第二話 ストレス発散の巻
「宇宙。それは遠い昔、戦場の場となった宇宙。戦場は宇宙のみに関わらず、人の心の中にもしっかりと存在するのだ。BY・わたし」
この時のわたしはひどく疲れていました。
願いましては心に響く名言を生み出し、紛らわそうとしたのが、馬鹿みたいです。
原因はあります。それは世の女性に対する嫌がらせ、パワハラです。
ここは連絡通路。いくつかの部屋の導線となっています。
そして、ここには押してはならないスイッチや踏みつぶしてはいけないケーブルがあり、その魔の誘惑から打ち勝つ日々を送っていました。
「毎度、毎度、わたしの身に染みます…とほほ」
「どうした? 知星人浮かない顔して」
すると、連絡通路に誰かの声がしました。消える人です。
「えっと、消星人さんですか?」
「そうですよっと」
消星人さんはわたしのキュートでチャーミングなお尻を優しくなでていました。それも手つきがこう…とても、ここでは言えません。
「な、なな、何をしているんですか?」
わたしは後ろを振り返ると、そこには朗らかな顔をしているただの変態さんがいました。死すべきか変態。
「消星人式のボディタッチ?」
「ここで通用すると思ってんですかぁー! この性犯罪者が!」
即座に強烈なビンタを一発、食らわせました。
ビンタを食らった消星人さんはよろめき床に倒れ込みました。
その後、さらに痛めつけようと試みましたが、善良たるわたしはそんな蛮行はいたしません。
「痛いです」
「当然です」
「へへへ」
「何がおかしいんですか?」
「せ、船内にいれば、誰だって気が変になるものだ。うんうん」
「それはあなたのストレス解消法に問題があると思いますが?」
ここは操縦室。
次のノア・プロジェクトの参加星に辿りつくまで、特にすることはないので、各々の部屋でくつろいでいるノアの搭乗員さんが多いです。
しかし、部屋で何もすることがない搭乗員さんは決まって、操縦室にたむろっていることが多いのです。わたしもその一人と認定されています。
ただ、微星人さんだけはちょうど似合う部屋がないので、顕微鏡が微星人さんの部屋と言っても過言ではありません。
「微星人さん」
「ん?」
「微星人さんは何か困ったことってありますか?」
「えっ、何だよ急に」
「なければいいんですけど…」
「そうだな…俺っち専用の部屋が欲しいなぁ」
「部屋? それはちょっと難しいですね。だって、簡単には作れませんよ。微生物サイズの部屋なんて」
「大丈夫。材料さえあれば俺っち一人でも作れるから」
「材料ですか。ここには転送される食糧品などの箱しかありませんが?」
「それで十分だ」
「加工したりするモノとか必要じゃありません?」
「俺っちの歯で噛み切れる」
「えっ、歯で?」
「俺っちの歯はハキリアリよりも丈夫なんだぜ」
「へぇー。初めて知りました」
「知星人なのに? んなことより、材料。材料を揃えてくれないか?」
ここは転送装置がある倉庫室。
宇宙船ノアがノア・プロジェクトの参加星に到着する度に食料品などの消耗品などがここに送られてきます。逆もまた然り。でも、それはずっと未来の話。
「やぁ、知星人!」
「これは輝星人さん」
「部屋から要らない物を送ろうと思うんだ」
「そうでしたか。ところで新しい星人さんはお見かけしましたか?」
「いや、まだだね。到着していないんじゃないかな」
ここは戻って操縦室。
わたしは持ってきた箱を細かく切り分けた後、それらを顕微鏡の台の上に乗せました。
「微星人さん、後はご自身で作るんですよね?」
「ああ、こう見えて俺っち、DIYは得意なんだ。任せとけ」
「じゃあ、わたしはこれで…」
「出来た」
「はい?」
「だから、出来たって」
「嘘だー。出来てないでしょうって、えー!」
わたしが覗いた先には住居が建っていました。これは幻ではありません。現実、リアリティです。
「これ作ったの、あの微星人さんなんですか?」
「そうだけど、その言い方!」
「そうだ、みんなにもお見せましょう」
「駄目だ!」
「どうしてです?」
「俺っちがこんなにも素晴らしいスキルを持っていると知ったら、みんなに疎まれそうで怖い」
「そんなことないですよ」
「やめろ、行くなー!」
その後、微星人さんの家はどうしたかって? はい、一人の星人さんに壊されました。一瞬にして。それが誰かさんのストレス解消法になったらしいです。
プチっと壊したら壊したで微星人さんがまた立派な建物を作るので、壊しても罪悪感はありません。めでたし。めでたし?
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