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二百八十一話

(´・ω・`)最近眠気と目の疲れがやばくて長時間文字を見ていられないぶぅ

『この界隈で一番流行ってる店の料理の系統は?』

『よく出るお酒の種類は?』

『最近の流行はなにか』

『この都市の気温は常に一定なのか』

『働いている人間の主な職業は?』

『この界隈に来る客の種類は?』

『店を訪れる人間はどんな背格好で誰と来ているか?』

『利益を度外視するとは言え最低限ペイはとれるようにしたい。最後に取引した際の支出額は?』

『ミスティさんはどんな格好で接客を?』

『店の雰囲気はどんな感じだったか』

『客が来店から退店までどれくらい居座るのか』


 それら全てを彼女に尋ねる。

 全て、そう全てが必要な情報だ。

最低限、いや、これでも足りないくらい穴のあるリサーチだが。

 本当なら俺が自分の足で集めるべき内容ばかりだが、今は時間がない。

 速攻で行かせてもらう。要はパクって発展させて、値段を下げたらいい。

 実は簡単なんだよ、すでに人が溢れている界隈で客を奪うという行為そのものは。

 だが、折り合いが、人間関係がそれを良しとしない。

 けれども……悪いがこの店の将来なんて知ったこっちゃ無いんだ。

 話題になればそれでいい。客が来るならそれでいい。


「ええと……そうね、この辺りは自由騎士やその護衛対象の商人、ようするに外で活動する人間が多いわね。私が働かせてもらっていたお店もなかなかの人気店で、毎晩沢山お客さんが来ていたのだけど……」

「それは都合がいいですね。どんな酒と料理が出ていましたか?」

「うーん……そうねぇ」


 ミスティさんが、少しだけ困ったような表情を浮かべながら顎に手を当て考え込む。

 妙に色気を感じてしまうのは、彼女がある意味『未亡人』という肩書を持っているが故なのだろうか。

 くすんだ金髪と紺色の瞳という、ミスマッチが故に人目を惹く容姿に、一瞬引き込まれそうになる。

 ……こういう時、二つの意味でレイスがいると助かるんだけどな。

 彼女が側にいると、まず他の女性に目移りするなんて事は起こり得ない。

 そして、こういう店の運営には彼女の手腕は間違いなく発揮されるだろうから。


「そうね……ここ最近は魚介料理が多く出ていたわ。あと、私のいた店は全体的に味が濃いめだったと思う。たぶんお酒の味に負けないようにだと思うのだけれど」

「なるほど。じゃあお酒は白ワインあたりが多く出ていたんですかね?」

「それも出ていたけれど……最近ちょっと流行っているのが、混ぜものっていうのかしら? 色んな果実の汁やシロップと氷と一緒に混ぜて飲むのが流行っているわ」


 なんとカクテルブーム到来中とな!?

 はっはっは……こいつは、こいつは良い!

 カクテルの製法ってのは、その昔は店の秘伝、秘密兵器、資産として考えられていた時代もあるのだ。

 つまり……うまいレシピを多く知っている店というだけで、圧倒的に有利に立てるという訳だ。

 ふむ……レシピがあれば、その後の展開も有利に働くかね。

 ならば、まずは食材の買い出しだ。

 一人意気込むこちらの様子が面白いのか、クスクスと静かに笑う彼女に店を任せ、教えられた市場へと足を運ぶ事にした。




 この時間帯は他の店の人間や、一般家庭の人間も食材に買い出しに訪れるからなのか、どこか上品なイメージを持っていたこの都市に似つかわしくない熱気に包まれていた。

 飛び交う客引きの声に、時折聞こえる罵声。その喧騒が、まるで漁港の朝市のようでこちらの気持ちを逸らせる。

 少しのぼせ上がってしまいそうな空気の中、最近流行っているという魚介系の食材を求めて市場を進んでいくと、鼻孔に磯臭さというのだろうか、海のもの特有の香りが運ばれてくる。

 どうやら、魚介を扱う店は市場のすみの方に纏められているらしく、その背後には排水も兼ねているのか、幅三メートル程の大きな水路が設けられていた。

 さてさて、この都市は海からだいぶ離れた内陸にあるわけだが、どんな食材が揃えられているのだろうか?

