第46話 冷たい彼女の、やわらかな一面
でも、それだけが目的じゃなかった。
彼女のために、もう一つ考えていたことがある。
自販機はすぐに見つかった。
急いで水を買おうとした時、すぐ隣に小さなコンビニがあるのに気づいた。
……もしかしたら、探してるものがあるかもしれない。
迷わず中に入った。
人はあまりいなかったから、そのまま女性向けアクセサリーのコーナーへ向かった。
何か、買ってやれるかもしれない。
…………
………
……
会計を済ませると、真希が待っている場所へ急いで戻った。
そして着いた瞬間——
彼女は三人組の男に囲まれていた。
しつこく話しかけられて、ナンパされている。
確かに、戻るのが遅すぎた。
今は、とにかく彼女をあそこから離さないと。
でも、目が合った瞬間——真希はまっすぐ俺の方へ走ってきた。
まるで、やっと探していた相手を見つけたみたいに。
一瞬、可愛いと思ってしまった。
でもすぐに、彼女が何をしようとしているのかわかった。
助けてほしい——そういう合図だった。
だから迷わず、その流れに乗った。
「真希、大丈夫か?」
彼女は小さくうなずいて、さらに俺の腕に寄り添った。
「悪い、この子、俺の連れなんだ」
男たちを軽く一瞥してから、また真希に視線を戻した。
「行こう、真希。場所変えよう」
彼女はもう一度うなずき、そっと俺の腕に寄り添ったまま、その場を離れた。
三人は何も言わず、ただ俺たちを見送っていた。
少し離れたところで水を渡し、彼女が落ち着くのを待った。
それから、別のベンチへ向かった。今度はもう少し人通りのある場所だ。
そっちの方が安心できる。
真希の頬には少しずつ血色が戻っていたけど、まだ手はわずかに震えていた。
水のおかげで落ち着いてきたみたいだけど、さっきのこともあって、まだ少し緊張が残っているらしい。
隣に座り、周囲が静かなのを確認してから、コンビニの小さな袋を取り出した。
真希が横目でちらりと見て、不思議そうに眉を寄せる。
「それ、何?」
「えっと……」
一瞬視線を逸らしてから、袋を差し出した。
「水買ってる時に見つけてさ。これ、思い出したんだ」
そのまま袋を彼女に渡す。
「さっき髪につけてたアクセサリー、壊れてただろ。落ち込んでるっぽかったから」
真希は少し迷いながら、袋を受け取った。
でも、中を見た瞬間——ゆっくり目を見開いた。
シンプルで上品なアクセサリーだった。
派手ではない。
それでも彼女は、それをまるでずっと価値のあるものみたいに見つめていた。
「……気づいてたの?」
かすれるような声だった。
「全然、見てないと思ってた……」
「気づくに決まってるだろ」
軽く肩をすくめる。
「お前が気まずそうにしてるの、見てられなかっただけだ。大したもんじゃないけど……似合うかなって」
彼女は完全に黙り込んだ。
最初にアクセサリーを見て——
それから、ゆっくり俺を見た。
そして久しぶりに、彼女がいつも張りつめさせている冷たい表情が崩れ始めた。
悲しそうなわけじゃない。
もっとずっと柔らかいものだった。
感謝——。
自分で付けようとしていたけど、まだ驚きが抜けきっていないのか、指先がうまく動いていなかった。
「待て」
ゆっくり手を差し出す。
「俺が付ける」
そっとアクセサリーを受け取った。
二人の距離が、一気に近づく。
彼女のシャンプーの甘い香り。
遊園地の温かい空気。
それに、まだ身体に残っているアドレナリン。
全部が混ざり合って、妙に落ち着かなかった。
真希は完全に固まっていた。
息まで止まってるみたいだった。
そっと髪をかき分けて、アクセサリーを付けてやる。
なんだか、妙に親密な時間だった。
こんな些細なことなのに、ここまで意識するなんて思わなかった。
付け終わって、少しだけ距離を取る。
「すごく似合ってる」
真希はうつむいた。
明らかに照れているのに、今度は前髪で顔を隠そうとはしなかった。
小さく、唇が緩む。
本物の笑顔だった。
「慧翔くん……」
かすれるような声で呟く。
「……バカ。でも、ありがとう」
その小さな「ありがとう」は、どんな大げさな言葉よりも、ずっと胸に響いた。
一瞬だけ——
