【番外編】聖女の姉ですが、家を追い出され売り払われ転売された先の娼館で日々楽しく幸せに生きております。③
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そして、日々楽しく生活を続ける内に隷属紋の効果が切れる二年という期限を迎えておりました。
この間に魔術の腕前を上げるだけではなく、新たに槍術も覚えましたので、このままブランシャトーで雇い続けていただく事も出来ました。
努力が実ると嬉しいですね。
そしてわたくしは、休暇を利用して新たに福祉活動のお手伝いを始めたのです。
この国は神殿の影響が弱い事もあってか独自の活動をする教会が沢山ございます。
この国に来て救われたわたくしは、恩返しの為に簡単な魔法講座や炊き出しのお手伝いをしております。
そんな活動をしている内に、一人の新米修道士と出会いました。
彼もどこかの国の貴族なのでしょう。
最初の頃などは昔のわたくしにそっくりでした。
横柄で尊大で。でもどこか抜けている新米修道士のレナートさんを補助しながら魔法講座を行うのがとても楽しかったのです。
そして、彼もまた緩やかに自分の事を見つめ直す事が出来たのでしょう。
以降は徐々に真面目な修道士の青年となっていき、日々祈りと福祉活動に尽力する様になって行きました。
流石は問題有り貴族を引き取って下さるクレモナの教会ですね。素晴らしい矯正力です。
しかも彼はレムリア王国の元第一王子なのだそうです。
噂では生涯幽閉と聞いておりましたのでとても驚きました。
それに、素性を明かすのはとても勇気が要る事だと思うのです。彼の行った悪行はクレモナ共和国でも有名ですもの・・・。
ですが、世話になったので秘密は持ちたくないと、わたくしに話をしてくれたのです。
折角なので、わたくしも元々はとても性格の悪い人間な上、ひどい散財癖があったとお伝えしたらレナートさんも驚いておりました。
今ではお金も魔力も節約第一ですしね。
フォルトーナを追放され、売られて、更には転売もされた身ですが今では隷属紋も消えてただの一般人になる事ができましたし、良き家族と友人を得る事が出来ました。
でもわたくしの贖罪が終わる事は有りません。祈りを止める事もありません。
その後ヴァイオレットの姉君ともお会いする事が出来ましたが、とても素敵な御令嬢でした。
妹を愛し、慈しんで下さる本当の家族なのだとすぐに分かりました。
それはわたくしには出来なかった事ですので、感謝を込めてお礼をさせて頂きましたが、今の自分にできる精一杯の品だと言うのにとても喜んで下さいました。
本当に優しく素敵な御令嬢でございました。
そして、そこで初めて帝国が神殿と聖女勢力の一掃に取り掛かった事を知りました。
セストの街で、逃亡神官確保のお手伝いをさせて頂けた事もとても光栄でした。
ジークリンデ様からヴァイオレットのお話を聞けば、起業をして忙しいけれど、幸せに暮らしている事が分かり安心致しました。
そして、もう一人の妹ルナリアは無期の幽閉となったそうです。
それに加え、何故わたくしが落ち着いた心を取り戻せたのか・・・それも判明いたしました。
ルナリアからの瘴気と怨嗟の伝染。それが原因で周囲の者は精神が汚染されていたそうなのです。
その上、領民を売買し魔物の売買もしていたと言うではありませんか・・・知らなかった事とはいえ、伯爵家の人間だったわたくしには責任があります。
ヴァイオレットの為に貯めたお金を領民達の為に使って欲しいと、幾つかの素材と共にジークリンデ様にお渡しました。
フォルトーナ領は無くなり、領地は割譲されたそうですから少しでも彼等の生活の足しになればと思います。
そしてヴァイオレットへは、もしもの時用貯蓄ではなく結婚祝い用貯蓄に切り替えました。
その内にきっと良いお話が風の噂に乗ってやって来るでしょう。
***
わたくしは日々を過ごしつつも、フォルトーナの領民が売られた先を探しておりました。
そして、その活動をしているうちに何故か帝国行政府より買い戻しのための資金という物を与えられてしまいました。
なんでもこれは旧神殿勢力の隠し財産なのだとか。ですので、遠慮なく使わせていただく事に致しました。
ですがこの小国群地方で見つけられたのは僅か三人。
彼女達に話を聞くと、その多くは南大陸まで売られて行ったのだろうという事でした。
「カトレア様、どうか、どうか妹をお救い下さい。」
「体の弱い少女もおりました。どうか、彼女らをお救い下さい!」
なんとか買い戻し、帝国へ送り出す彼女達がそう言い残しました。
ええ、勿論ですとも。わたくしにはその義務があるのです。
今まで何もせずにいたわたくしの贖罪だけでなく、元領主の娘としての義務です。
この身に変えましても必ず、売られて行った人々を取り戻します!!
