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第45話:準決勝・親友とのデッドヒート〜激甘パフェとアイドルの意地〜

師匠であるレジェンド・轟牡丹との熱戦を制し、ついにベスト4へと駒を進めたエルフの美少女・シルフィリア。

東京ビッグサイトの巨大アリーナは、休む間もなく繰り広げられる神々の宴に、熱気と興奮で揺れ続けていた。


「さあ! 全日本大食いチャンピオンシップ、舞台はいよいよ準決勝へと突入いたします! ベスト4に名を連ねたのは、いずれ劣らぬ最強の胃袋を持つ四名の怪物たち!」

実況の陣内拓海が、アリーナの中心でスポットライトを浴びながら絶叫する。

「準決勝、第一試合! このカードを待ち望んでいたファンも多いことでしょう! 片や、大食い界の頂点に君臨する現役トップアイドル、大食いクイーン・姫野くるみ! 対するは、無敗の快進撃を続ける異世界の(設定の)超新星、エルフちゃんねる・シルフィリアだぁぁぁっ!!」


ワァァァァァァァァァッ!!

会場から、地鳴りのような歓声が沸き起こった。

ステージの中央、スポットライトの下で向かい合う二人の少女。

フリルがふんだんにあしらわれたアイドル衣装に身を包んだ姫野くるみと、緑色のファンタジー風ワンピース姿のシルフィリア。

かつて、テレビの特番で『絶品スイーツ・わんこそば形式対決』を行い、店の在庫を食い尽くしてドローという伝説の死闘を演じた二人。その後、プライベートで原宿クレープを食べ歩き、大食いの苦楽を分かち合う一番の親友となった。

しかし今日、この舞台に友情による手加減は一切存在しない。


「シルフィ」

くるみは、カメラが回っている時の「あざとかわいい」アイドルスマイルを完全に消し去り、鋭い、本物の勝負師の眼差しでシルフィを見据えた。

「テレビの特番の時は引き分けだったけど、今日は白黒ハッキリつけさせてもらうわ。あんたがどれだけ才能に恵まれてようが、最後に勝つのは私よ」

「くるみ殿」

シルフィもまた、極上の笑顔を浮かべながらも、その碧眼に静かな闘志を燃やしていた。

「私も、あなたと再び全力を出し合って美味しいご飯を食べられるこの日を、心待ちにしておりました。今日は一切の遠慮なく、私の胃袋のすべてをぶつけさせていただきます!」


「それでは発表しましょう! 親友にして最強のライバルである二人の前に立ちはだかる、準決勝の食材はこれだぁぁぁっ!!」

陣内の合図で、スタッフが慎重な足取りで二つの巨大な物体をワゴンで運んできた。

その全貌が露わになった瞬間、会場からは驚愕の悲鳴と、歓喜のどよめきが同時に上がった。


「準決勝の食材は! 高さ五十センチ、総重量四キログラムの【激甘・特大パフェ】だぁぁぁぁっ!!」

テーブルに置かれたのは、まるでクリスタルの塔のような巨大なパフェグラスだった。

一番下には濃厚なチョコレートソースとコーンフレーク。その上に、何十個ものイチゴ、メロン、バナナといったフルーツの層。さらにスポンジケーキとプリンが丸ごと詰め込まれ、中心には巨大なバニラとストロベリーのアイスクリームが鎮座している。そして極めつけは、全体を覆い尽くすように絞り出された、雪山のような大量の生クリームと、カラフルなマカロンのトッピング。


「うおおおおおっ!! 宝石箱です! 甘くて冷たい宝石の塔がそびえ立っています!」

シルフィは、目をキラキラと輝かせ、両手で頬を押さえた。

しかし、大食い競技において、この『特大パフェ』は、見た目の華やかさとは裏腹に、極めて凶悪な難敵である。

生クリームの強烈な脂質。スポンジケーキの炭水化物。そして何より、アイスクリームの『冷たさ』。

熱いものと同様、極端に冷たいものは胃の活動を急激に低下させ、消化器官に甚大なダメージを与える。さらに、圧倒的な糖分は脳の満腹中枢を即座に刺激し、「もう甘いものは見たくない」という強烈な拒絶反応を引き起こすのだ。


