第十九話・大団円ですわ
力及ばず打ち切りエンドです。
しかし私は再び帰ってきます。お約束します。
私達とリュカオンの化身との戦いは熾烈を極めました。
ただの頭が弱い令嬢にすぎなかったステラ様は、まさに暴風のごとく暴れまわり、異変を察知して来た兵隊や予選脱落者たちを紙切れのように引き裂きました。
死人こそまだ出ていませんが、手足や指が血まみれになった床に散らばり、まさに地獄絵図とはこのことかと思わせる惨状です。
「離れなさい! 巻き込まれたらひとたまりもありませんよ!」
そう言うとセトンネスさんは、負傷者が引きずられていなくなったのを見計らい、強力な結界魔法を張り巡らせました。
「建物を封鎖しました! これで出入りは不能です! 後はお任せしましたよ皆さん!」
ナイスアシストですわセトンネスさん!
──さあ、後は私達が一踏ん張りも二踏ん張りもしようじゃありませんの!
「なんですのこの子!? 無駄に固いですわね!」
「無駄は余計だ……っくそ! なんて切れ味だよ! 俺が血を流すなんてマジか! 化け物め……!」
リュカオンの化身であるステラ様が、ガルラくんの頑丈さに舌を巻いています。
あの爪の振りを食らって、軽くナイフで切られたくらいで済むガルラくんが凄いのか、それとも鉄のごとき固さの彼を切り裂けるステラ様が凄いのか。これは難しいですわね。
「逃がさないわ! ちょっ、逃がさないって言ってるでしょう!? ああちょこまかと!」
「数に頼るからそうなるのさ。少しは狙いを定めるんだな、男爵家の嬢ちゃん!」
「違いますわよ! 私は乱射美少女トリガーハッピーちゃんだとあれほど!」
ラファが無数の魔力弾を放ち、それをステラ様が避けたところに、ダンディな髭おじ様が的確な圧縮魔力弾を撃ち込んでいます。
急ごしらえにしては見事なコンビネーションと言いたいですが、単にうちの妹を利用してステラ様の逃げ場を塞いでるだけですねコレ。
「喰らいなさい!!」
何発もいい一撃を受け、苛立ち始めたステラ様の頭部が瞬時に自身の背丈よりも大きくなり、ガバリと大顎を開くと炎の塊を吐き出しました。
まともに喰らえばガルラくんでさえ溶けてしまいかねない、それくらい凄まじい熱量の一撃です。
「破断剣!!」
気合一閃! ガーハルーザさんがその巨大な炎を断ち切ると、炎の塊は爆発するように弾け去りました。
「バカなっ!? リュカオンの放つ、破滅の炎ですのよ!??」
「どうよ、これがあたしの『破壊』のギフトだぜ! 破滅程度に遅れをとるもんかよ!」
後でそれとなく聞いたところ、武器を介さないと使えない欠点が玉に瑕だとボヤいていましたが、たいしたデメリットではないですよね。
「連発はきついがな! アッハッハ!」
そっちのデメリットのほうが大きいと思いますわよ。……というか、なぜ今言うんですの……敵の前で……
「今のわたくしの、この動きについてこれるなんて、化け物ですの……!?」
「ただの護衛役さ……!」
もはや出し惜しみしている場合ではないと判断したのでしょう。スタンくんは右手に貫通の短剣、左手に私が買い与えた魔法の短剣を持ち、二刀流で攻めていました。
「ほいよぉ!」
そんな激戦の中、ずっと食べていたでっぷり男性がついに立ち上がり、グッと手で杭を地面に強く押し込むような仕草をすると、
「ぬぐっ!?」
ステラ様が、建物の床へ上から押さえられたかのように動きが鈍くなりました。
腹ペコ肥満男性こと、ユー・レンファンさんのギフト『重圧』の為せる技です。
「お、重い、重いですわぁ!! おのれぇぇえ!!」
「吠えるなメス狼!!」
「ぐぁああっ!!」
動きが重くなったところにスタンの斬撃をまともに喰らい、ステラ様の胸が✕の字に切り裂かれ、血が吹き出ました。
ふらつき始めたステラ様を見て、もはや大勢は決したかと誰しも思いましたが、とんでもない予想外の事態が発生しました。
「グルル……」
「アォォォンッ!」
ステラ様の牙や爪で負傷した方々が、みるみるうちに人狼へと変貌してきたのです。
「遅かったですわね……! 見ての通り、わたくしに深い傷を負わされると須くそうなるのよ! お分かりになって? ウッフフフフフ!!」
まずいですね。
セトンネスさんは結界魔法に集中しており何もできない状況です。ここで彼が人狼たちにやられて結界が融ければ、ステラ様が逃げるかもしれません。
しかし結界内にいる私達にはどうすることも……!
