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「はい」
落ちてきたコーラの缶を、学生に渡した。
「…ありがとよ」
「いいえ」
わたしは返却ボタンを押して、十円玉を財布に入れた。
「原因はこの自販機。古いからコイン入れる所が錆びてて、お金が落ちなかったの。少し力を入れながら入れれば、大丈夫になるの」
わたしは学生と、近くにいる主婦二人組みに向かって話した。
主婦達は罰が悪そうに、去って行った。
「…まっ、お金が戻ってこない時は、紙に書けばいいから」
自販機にはトラブルが起きた時に書く用紙とペンが付いている。
「ああ…」
学生は少し呆然としていた。
あっけない解決に、脱力したんだろうか?
学生にしては老けているように見えるなぁ。
まあ渋いとも言えるけど…。
「…お前さ」
「わたし?」
「俺のこと、怖くないのかよ?」
「何でよ?」
聞き返すと、学生は黙ってしまった。
「ジュースが買えなくて、あたり散らかしているところを見ると、子供みたいよ。ちょっとは落ち着きを持ちなさいよ」
「…ああ」
学生は少し考えた後、わたしを真っ直ぐに見た。
「借りができたな」
「こんなの借りとは言わないわよ。困った時はお互い様、でしょ?」
「お互い様、か。なら困ったことがあれば、俺を頼りな」
「あなた…美夜の学生よね?」
「ああ。美夜の高等部3年、青城松本」
「あら、先輩。わたしは光輪学院・高等部2年、月花陽菜子」
「月花な。覚えとく」
そう言って青城は去って行った。
…ヤレヤレ。
相変わらず美夜への風当たりは強い。
そして人は見かけによらない。