 海からここに至るまで続く大河がある以上、恐らく様々な物が取り寄せられているとは思うのだが――


「む……そうか、氷魔術で凍らせてしまえば鮮度は落ちないもんな……この世界の冷凍技術だけは完全に日本を超越してる、か」


 なんという事でしょう。並べられている魚がどれもこれも綺麗な目をしているではありませんか。

 よく言う『死んだ魚のような目』という言い回しは、どうやらこの世界では通用しなさそうだ。

 体表キラキラと輝く小魚や、ヒレがピンっと張った大型魚、それに俺が釣り上げたもの程ではないが、十分に大きいと呼べるカジキ。

 ……レイスがいたら目を輝かせるだろうな。


「しかし……結構いいお値段するな、どれもこれも」


 需要が高まっている反面、船で運んでくる以上その総量は限られている、か。

 恐らく個人の商店単位でなく、国が大々的に大きな貨物船で仕入れているのだろう。

 それ故に勝手に輸入量を増やしたりは出来ないと見るべきか。

 ふむ……そういえばあの港町で漁船が見当たらなかったような気がする。

 海での漁も国に管理されているのだろうか?


「予算的に余裕はあるが……出来れば安く済ませたいからなぁ……仕方ない」


 自由にやってもいいとは頭では分かっているのだが、どうしても利益を求めてしまう。

 そして、小さな俺のプライドが、他と同じジャンルで後追いするだけで成功する事に対して拒否感を示してくるのだ。

 幸いにして……この市場は魚のアラや内蔵に関しては無頓着なようだしな。

 エビやカニの殻は売られているというのに、平気で頭や尾、内蔵や骨が売り場から外れた場所に積み上げられている。

 こいつを安く譲ってもらえないだろうか?