「成程、そりゃ難儀なこったねぇ。ま、新しい護衛っ娘が二人もいるし。行ってきたらいいじゃないかい。」
事情をお話しした所、女将のロマーナさんは休暇をやるから行っておいでと言って下さいました。
ただし、ちゃんと帰って来なさい。という言葉を添えて。
本当に素敵な方です。
口では帝国の事業にわたくしが関わる事で、羽振りの良い帝国の行政官のお客様が増えるからと言ってはおりますが、そうでない事などわかっておりますのよ。
わたくしの憂いを感じ取って下さって、思いやって下さっているのです。
「ありがとうございます、マスター。」
「コラ、アタシはもうあんたのマスターじゃないんだよ!いい加減慣れな。」
「失礼しました!ロマーナさん。」
隷属契約が切れたとしても、わたくしにとっては大切なマスターには変わりありません。
そんなロマーナさんに背を押されて、わたくしは領民買い戻しの準備を進めていきました。
ブランシャトーの一室で帝国行政官達と打ち合わせをする事も増え、そのついでにお店を利用される方も増えました。
お陰で紳士なお客様が増えたと店の娘達も喜んでおります。
***
「カトレア、最近耳にした情報なのだが・・・」
ある日、元王子の修道騎士レナートさんが情報を持ってやって来ました。今では出会った頃と比べられない程に親切なお方になってしまっております。
「賭博好きエルフが自身の時間三十年を賭けて負け、南大陸に売られたと聞いた。買い取ったのはマッケンジーと言う商人らしい。」
「マッケンジーさんの商船なら南方、そこから更に南大陸へ行けますね。でも妙ですね。果物専門の彼が何故人間を・・・?」
「ああ、それなんだが・・・カジノで全財産使い切った上負けを取り戻そうとした例のエルフが三十年分の隷属紋でマッケンジーから金を借りたらしい。」
「それで結局負けてしまったと・・・」
賭けに弱いのに賭け事大好きなエルフと言えば、ティリオンさんでしょう。
あの方なら・・・そうなってしまうのも納得してしまいます。
マッケンジーさんは最近大口の取引でとても儲かっているそうですし、上級魔術師クラスのエルフ三十年分の金額を払える筈です。
「エルフにとっての三十年は短いでしょうし。南大陸方面に売り払ったのはお灸を据えるという意味合いが大きいのではないでしょうか?」
「成程、それも一考だな・・・」
おや?レナートさんは他の可能性を考えていたのでしょうか?
「何か他に理由がお有りでしょうか?」
「いや、考え過ぎかもしれないが・・・密偵として送り出したのではないかと考えている。」
「密偵・・・?」
「最近噂になっていてな。南方大陸で大きな戦が起こっていると。」
なんと言う事でしょうか!フォルトーナの民達が危険に晒されていると言う事ではないですか!!
急がなければなりません!!
「となると、なんとかして南大陸に渡る為の伝手と準備だな。」
「ええ、急がないといけない様です・・・?」
レナートさんがとても協力的過ぎて、不思議に思っているとまたしても世話になっている礼だとおっしゃいます。
むしろわたくしこそお世話になっている様な気がしているのですが、今はお言葉に甘える事にいたします。
「ありがとうございます、レナートさん。」
「いや、いいんだ。私がそうしたいと思っているというのが一番の協力理由なのだから。」
そう言って彼はプイッと顔を背けました。
この善き行いに何故今更照れているのでしょう?
いえ、今は情報収集と伝手探しですわ。
皆様直ぐに助けにゆきます。至らないわたくしですが、なんとかして助け出して見せますので今暫しお待ち下さいませ!!
***
必死に情報と南大陸に渡る伝手を見つける事ができた頃には、沢山の仲間が出来ておりました。
そしていくつかの奇跡が起こり、わたくし達は南大陸へ渡る商会の一団として旅立つ事になりました。
「カトレア姉様!凄い船ですね!」
そう声を掛けてくれる、わたくしの妹ヴァイオレットはわたくしの謝罪を受け入れてくれたばかりか、未だに姉と呼んでくれるのです。
「あまり身を乗り出さないで、ヴィー。落ちたら大変だわ!」
危険な旅はわたくしに任せておけば良いのに、ヴァイオレットもまた、フォルトーナでは何も出来なかったから、自分にも責任があると言うのです。
いくら説得しても絶対に行くと言って聞きません。
そんな問答をしているうちにルラーキ男爵令嬢のエリーゼ様が、大切ならばしっかり護ればいいのだから連れて行っておやりなさいな。と仰いました。
それで、あれこれ話してるうちにすっかり丸め込まれてしまい、ヴァイオレットの同行を許す事となってしまいました。
今度こそちゃんと姉妹の絆を深めたら良い。今度こそ姉として妹を守れば良い。
レナートさんもそうアドバイスして下さいましたが、彼は彼で弟さんと再会する事になってしまっていてとても気まずそうですが、わたくしは彼に言われた事をそのままお返し致しました。
帝国からおいでになった方々は、わたくしとは目的が違います。
彼等は手助けはしてくれると仰いますが、国外情勢調査官達もおりますから何か別の重要任務で来ているのだと思います。
そして、魔女様も同行されていますので・・・きっと、そう言う事なのだと思います。
瘴気を祓う世界守護の魔女がここに居る理由など一つしかありません。
ですから、絶対に全員助けます。
甘いと言われようが、綺麗事と言われようが、フォルトーナ領主がした罪は贖われなければなりません。
「まーたカトレア姉様難しい顔してる。」
「ごめんなさいね、少し考え事をしてしまって。」
「現地に付いてから考えましょうよ!先ずは南方諸島で果物を買い付けないと!」
緊張を解してくれようとしてくれる優しい妹。
ルナリアとも、いつかこんな風に話せる日が来るでしょうか?
難しいと分かっていても、祈らずにはいられません。