「ウフフ、フフ、クッフフフ! この場で殺せなかったのは口惜しいですけど、今は仕切り直しにしてまた日を改めますわ! さあ、わたくしの子達、その忌々しい魔術師を噛み砕きなさいな!」
「まずいぞリシア!」
スタンが叫びますが、しかし私にもどうしようもありません! ステラ様を一刻も早く倒すしかないのですが、彼女もそれを読んで逃げに回っています!
「このままでは……ですがどうにもなりませんわ……!」
ステラ様をおめおめと取り逃がし、復讐を再開するために力を蓄えさせるチャンスを与えるしかないのでしょうか!?
そこに思わぬ助け船がやってきました。
「グァッ!」
「ギャアアッ!?」
青い光がきらめき、人狼と化した方々が倒れ付します。
「おほほほ、主役は遅れてやってくる、ですわ!」
「出場しないにしても見物にきたのが功を奏しましたね、お嬢様」
私達の手詰まりを解除したのは、ステファニー嬢とその護衛、槍使いグラギスでした。
「殺してはいけませんわよ。この人達も被害者ですもの」
「ええ、槍の魔力で痺れさせています。ご心配なく」
グラギスくんの持つ槍はバチバチと電撃をまとっていました。なるほど、雷の槍ですか。それなら命に別状はないですわね。
「ここまでですわね、ステラ様。……投了なさいますか?」
打つ手が無くなったステラ様は歯を食い縛り、血走った目で私達を見渡し、そして私に、有らん限りの怨念を込めた視線をぶつけました。
「死んでもお断りですわ……! 我が力の全てをもって貴女の命を、貴女だけはぶち殺してやるわぁぁぁぁあああ!!!」
全身を燃え上がらせ、灼熱の怪物と化したリュカオンそのものが私に全力で突っ込んできました。
「そう。ではこれでチェックメイトですわ」
私は『本気で』反射の力を使いました。この世の全てを弾き返す、反世界の力を。
「ばっ、かな、リュカオンであるわたくしが──」
その力をもって私は、最悪の魔獣、リュカオンという存在そのものを、この世の因果から弾き出して抹消しました。
後に残るは、リュカオンでなくなった一人の女性がそこにいました。
金髪に金の瞳、とびきりの美貌を有する伯爵令嬢、ステラ・セアマリーナが。
「そんな、リュカオンの力すら通じないなんて、貴女はいったい……」
「続きは牢獄でゆっくり考えて下さいまし。時間はたっぷりありますわよ」
私がそこまで言ったところで。
ステラ様が消えました。
「あら」
「驚くことじゃないでしょ。元の顔に戻ったんだから、また反射されたんでしょ。運がいいんだか悪いんだか」
あらあら。振り出しに戻りましたのね。
「……聞き出したかったことがいくつかあったのだが、やむを得んな。勝っただけで良しとしよう」
ラファの言葉を聞き、髭おじ様が肩をすくめました。
「死ぬかと思ったよ」
「情けないこと言うんじゃないよ。それでもあたしの弟かい」
ガルラくんの頭にガーハルーザさんの拳骨が落ちました。
「……終わったような感じになってますが、武祭はどうなったんですかいな?」
いつの間にか持っていた果物をかじりながらユーさんがそう言うと、ユーさん以外のその場の全員が「あ!」と、すっとんきょうな声を上げました。
「しかし、一人いなくなったわけだが、その穴埋めはどうする?」
そんなスタンの当然の問いに答えたのはセトンネスさんでした。
「その点は問題ありませんよ。彼がリザーバーですからね。そういうことにしようじゃないですか」
セトンネスさんが指差したその先には、グラギスくんがいました。
ピンチを救ってくれた借りを返したということなのでしょうかね。
「それは良いですわね! 善は急げですわ! 一刻も早くエントリーしなければ!」
「わ、わかりました。落ち着いて下さいお嬢様」
かくして伝説の一戦の再来は、私達の勝利に終わりました。なんかもう祭の後みたいな気分になっていた私達でしたが、ステファニー様の熱意で火が付いたのか、その後の武祭は、過去に例のない激闘が連発しましたが、それはまた別の機会に語りましょう。
それでは、皆様方。
唐突ではございますが、ここで物語の幕とさせていただきます。これ以上は蛇足の蛇足にしかなりませんのでね。
では、失礼いたします。