彼女がいつも世界との間に作っている壁が、俺の前では消えた気がした。
でも、そんな空気も長くは続かなかった。
すぐに真希は平静を取り戻し、ベンチから立ち上がる。
いつもの調子を少し取り戻したまま、別の方向を指差した。
「あそこ行きたい。いい?」
まだ少し笑みを残したまま、たこ焼きの屋台を指さしていた。
たこ焼きを食べるのは久しぶりだ。
悪くない。
これがお願いなのか、それともあの笑顔で誤魔化した命令なのかは、よくわからなかった。
「行くか。俺もちょうど腹減ってた」
返事を聞くより先に、真希は屋台の方へ早足で向かっていった。
いや、歩くというより——ほとんど弾んでいる。
あまりに嬉しそうで、一瞬からかわれてるのかと思った。
屋台のおじさんも、近づいてきた真希を見て自然と笑顔になった。
「何にする?」
「たこ焼き、二つください」
あまりにもわかりやすく嬉しそうにしていたから、おじさんまでつられて笑っていた。
「はいよ、ちょっと待ってな」
待っている間、真希はまたノートを取り出した。
そして、何かをものすごい速さで書き始める。
……いや。
よく見ると、絵を描いているみたいだった。
たこ焼きを受け取って、さっそく食べ始める。
でも真希は、一つをじっと見つめたまま動かない。
まるで覚悟を決めているみたいだった。
「ほら、食べてみろよ」
少し笑いながら言う。
「熱いから気をつけろよ」
真希は横目で俺を見て、それから何かを決意したように、ゆっくり口へ運んだ。
「っ……あ、あつ……っ」
慌てて息を吹きかけて冷ましながら、それでも無理やり食べようとしていた。
その目は、熱さで涙目なのか、それとも美味しくて嬉しいのか、よくわからない。
「熱いって言っただろ」
思わず吹き出す。
「お前、学習しなさすぎなんだよ」
真希は黙ったままだった。
それから、さっきの言葉が気に入らなかったのか、もう一つを少し乱暴に手に取る。
そしてまた、冷まさず口に運んだ。
「っ、は……!」
「だから、まただろ」
「うるさい……」
それでも懲りずに、また食べようとする。
「意地張るなって」
一つ取って、軽く冷ましてから彼女の口元へ差し出した。
「ほら」
「私、子供じゃないんだから。自分で食べられるし」
「じゃあ、俺が食う」
そう言って、自分の方へ戻そうとした——その瞬間。
真希が身を乗り出して、先にぱくっと食べた。
「……」
「……」
「自分で食べるんじゃなかったのか?」
「うるさい……」
少し頬を赤くして目を逸らす。
「……美味しかったから」
「だから言っただろ」
思わず笑ってしまった。
「で、この後どうする?」
真希は少し考えてから答えた。
「あと……二時間くらいだけ、ここにいたい」
少し声を落とす。
「その後は帰ろう。一日中遊んでるわけにもいかないし」
「理由、聞いてもいいか?」
「なんでって……」
小さくため息をついた。
「やること、いっぱいあるから。もうすぐ休みだし」
俺も、すっかり忘れていた。
まだ二週間あるとはいえ……確かに、やることは多い。
そういえば、もうすぐ彼女の誕生日だ。
火曜日が終業式。
それから、坂本さんとの約束もある。
その次は——黒川さんの誕生日。
そして最後に、俺の実家への帰省。
ぼんやりしてる暇なんてない。
やることは山ほどある。
結局……彼女の言う通りだった。
「ねえ」
真希がそっと俺の袖を引っ張る。
「一人で考え込まないで。時間、もったいない」
その一言で、ようやく意識が戻った。
「じゃあ、残りも全力で楽しむか」
もう一度彼女の手を取って、一緒に歩き出す。
「二時間あれば十分だろ」
軽く引っ張りながら笑った。
「ちゃんと楽しもうぜ」
真希は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
でも、そっと手を握り返してきたところを見ると——
本心は、たぶん全然違う。
そうして俺たちは、残りの時間をめいっぱい楽しんだ。
真希は、本当に楽しそうだった。
気づかないうちに何度も笑っているのを、俺はちゃんと見ていた。
そして気づけば——
一日が終わっていた。
…………
………
……




