志願者(2)
「またあんたらか。」
鍛冶の親方は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、元々なのか、機嫌が悪いのかはよく分からない。
「あのなあ、強度を保ったまま軽くしろなんて簡単に言うんじゃねえ。」
「難しいことは分かっています。でも、必要なことなので。」
「そんなことが出来るならとっくに作っとるわ。そういう武器が必要なのは、あんたらだけじゃねえんだ。普通の兵士だって、その方がいいに決まってるだろ。」
「そうですか?」
筋肉自慢が多いような気がしていたので、それは思い至らなかった。それにしても、今日は口数がとても多いところを見ると、意外に機嫌は良いのだろうか。
「短槍を作っていただいたことは感謝しています。重さも長さも、ずっと扱いやすくなりました。」
と言うと、口をへの字にした。
「まあ、やるだけやってやるがな、忙しいからすぐには無理だ。大体、材料もねえ。」
「材料、ですか?」
「今ある鉱物じゃ、やれることも限度がある。」
鉄しかなかった頃に、強化セラミックを求めるようなもの、ということだろうか。
「気になっていたことがあるのですが。」
「なんだ。」
ここに通って、職人達の仕事を幾度となく見ていたのだが、何か引っかかるものを感じていた。私のイメージしていた作り方と、違うような気がする。
「折り曲げながら鍛えるということはしないのですか?」
「あ?」
確か、刀は何度も折り曲げながら叩いて鍛えると、薄く丈夫に仕上がると、祖父の知り合いが言っていた気がする。ここは、叩いて成形して終わり、なのだ。
「叩いて薄くしたら、半分に折ってまた叩く。パイ生地を作る時のように、折っては伸ばし、折っては伸ばすというのを繰り返す鍛え方です。」
「・・・何を言っとるか分からんが、手間がかかりそうだ。数を作らなきゃならんのに、そんなに手間をかけていられるか。」
それももっともだ。親方が分かりづらそうな顔をしているから、思いついた例えを口にしてみたが、普段パイ生地の作り方なんて見ていないだろうから、余計に分からなかったかもしれない。それ以前に、この国にパイというものはあっただろうか。
そんなことを思っていると、奥の方からくぐもった笑い声が聞こえてきた。見ると、職人に紛れて毛並みの違う人間がいる。薄暗くてよく分からなかったが、初老のその男性は、見知った人間だった。
「警備隊長。」
武器工房に通う中で、他の部隊の人間や、王都の警備隊員とも顔を合わせる機会が何度となくあり、言葉を交わすようにもなっていた。
王都の治安を守るのが警備隊の仕事だ。違法行為を取り締まるのも、一般の民を守るのも彼らだ。
「先日はどうも。志願者は、無事入隊できました。」
「そうか。」
彼女は元々自由民だ。住んでいた村が魔物に襲われ、両親と畑を失った。町に出て、働き口を探そうとしていたところで、騙されて色街に放り込まれたのだ。借金も売り買いもないのだから、正式な証文など、初めからあるはずがない。無いものを彼らが持ってこられるはずがなかった。
実のところ、こんな事は陰で横行している。それは誰もが承知しているが、多過ぎて全てが正されることはない。ただ、この世界でも、違法な人身売買と言うものはあり、彼女の場合は違法だった。だから今回は、取り締まってもらった。
「こちらは少々大変だったがな。」
「そうでしたか?」
「色々と手を広げていたようでな。我々が踏み込んでいけない向きのものもあった。」
「なるほど。」
警備隊が対象とするのは平民だ。貴族につながることは、どのようなことであれ触れることはできない。それが少しばかり、厄介だったのだろう。
「その向きからの圧力もあった。善良な民から異民が財産を奪おうとしていると。」
事実を捻じ曲げ、罪があっても無かったことにする。やりようによっては可能なことだ。そういうこともあると聞いていたから、受け取った書類は全て警備隊に見せていたし、最後に偽造証文を持ってきた時は、信用のおける警備隊員を隣室に待機させて、やり取りを全て聞かせてもいた。
そうなると、次は警備隊長に圧力がかかりそうなものだが、どうやら隊長には強力な後ろ盾があるようで、それ以上のことは起こらなかったようだ。
「裏の方はちょっとした騒ぎになっているようだ。希望を持った者もいるかも知れんが。」
そこで一旦言葉を斬り、警備隊長は探るような目になった。
「今後も同じことを?全ての女達を助け出すつもりかね?」
裏町の状況に興味はない。暗闇にいる全ての人を救い出すことが出来るなら、それは良いことなのだろうが、私にそんな力はない。私達が受け入れることが、彼女達の救いになるわけでもない。
今回、所有者のいなくなった人達が、さらに何人かやってきたが、探索班の中身を知ると、半分以上は別の道を選んだ
「そんなことが出来るとは思っていません。それは、警備隊の仕事では?」
警備隊長は、苦い顔で口を曲げた。
「志願者が出る度にこんな騒ぎになるのは困るんだがね。」
「その時は、またご助力願います。」
警備隊長は渋面を濃くしたが、職務はきっちり果たすようなので、丁寧にお礼を言っておいた。




