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蒼天の星と漆黒の月  作者: 紫月ふゆひ
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雑談

「無理をする。」


 副長のカリベルクの『雑談』を聞きながら、リオディスは眉を寄せた。自身の身を危険に晒して、相手に剣を抜かせるよう仕向けるとは。彼我の力の差を計算した上でなら大したものだが、相手の力量を正しく測れていない可能性の方が高い。


「彼は、指揮官としては無能ですが、剣術の腕はそこそこですからね。もっとも、誰かが制止することを見越していたのでは、とルイドルフは感じたようですが。」

「どうだかな。」


 レーナは時折、とんでもない無茶をする。自身の能力で可能なことが分かっていないのもあるが、もっと根本的な問題があるように思えて、少し気になっていた。


「まるで嵐のようですね。普段は、粛々と任務をこなしているそうですが。以前にも、王都の警備隊を巻き込んで騒ぎを起こしていましたね。」

 副長は、どことなく愉快そうだ。

「あれも運が良かったのだ。警備隊長があの男だったからな。彼が長い時間をかけて警備隊を(まと)め上げたから機能しているが、そうでなければ違う結果になっていた。」

「彼は宰相の子飼いですからね。他の貴族は手出しできない。」


 一つの裏組織が潰れ、警備隊が収集した情報のうち、貴族に関するものはこちらにも流れてきた。近衛隊が拾うのは王家に関わるものだけなので、他は放置していたのだが、その中に、ディオラ商会に関するものがあった。正確には、リーデンベルフ侯爵家とつながりのある、元使用人に関するものだ。

 それなりの規模の商いをしていたディオラ商会だったが、年頃の一人娘を突然失い、直後に大きな損失を出して廃業し、会長は失意のうちに亡くなった、というのが表向きに知られた話だ。実際は、リーデンベルフ侯爵家が使用人を買収して、商会を潰させたのだ。

 発端は、侯爵家の子息が、ディオラ商会の娘と恋仲になり、身籠った娘が結婚を望んだことだった。娘にとっては純粋な恋だったが、侯爵家の子息にとってはちょっとした遊びだった。妾ならともかく、正妻の座を望むことは、侯爵家には許し難いことだった。娘は、病死とも自死とも噂されたが、真実は不明だ。使用人達は離散し、娘の世話係だった女が、今は高級娼館であるツグミの館にいる。探索班が得た情報は、この筋からだろう。

 貴族であっても、自由民の命や財産を奪うことは禁じられている。闇に葬られる事例は幾らでもあるが、表沙汰になれば、処罰は免れない。王は清廉な性格で、この話に明らかな怒りを示した。


「ハイクエルへは、お前を行かせた方が良かったか。クラウスには、済まないことをした。」

 近衛隊では上位にあっても、伯爵家の彼には、傲慢なオルトレイ卿のお守りは、荷が勝ちすぎた。その結果、大変な怪我を負ってしまったのだ。

「同じことでしょう。本家のルイドルフならともかく、私は分家筋ですからね。彼にとっては格下ですよ。」

 副長は肩を竦めた。

「長子はまだ話が通じますが、侯爵は親馬鹿ですから。」


 ハイクエル山で起きたことは、当然リオディスは把握していた。オルトレイ卿は家の力を過信して、近衛隊士の口を封じたと思っていたようだが、王家を守る近衛隊を、自由に操れると思ってもらっては困る。正規軍内での処遇については、近衛隊の管轄外だから口を出さずにいたが、彼の主張がそのまま通るのであれば、いずれ国を害することになるから、総司令官に直接話をするつもりでいた。


 リーデンベルフは侯爵家の中でも上位にあり、大きな影響力を持っていたが、今回のことで、大いに王の不興を買った。宮廷貴族の中では、その衝撃が波紋のように広がっている。当面、リーデンベルフは大きく力を抑えられるだろう。

 だからこそ、その恨みも大きい。これだけの騒ぎになったのだから、当事者に直接危害を加えるような愚は犯すまいが、他の者は別だ。

「探索班は丸ごと隔離したから良いとして、告発に加わった百人隊長の家族や、ディオラの元女中は、ルイドルフが保護したそうです。」

 リーデンベルフの報復の芽を摘むのには、同格のアルテブルフ侯爵家に頼るしかない。

「一か月か。」

「まあ、それくらいはかかるでしょうね。後始末に、あの探索班の班長を立ち会わせるべきかと、ルイドルフがぼやいていますよ。」

「それで、どれほど危ない橋を渡ったか、悟れば良いがな。」

 剣術の腕だけで言えば、この一年半で大分上達した。当初の状態を思えば、驚異的ともいえる。尋常ではない努力を重ねている様子も見えるし、魔物に特化した戦い方や武器も工夫をしていて、魔物相手ならば、並の兵士より戦力になる。だが、人間相手の場合、魔物に対するような勘が働かない分、判断を誤る時がある。

 大貴族を敵に回すということについては、理解はまだ不十分だ。


「鍛え直さなければならないか。」

 リオディスの呟きに、副長はまた面白そうに目を向けた。

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