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蒼天の星と漆黒の月  作者: 紫月ふゆひ
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神話と記憶

 『昔、神々に愛された、アルタイアという少女がおりました。

 両親に慈しまれて、少女は美しく清らかに成長しました。

 ある時、魔物が国を襲い、多くの人に嘆きを(もたら)しました。

 気高きアルタイアは、両親の制止を振り切って、人々の為に魔物の前に立ちました。

 神々の加護を得たアルタイアを、魔物は傷つけることが出来ませんでした。

 魔物は(おそ)れ、ひれ伏して、許しを請いました。

 改悛の魔物を従えたアルタイアは、人々の憂いを晴らすために、その力を振るいました。

 その評判は、やがて黄金なる大地を統べる聖王にも届き、王は清きアルタイアを妃に迎えました。

 しかし、神々に愛されたアルタイアは、人界に長く留まることを許されませんでした。

 愛する妃を失った聖王は、海より深い嘆きに身を浸し、人々の哀悼の声は天をも揺るがせるほどでした。

 改悛の魔物は聖なるアルタイアと共に身を隠しましたが、聖王と民は、気高きアルタイアを称え、その名を永久(とこしえ)に刻むため、神殿に祀ったのでした。』




 人間達の間に、聖女と魔物の話が伝わっている。

 神話に語られるその話には、抜け落ちた真実がある。


 その少女は、親のない子だった。

 正確には、世界を隔てる壁によって、親と引き離された子だった。

 少女は、家族を亡くしたばかりの老女に拾われ育てられた。老女は、失った孫の代わりに、少女を大切にしていたが、少女がまだ成年に達しないうちに、病で世を去ってしまった。

 最後まで少女の行く末を案じていた老女の思いを汲み取り、初めのうちは、村の者達も少女を身内として扱っていた。

 しかし、村のすぐ近くに魔物が現れたとき、怖れを抱いた村人達は、少女を(にえ)として差し出した。


 その飛竜が、少女を傷つけなかったのは偶然だ。卵や雛を失ったばかりの時期は、小さき者を庇護することがある。その飛竜は、少女を雛の代わりに庇護し、奪おうとする獣や魔物を撃退し、他の飛竜にもその意志は伝わった。

 それを見た人間達は、少女に魔物退治をさせるようになった。やがてその評判は遠くまで伝わり、魔物を改悛させて従え、魔を払う聖女として、王城に迎えられるまでになった。


 人間達から(あが)め称えられる存在となったが、少女の中にあったのは、孤独だった。豪華な衣装やかしづく召使はあったが、少女に自由はなく、軟禁と変わりない日々だった。

 やがて大人の女性となった聖女は、王の寵愛を受けたとされているが、そこに愛情はなかった。聖女を手にしたことで、聖王と呼ばれるようになったその男は、彼女を大切にはしなかった。自身の名声を高めることに利用した後、あっさり死なせてしまった。神話と異なり、深い嘆きに身を浸すなどということもなかった。


 幼くして肉親と離され、親代わりとなった老女ともすぐに別れることになった少女は、愛情を欲していたが、人間達は誰一人、それを与えることはなかった。庇護者となった飛竜とも、普段は接することを禁じられた。

 人間達は、生身の少女を死なせ、偶像の少女を(あが)めた。やがて、人間達は自らの行いを忘れ、美しい物語だけを後世に残した。王国はすでに崩壊し、聖王の(たね)も残ってはいない。


 しかし、我らは忘れない。飛竜の記憶は、世代を超えて共有される。

 あの少女と同じ匂いの者達がその後も現れていたのは知っていたが、あの少女の二の舞になることを嫌い、我らが関わることはなかった。

 しかし、自ら我らの元へやってきた娘達は、既にあの時の少女と同じように、魔物退治に使われていた。

 懐かしい、哀れな愛し子達。

 あの時と異なり、仲間がいることが救いだ。

 今度は、我らも共に在ろう。

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