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二百七十九話

(´・ω・`)本日発売、暇人魔王五巻! レイス編完結!

WEB版とは少し内容が違います&レイスとリュエ視点の話が増えております。

 道行く住人は、やはりその八割方はエルフだった。

 こうして大人数のエルフを目にする機会はこれまでなかったのだが、こうして見ると一人一人髪の色や瞳の色、耳の角度と、一見すると気が付かないような特徴がある事が見て取れる。

 そしてそういった多くのエルフ達を見ていると、なるほどアマミやブライトの一族の様な色の濃い、鮮烈な金髪という人間は少ないように見える。

 時折人混みの中から目を引くような髪色を見つけても、エルフではなかったり、もしくは微妙に茶髪がかっていたりと、そうそうお目にかかる事は出来ないようだ。

 恐らく似た金髪のエルフだっているのだろうが、そこに更に『濃い緑の瞳』という条件が重ならないとブライトの条件とは一致しない。そしてその瞳の色を持つ人間も、ぱっと見では見つけることが出来ないでいた。

 まぁ、通行人の瞳をじっくり見るわけにもいかないって理由もあるのだが。


「アマミやレイラ、スペルさんにイクスさん。そういや俺が知り合った人間ってみんなブライトに縁があるんだよな……」


 皮肉な話だ。俺が一方的に憎んでいる相手が、俺の友人として存在しているのだから。

 そして何よりも皮肉なのが、ダリアもまた、同じ特徴をその身に宿しているという事実。

 不思議な気分だ。こうして俺は今、その憎いと思っている相手の拠点で一人、こんな事を考えている。

 この場所に、俺の旅の目的を決めるきっかけをくれたリュエも、そして共に歩んでいくと誓ったレイスもいない。

 不思議だ。なんと言い表したらいいだろうか……そう『ちぐはぐ』だ。

 目的と、関係と、道程と、現状が、ひどく、噛み合っていない。

 モヤモヤが、激しくなっていく。気疲れもあるのだろうか。つい、道の端に避け、街路樹に持たれるようにして座り込んでしまう。

 背中に伝わる、無機質な、けれどもどこか落ち着く木の感触に身を任せ、少しだけ目を閉じる。

 ……本当の意味で一人になるのなんて、いつぶりだろうか。

 会おうと思えばいつでも会える状況ではない。その事実が、女々しくもこちらの心に負担をかけているのだろう。

 瞼の裏を見つめる。そして、闇の向こうから透ける光を感じながら、まるで自分の内側に内側にと入り込むように、心を落ち着かせていく。

 ……ここで、二の足を踏んでどうする。臆病風に吹かれてどうする。

 ここまで、俺はここまで来たではないか。

 弱り始めた己に再び喝を入れ、勢い良く目を見開く。

 少しだけ眩しく感じる光に目を細めながら、再び立ち上がる。


「飲食街はもうすぐ、だな」




 昼を大幅に過ぎている関係か、辿り着いたその一角の人通りは少なく、時間帯関係なしに営業している店からまばらに人が出て来る姿をかろうじて見つけられる程度。

 それが、この飲食街にたどり着いた俺の見た最初の光景だった。

 通りの果てが見えないくらいどこまでも続く飲食店の並びに、本当にこの中からダリアの訪れる店を見つけられるのだろうかと不安が鎌首をもたげる。

 いやいやいや……それでも見つけなければ。あいつが好きそうな店を……。


「とはいえ、どこも看板をしまっているしな……時間を見誤ったか」


 メニューを表に出している店も少なく、店名から店の方向性を定めようにも『ルドウィークの食堂』やら『翡翠の羽亭』だのと、何を出している店なのか推し量ることが出来ない店名ばかりだった。

 そして店構えの方も、雷紋があって中華風! なんてわけもなく、どれもこれも木造の、自然と調和しましたと言わんばかりの店ばかりだった。

 いやぁ没個性すぎやしませんかね?

 どこかに情報屋や案内所はないものかね? ここまで多くちゃ客も迷ってしまうだろうに。

 一先ず店巡りから案内所やどこか人の多い場所を探す方向へと路線を変更し通りを進む。

 日中の営業は既に終わっているはずだが、調理の残り香や夜に向けての仕込みだろうか?