「すみませーん。ちょっとお聞きしたいのですが――」






「……それで、買ってきたのがこの……売れ残りの山なの?」

「売れ残りというか商品未満というか。いやいや、これも立派な食材ですから。その分浮いたお金で他の調味料や野菜を充実させたんで、メニューの幅も増やせますよ」

「本当に……? 好きにしても良いとは言ったけれど、お客様におかしな物を出すのは……」

「まぁ、ちょいと待っててくださいな」


 帰投したこちらが引く台車に積まれた食材を見て、不安そうな表情を浮かべるミスティさん。

 そりゃあそうだ。頭やら尻尾やら、桶に満たされた内蔵やら、知らない人が見たらただの生ゴミ回収業者にしか見えないだろう。

 大丈夫、これ全部綺麗だから。ゴミ箱から漁ってきたんじゃなくて、今まさに捌きたてのものを格安で譲ってもらっただけですから。


「そんじゃまー……カジキの心臓のアヒージョと、イカワタのアーリオオーリオ……トマトとタコの吸盤のガーリック炒めでも作ってみようかね」


 全部、ワインに合う一品だ。はたしてこの都市の住人に受け入れられてもらうか、まずはその試金石としてミスティさんに味わって貰おうか。


 手始めに、カジキを捌いていた店主に言って譲ってもらった心臓に軽く塩をふる。

 魚料理で内蔵部位やアラを使う際の基本だが、こうやって塩をふると食材の表面にある臭いの強い水分が抜けてくれるのだ。

 他の食材ともども一◯程塩をして放置し、そこに熱湯を注いで表面を洗い流す。

 もちろん、これらの解説は不思議そうに見ているミスティさんに解説中である。

 曰く、彼女が壊滅的なのは味付けのセンスらしく、細々とした作業や調理補助は出来るのだとか。


「熱湯にくぐらせるのは私も分かるけれど、塩までするのね。……そういう部位だとそれも仕方ないのかしら」

「まぁそうなりますね。けどまぁ、あの市場のものってどれも鮮度が良いですし、そこまで念入りにやらなくてもよさそうですけど」


 心臓は出来れば真水にさらして使った方がいいのだが、恐らくこの鮮度ならば大丈夫だろう。

 食べやすい大きさに切り分けていく。

 まぁ、後はおなじみのアヒージョにする訳だが…… 日本にいた頃ってオリーブオイルって結構なお値段しましたよね。

 それがまさかこの都市だとサラダ油並にリーズナブルな値段で手に入るとは。

 聞けば、この大陸の南部、共和国側ではオリーブの栽培が盛んだとかなんとか。

 ワインも特産だと言うし、向こう側に行くのが楽しみになってきたな。

 さてさて、それじゃあオイルを温めている間に残りも作ってしまいましょうかね。


「……とんでもない手際ね。どうしてこっちを見て話しているのに手元が狂わないのかしら」

「慣れですよ慣れ。毎日一◯時間以上何年もやってたらこうなります」

「じゅ、一◯時間!? いったいどんな過酷な環境で……カイ君、貴方奴隷かなにかだったの……? あの、無理しないでね、辛い事を思い出させたくはないの」

「……ハハハ」


 ミスティさんが的確にあの国の労働者の現状を言い当てるので乾いた笑いが出てしまいました。


「それじゃ今のうちにイカの内蔵をとりだしましてー」

「それもう完全に捨てる部位じゃないの……塩をふったところで変わるものでもないでしょう?」

「ところがどっこい。まぁ見ててくださいな」


 今度はフライパンに多めのオリーブオイルとニンニクを入れ、弱火で香りを移したところで下処理したイカのハラワタをぶつ切りにして投下する。

 炒めながら崩していき、オイルと合わさり徐々に乳化してソースへと変化していく様を観察していく。

 そして、ミスティさんに先に茹でて貰ったパスタの煮汁を少量加え、塩と胡椒、そして少量のパセリを加え、味を整えたところでパスタを投入。


「ほっ……ほっ……これ以上火を通さないように、こんな風にコンロから離してソースを絡めていくんですよ。ナベ振りはできますよね?」

「……そんな量を一度にひっくり返すなんて私には出来ないわ」

「じゃあ慣れましょう。それじゃ盛り付けにはいりまーす」


 出来上がったのは、うっすらとオレンジがかったソースの絡んだパスタ。

 ニンニクの香りとイカの濃厚な風味漂うそれは、ほとんど具が入っていない試作品であるにもかかわらず、こちらの胃袋をこれでもかといじめ抜くようで。

 自分でも思わず喉をならしてしまう程だった。

 もし店に出すならイカのゲソやプチトマトなんかも一緒に炒めてもいいな。


「……香りはいいわね、凄く。……内蔵、よね」

「まぁまぁ、もしも美味しくなかったらその時はボツにしますんで」


 やはり森の民エルフさんには、こういった海の生き物、それもいつも捨てる部位を利用した物というのは受け入れがたいのかもしれない。

 まぁ、彼女の場合は材料や作ってる様子を間近で見たせいで嫌悪感もあるのだろうが……。

 難しいよね、これは。俺だってどこか山奥の住人にいきなり虫を食べろと出されても拒否してしまうだろうし。

 ただ、これはいつも食べている物の他の部位というだけなのだし、そこまでゲテモノではないと思うのだが……。


「……わ、わかったわ。一口……一口だけ」


 恐る恐る、フォークの先端に引っ掛けるようにして少量のパスタを持ち上げる彼女。

 薄く色づいた唇がゆっくりと小さく開く、そして、勢いづけるかのようにチュルンとその一本のパスタを吸い込む。

 それを見届けて、もう一品の料理であるアヒージョも火から下ろし、彼女の前に置く。

 さて……じゃあ最後のもう一品を仕上げますかね。


「ミスティさん、食べられる味していましたかー?」


 下ごしらえをしつつ彼女に目を向けると、最後に見た姿から変わらない姿勢のまま、じっと皿に残ったパスタを見つめているところだった。

 ふむ、少なくとも不味くはないみたいだ。


 さて、じゃあタコの吸盤さんをぶつ切りにして――

 その時、耳に猛烈な勢いですすられるパスタの音が聞こえてきた。

 その音を聞き、一人吸盤に向かいながらほくそ笑む。

 ……堕ちたな、と。


(´・ω・`)あ、五巻重版決まりました。そして六巻の改稿が始まりました。

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