「制限時間は四十五分! この巨大な甘の塔を、先に飲み干した者の勝利となります! レディ……ゴーッ!!」


ゴングが鳴った瞬間。

「いただきますっ!!」

くるみは、自らの身体の半分ほどもある特大スプーンを握りしめ、パフェの頂上にある生クリームとアイスの山に猛然と突撃した。

パクッ、ゴクッ。パクッ、ゴクッ。

彼女の武器は、小柄な身体からは想像もつかない『圧倒的なスピードと技術』である。

アイスの冷たさで胃が麻痺する前に、そして生クリームの脂が食道を塞ぐ前に、咀嚼を最小限に抑え、流動食のように胃袋へと流し込んでいく。

トップアイドルとして、常にカメラの前で最高の笑顔を振りまきながら、裏では吐くような特訓を重ねてきた。彼女のその強靭な精神力と大食い技術は、決してシルフィのチート能力に劣るものではない。


「素晴らしいスピードだぁぁっ! 姫野くるみ選手、まるで除雪車のように、特大パフェの山頂を一瞬にして削り取っていくぅっ!」


一方のシルフィリアも、負けてはいなかった。

「いただきます! んん〜っ! 冷たくて甘くて、最高ですぅぅっ!!」

シルフィは、準々決勝のハンバーガー対決で開眼した『魔力変換・巡航モード(クルージング・マナ)』をフルに稼働させていた。

美味しいと感じることで生まれるエネルギーを暴走させず、一定のペースで魔力へと変換し、体外へオーラとして放出する技術。

彼女の身体の周囲には、キラキラと黄金色の淡い光が舞っている。

「この白い雲(生クリーム)のような甘さと、冷たい氷の精霊アイスの組み合わせ! そこに、イチゴの甘酸っぱさが弾けて、お口の中がお菓子の国の遊園地です!!」

シルフィは、パフェの美しい地層を崩さないように、上から下へと一直線にスプーンを突き立て、すべての層の味を一度に楽しむ『マリアージュ』を堪能していた。


両者、一歩も譲らない。

巨大なパフェグラスのかさが、猛烈なスピードで減っていく。

開始から二十分。

両者ともに、すでに二キロ以上のパフェを胃袋に納めていた。

しかし、この辺りから、特大パフェの真の牙が、二人の身体を蝕み始めた。


「ハァッ……ハァッ……」

くるみの顔色から、血の気が引いていた。

アイスクリームの圧倒的な冷気が、胃から内臓全体を凍えさせ、身体の芯から震えを引き起こしている。さらに、大量の生クリームによる脂の膜が胃壁を覆い、強烈な吐き気を催させていた。

(苦しい……。お腹が、冷たくて、痛い……)

くるみは、スプーンを持つ手を震わせながら、必死に自分を鼓舞した。

(でも、止まれない。私は、トップアイドルなの。誰よりも可愛く、誰よりも大食いじゃなきゃ、私の存在価値はない……!)

