古い体質の人間ばかりやからなぁ.......そろそろ新しい風を取り入れて、ヤクザの在り方も少しずつ変えてかんと、これからのご時世生き残れへんやろし」
今まで推しを応援してたけど、今度は自分が誰かの推しになって夢や希望を与える.......成功するかは分からないけど、挑戦してみる事に価値はありそう。
「氷華、神楽坂組でVTuberやってみるか?」
「はい、ボス! 誠心誠意頑張ります!」
「私も応援してるよ! 困った事や分からない事があればいつでも相談にも乗るし♪ いつかモモネとコラボしよーね♡」
「コラボ!? そ、それって.......」
お風呂コラボとかでも良いのかしら? モモネちゃんとコラボ出来ると言うのなら、この九条氷華。命を掛けて、神楽坂組でのVTuber事業を成功させて見せるわ!
「葵ちゃん、改めて今回一ノ瀬家には、本当に多大な迷惑を掛けた。今後何かトラブルや困った事があれば、何時でも神楽坂組は一ノ瀬家の助けになるで」
―――彩芽は葵に頭を深く下げた。天狼会武闘派の神楽坂組のトップが頭を下げるのは異例の出来事である。
「あわわ!? 彩芽さん頭を上げてください! 今回色々ありましたけど、でも私は楽しかったですよ♪ 更にはこうして皆さんとの繋がりも出来て本当に良かったですよ♪」
こうして、氷華の人生が絶望から希望に変わったのである。




