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#5 大好きなアンタ

 吉原・炎上! 吉原・炎上!


 どんなときもチックタック! チックタック!

 お主を待とうぞ。

 愛し愛されチックタック! チックタック!


 何も言わず、何も言えずに。


 時間だけがチックタック! チックタック!

 どうにもならんと思ってしまった。

 もがくことすらチックタック! チックタック!


 ◆


 街中に桃色の曲が流れた。


「げ!」

 高松文が、嫌な顔をした。

 去年の新垣と本田と同じようにーー卒業を迎えた。

「あ♡ あった、あった‼♡」

 本屋に目的。


 新垣正がモデルの雑誌を買うこと。


 彼は、卒業して間もなく、トントン拍子にいっていた。

「こんな雑誌に興味ないくせに」

 ひょい。

 

 三上は顔を出す。

ヒル! 手前ッッ!」

「そんなに睨まないでよー俺、悪いの??」

「ああ! 悪いね‼」


 去年の卒業式。

 高松は恥ずかしい醜態を晒した。


「なんも、かんも! 全部、アンタが悪い‼」


 雑誌で三上を指す。

「文ちゃん~~ひっど~~い‼」

 泣き真似をする。

「気色 ワリィ!」

 蔑んだ目で見る。

 三上との関係は進展はと言えば。


 全く。


 ただ、こうして一緒に居る時間は多くなった。

「ったく。アンタもいい加減に彼女作んなよ」

 バッサリと吐き捨てる。

「?!」

 三上の身体が揺れた。

 そのことに気づかずに、頬を朱に染め続けた。

「そしたら、あたしだってーー……ん゛?? ありゃ」

 目を開けると、三上が居ない。

 思わず、高松も辺りを見渡した。

「帰った、のか?? あの馬鹿はーー」


 ドキ、ドキ。


「はァ?! あたしを置いてだァ~~??」


 バクバク。


「んな訳、ない、ょ、な??」


 バクバクバク。


 高松はレジへと行くまでの距離を、ゆっくりと探るように歩いた。

 本棚の隙間。

 立ち読みする客の顔や、服装。

 

(ぃ、ない……だとォ?! なんでだよ‼)


 高松が歯軋りをした。

 確かに一緒には来た。

 お目当ての本も買った。


 なのに、帰りは一人ぼっち。


「おいおい! ないだろォ~~‼」

 怒りで胸中が荒れた。

 地団太してしまう。


「ん゛?? ぁ、ふぁ゛??」


 本屋の中にあるカフェ。

 

 その窓の中に三上が居た。

「‼ 居やがったッッ」

 にこやかな三上の顔。

「一体、誰とーー??」

 誰かと一緒にようだった。

「はぁ!? あたしと居たのに~~??」

 ブチ切れそうになる。

 しかし、ここは公共施設。

 怒鳴れば、一発退場もある。


 つつつーー……。


 高松が寄っていく。


(おおおお、女ァーー‼)


 ばっくん!


 ばっくん!


(ォ、落ち着け! 落ち着け~~‼)


 激しく動揺した。

 三上に、自分以外の女が居たことに。

 また、思わず見てしまう。


 高松とは違いさらさらな髪。

 少し、胸では勝った。

 高松はDカップだからだ。

 相手はBカップ前後。


(平ら胸ーー♪)


 服装は、清楚というか、大人しい恰好。

 落ち着いている。


 コーヒーを飲んでいる。

 ごくり!

 愉しそうに会話をしている。


 胸が痛い。


 痛い。


(痛てぇーー‼)

 高松は胸元を抑えた。

 だが、痛みは増すばかり。


(な゛??)


 女性は、突然として手を握った。


 ぶっちーーん!



「っざ、けんじゃあねェよ! こいつぁ、あたしんだぞ!」

 仁王立ちで叫んでしまう。

「誰が、アンタに渡すもんかってんだ!」

「あ、ゃ、ちゃ……ん??」

 ぽかーん、とする三上に。

「アンタもきちんと、あたしの話しを聞きなよ!」

「ぁ、はい……」


 高松の顔が朱以上になっている。

 茹でたこのように。


「彼女を作ったら、あたしが、あたしだって正直になれるかもしんないからぁ‼」


 身勝手な告白。

「まぁ。告白ですね!」

 パチパチ! 女性が頬を赤らめて拍手する。

 店内も、どこからか拍手が鳴っていた。


「背中、押されなきゃーー無理!」

 高松はしゃがみ込んでしまう。

「でも。アンタじゃなきゃ無理、だと思う!」

 声が震えた。


 祈るよ、祈るよ、祈るよ……。

 君の幸せを、ただ、ずっと。

 祈るよ、祈るよ、祈るよ……。

 祈り続けるよ


 そこに桃色最後のヒット曲が流れた。

 桃色は、この曲の後に死んでしまったからだ。


「この曲、俺好きなんだ。桃色で」

「……去年は、あんな曲だったのに……」

「『吉原炎上』もいい曲だよ。でもこの曲は特別」



 祈るよ、祈るよ、祈るよ……。


「桃色の『君に幸あれ』は」


 君にさ・ち・あ・れーー……。


「ここが好き」


 じゅび。

「俺は、高松文が好き」

「‼」


 高松の身体がビクつく。


「彼女なんかつくんなくたって、いつだって背中を押すよ♪」

「まぁ、まぁ! 大胆な告白ね!」

 女性が身体をくねらせた。

「おめでとう! あーくん! ママ嬉しいわぁ~~♡」


 ガビン!


 高松の顔が青ざめた。

「おおおお、お母様??」

「はい♡ ごめんなさいねーデート中だったみたいでーもー~~あーくんも、言いなさいよーー~~プンプン!」

 三上は高松を立たせ、椅子へと座らせた。

「うん。ごめんね」

「ぁ、の……これ、は??」

「ごめんね。文ちゃんの本心を見たくてー母さん、居たからー飲んでたんだー」

「--……おい?」

「! その後、携帯にメールはしたよ! したした‼」


 三上は手を被り振った。

 バッグから携帯を取り出した。

(あった)


 カカカカカカカ‼


「で。彼女になってくれるのかなー?♡」


 ぐぬぬ!


 高松は唇を突き出す。


「--~~~っくっそ! なんなんだよ! アンタは~~‼」


 高松は涙を溜めて睨む。

 三上ははにかんだ笑顔を向けた。


「ああ! 好きだよ! 彼女になるよ‼」


 ここは名門秋月高校近くにある書店のカフェの一角。

 魔法も、化学も。

 何もない、至ってシンプルな。


 現代社会の片隅だ。

 

挿絵(By みてみん)

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