彼女は、カメラの回っていない深夜、一人で何キロもの食材と向き合い、涙を流しながら胃袋を拡張してきた日々を思い出した。

エルフという生まれ持ったチート能力を持つシルフィとは違う。彼女は、血を吐くような努力と執念で、人間の限界を押し上げてきたのだ。


「私だって……私だって、努力してきたんだからぁぁっ!!」

くるみは、悲痛な叫びを上げながら、再びスプーンを突き立てた。

痛みを気合いでねじ伏せ、震える手でアイスとスポンジケーキを口に放り込む。

その鬼気迫る姿に、アリーナの観客たちは息を呑み、そして、割れんばかりの「くるみコール」を送り始めた。

「くるみちゃん、頑張れぇぇっ!!」

「負けるな!! アイドル魂見せてやれ!!」


その大声援の中。

シルフィもまた、これまでにない苦戦を強いられていた。

「うぅっ……身体が、寒いです。魔力変換の熱で温めようとしても、氷の精霊たちの力が強すぎます……」

シルフィの纏う黄金のオーラが、冷気によって打ち消されそうになり、チラチラと明滅を繰り返している。

巡航モードで一定のペースを保とうとしても、物理的な『冷え』による内臓の機能低下は避けられない。スプーンを動かすスピードが、如実に落ち始めていた。


(このままでは、くるみ殿に追いつかれます。……いえ)

シルフィは、隣で全身全霊を懸けてパフェに食らいつく親友の姿を見た。

青白い顔をして、震えながらも、決してスプーンを止めようとしない、アイドルの意地と根性。

(くるみ殿は、こんなにも苦しいのに、私に勝つために限界を超えようとしている。……ならば、私も!)

シルフィは、自らの『食への愛』と、親友への『最大の敬意』を示すために、決断を下した。


「結衣殿! 少しだけ、扉を広く開けます!!」

観客席の最前列にいる篠原結衣に向かって叫ぶと、シルフィは自らのマナ・クラフターの制御を緩め、魔力変換のペースを一段階引き上げた。

ボワッ!!

消えかかっていた黄金のオーラが、再び強く輝き始める。

もちろん、これを行えば魔力タンクが満タンになるリミットは早まる。十キロ勝負なら致命傷だ。だが、この四キロのパフェ勝負、残りはあと一キロ弱。

(タンクがパンクする前に、すべてを食べ尽くしてみせます!)


「いただきますっ!!」

シルフィの食べるスピードが、再び爆発的に跳ね上がった。

冷気を魔力の熱で中和し、スポンジとクリームの甘さを極上のエネルギーに変えていく。


「おおおおおっ!! 両者、限界を超えたデッドヒートだぁぁぁっ!!」

陣内の絶叫が、アリーナの空気をビリビリと震わせる。

「姫野くるみ選手、アイドルの意地と根性でペースを落とさない! 対するシルフィリア選手、魔力のような黄金のオーラを纏い、凄まじい追い上げを見せる!! グラスの底に残ったパフェは、両者ともにあとわずか!!」


残り時間、三分。

四キロの特大パフェは、底に溜まったチョコレートソースと、コーンフレーク、そして数個のフルーツを残すのみとなっていた。

カチャッ、カチャッ。

長い特大スプーンが、グラスの底を掻く音が重なる。


「ハァッ……ハァッ……負けない……負けないわよ、シルフィ……!」

くるみは、涙目になりながらも、グラスの底のソースを必死に掬い集める。

「私も、負けません! この素晴らしいお料理、最後まで最高に美味しくいただきます!」

シルフィも、グラスを持ち上げ、最後の一滴まで残さぬようスプーンを動かす。


「残り十秒!! 九! 八! 七!」

一万人の観客が、立ち上がってカウントダウンを叫ぶ。

二人のグラスの底には、まさに『最後の一口』だけが残されていた。


「六! 五! 四!」

くるみとシルフィは、同時にスプーンに最後の一口を乗せ、互いの目を見つめ合った。

そこにあるのは、敵意ではない。

共に限界を超え、この舞台で全力を出し切った者同士の、最高の友情と信頼。


「三! 二! 一!」

「「いただきますっ!!」」


二人は同時に、最後の一口を口に放り込み、ゴクンと飲み込んだ。

そして、空になった巨大なパフェグラスを、ドンッ!と同時にテーブルに叩きつけた。


「ゼロォォォォォォォォォォォォォッ!!」


ブォォォォォォォンッ!!

