#1 大好きだったの
高校生活の三年間を締めくくる卒業式。それを見送る卒業式。
卒業生にとっては新しい生活へと、第一歩となる。
それでは残される在校生にとってーーこれをどう見つめ、進めればいいのか。
高松文は卒業式にこっぴどく振られた。いや、相手は気づかれることなく、まさに『卒業』させられてしまったのだ。不本意にも。
ただ、周りは違う。知っていたのだ。
高松の淡い恋心を。
それなのにどうだ。惚れた相手には気づかれずに終わった。
いや。知られなくてよかったのかもしれない。
この先、狭い街の中で仲睦まじく歩く、あの二人と挨拶をしなくてはならないのだ。
知られなくてよかった。そう思わなくては、ならない。
しかし、一緒に歩く相手の女には、自身の恋心は見抜かれ、知られている。
それなのに、持ってかれた。躊躇もなく。
幼馴染みが何だというのか。生まれてから一緒とか、成長が一緒とか。
そうだ、ただーーその差だったんだ。
少し、出会うのが出遅れただけだ。
十六年ばかり。遅れただけ。くそったれが! と毒気つくほかないではないか。
「グッス! ……ぅ゛あ゛」
好きだった先輩を、尊敬していた先輩に持っていかれた。
傷心のまま空っぽの教室で、高松は泣きじゃくる。
声を出しながら。
「何だよ! 何だっての゛さ!」
告白することすらか叶わず、終わってしまった。
痛いだけの恋となった。
今さら、だがーー無理な恋あとも分かってはいた。
だって。彼の横にはつねに彼女がいて、それが当たり前だったから。
空気のように自然に。
写真が大っ嫌いの彼の手伝いをした。
いけないのは重々、承知はしていたが。
泣いて、おびえる彼を放っておけなかった。
大好きな先輩を。
「ぅ゛う゛う゛う゛ッ~~うァ゛!」
どうして告白をしなかったのか。
もう、この鳥かごからいなくなってしまうのに。
会っても、そばにはいられないのに。
「ばぁがァーー~~~~~~~~~ッ!」
グジグジ。
泣き声しかでない。悔しさしかない。
そんな、高松に教室の扉越しに声がかけられた。
「そんなに好きなら、告白をしたらいいのに」
声の主は、あいつだ。
高松は扉を睨みつけた。
大嫌いな彼。うざったい彼。
どうしてだが、自分に付きまとう彼。
三上 朝昼生徒会長だ。
ここは名門秋月高校。
魔法も科学もない至って普通な現代社会の片隅だ。