終了を告げる重低音のブザーが鳴り響く。

静寂。

アリーナの全員が、息を呑んでステージ上の二人を見つめた。

完全に同時。人間の目には、どちらが先に飲み込み、グラスを置いたのか、全く判別がつかなかった。


「……そ、壮絶なデッドヒート!! 両者、最後の一口を同時に飲み込みました!!」

陣内が、汗だくになりながら叫ぶ。

「これは……肉眼では判定不可能です! ただいまより、VTRによる厳密な『写真判定』に入ります!!」


巨大モニターに、二人が最後の一口を飲み込み、グラスを置く瞬間のスローモーション映像が映し出された。

コマ送りで進む映像。

スプーンを口に運ぶ速度は、ほぼ互角。

咀嚼し、喉を鳴らして飲み込む瞬間。

そして、空のグラスがテーブルに接地する瞬間。

画面には、極限まで拡大された二人のグラスの底と、タイムコードが表示されている。


『シルフィリア:44分59秒12』

『姫野くるみ:44分59秒38』


「……け、結果が出ましたぁぁぁっ!!」

陣内の声が、裏返った。

「その差、わずかコンマ二六秒!! 激戦を制し、決勝戦への切符を手にしたのは……エルフちゃんねる・シルフィリア選手だぁぁぁぁぁぁっ!!」


ワァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!

アリーナの屋根が吹き飛ぶかと思うほどの、大歓声と拍手が爆発した。


「……っ!」

その判定結果を聞いた瞬間。

くるみは、張り詰めていた糸が切れたように、膝から崩れ落ちそうになった。限界を超えた胃袋と、強烈な冷気が、彼女の体力を完全に奪い去っていたのだ。

「くるみ殿!!」

シルフィは、自分の勝利を喜ぶよりも早く、崩れ落ちるくるみの元へ駆け寄り、その小さな身体をしっかりと抱きとめた。


「……負けた。また、あんたに負けちゃったわね……」

くるみは、シルフィの胸の中で、ポロポロと悔し涙を流した。

「そんなことありません! コンマ数秒の差など、ただの運です。くるみ殿のあの気迫、最後まで諦めない根性……。私は、あなたのアイドルとしての意地に、心から感動いたしました!」

シルフィは、くるみの背中を優しく撫でた。

「この四キロのパフェ、一人で食べていたら、きっと途中で冷たさに負けていました。あなたが隣で、全力で戦ってくれたからこそ、私は限界を超えることができたのです。……最高に美味しいパフェでしたね、くるみ殿!」


シルフィの極上の笑顔と、温かい言葉。

くるみは、涙を拭い、フッとアイドルらしい可愛い笑顔を浮かべた。

「……ほんと、あんたには敵わないわね。バカエルフ。……最高の勝負だったわ。ありがとう」

くるみは、シルフィの背中に腕を回し、二人はステージの中央でしっかりと抱き合った。

その美しい友情の姿に、観客席からはさらに大きな、温かい拍手が降り注いだ。


ステージ袖で、結衣は号泣しながらカメラを回していた。

(シルフィ……本当に、本当に強くなったわね。ただの食いしん坊から、誰よりも食を愛し、ライバルを敬う、最高の大食いチャンピオンに……)


親友との激闘を制し、ついに決勝戦への切符を手にしたシルフィリア。

だが、息をつく暇はない。

反対側のブロックでは、あの感情なき暴食機械・四宮凛子が、全くの無表情で、そして汗一滴かくことなく、決勝進出を決めていた。


「シルフィリア。あなたの限界は、次の十キロで確実に訪れます。……計算通りに」

凛子は、ステージの向こう側から、冷たいガラス玉のような瞳でシルフィを見据えていた。

因縁の対決。

データか、感情か。

全日本大食いチャンピオンシップ、最後の聖戦が、いよいよ幕を開けようとしていた。

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― 新着の感想 ―
こんばんは。 いよいよリベンジの機会が訪れましたね! あのデータの鬼に果たして勝つことはできるのかな?
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