 まぜこぜになった匂いが風にのって鼻孔へと飛び込む。

 それが、なんだか懐かしくて。どうしようもなく、前の世界の様々な思い出を呼び起こす。

 ……おかしいな。どうしてこうなったんだ。俺は、ここまで弱かったのか?

 ああ、そうだ。いつだって俺は弱気を見せないように張り詰めていたさ。

 気を緩める事もあった。自分らしくあろうと決めた事もあった。

 だがそれはあくまで『カイヴォンとして』だ。

 ……あの二人が出会ったのは『カイヴォン』だから。

 そしてあの二人がいない今、俺は自分を『カイヴォン』だと言い張ることが――

 ……なんてな。俺は俺だ。ちょっとばかしホームシックにでもなったのかね。

 らしくない、本当にらしくない。そうだな、緊張だ。柄にもなく、緊張してしまっているのだ。

 そうだよな。だってこれは『俺の目的の為に自分で動いている』のだから。

 誰かの為じゃない。俺が、俺の目的を果たすための行動だ。

 なるほど、ステータスを無視するほどの緊張に襲われているのか俺は。

 そうこなくっちゃ。この感覚、久しく味わっていなかった。

 一か八かの綱渡りや、失敗するかしないかの瀬戸際。

 目的を果たすあと一歩まで来た時の『もしもここまできて――』という不安。

 ああいった感覚から、久しく離れていたな。

 ああ、これでいい。これくらいで丁度良い。

 気合を入れ直し、そして少しだけ自分に酔うように、往来を進む。

 今ならこの香りも、街並みも、全てが懐かしくも新鮮に感じられる。

 ふむ、さしずめこの界隈は肉料理の店か。通りの始まり付近にあるのなら、恐らく『早く空腹を満たしたい』と願う人間が集中するはず。

 この通りのすぐ側には、恐らく自由騎士の詰め所だろうか? 武装した人間が出入りする場所があった。

 なら――この辺りにダリアはこないだろう。

 冷静になりゃこんなもんだ。そうだな、少しずつで良い、カンを取り戻せ。

 俺の鼻は、分析は、こんなもんじゃないだろう。


「……こういう時は、あの臭い街で働いた経験が生きるんだよな」


 どこもかしこも猫の額みたいな土地に強引に店を建てていたあの都市。

 あそこでも俺は、こうやって店を眺め、頭をフル回転させながらリサーチしていただろ?

 なぁに、あっちにくらべりゃここの空気はすごぶる良い。思考だってさえてくれるってもんだ。


「……ふむ。あのエルフ至上主義の店はキノコメインだったが……やっぱり森の食材を使う店が好まれるのかね」


 足を運びさらにさらに進めていくと、今度は芳醇でどこか複雑な香りが立ち込めてくる。

 それはスープを煮込む匂いであったり、クリームに類する物のはっする鼻にまとわりつくような香りであったり。

 だがそこに動物性の匂いが混じらないことから、恐らくキノコや野菜メインの店が多いのだろうとあたりをつける。

 見れば、先程までに比べて若干店の規模も大きくなり、看板の装飾も凝った物が多いようだ。

 だが――


「高級志向の店に、城を抜け出してまで行く理由がない、か」


この区画もスルーで問題ない。間違いなくこんな『お上品にテーブルマナーを守りましょう』と言っているような店には行かないだろう。息抜きにならん。

 となると――


「ジャンクフード……はさすがにないか。大衆酒場のある辺りか?」





「……くっ、目的を忘れてしまいそうになるな」


 どういう訳か、その一角は酷く個性的で、どの店も自分達の在り方を盛大にアピールするかのような店構えをしていた。

 それは、大衆酒場の集う一角。他の区画とこうも違いが顕著なのには、何か特別な理由でもあるのだろうか?

 文化への興味も尽きないのだが、確かにこの思わず目移りしてしまう店の数々は、良い気晴らしになるだろうな、と、ここがダリアが訪れる場所に違いないとあたりをつける。

 俺も、もし状況が違えばここに足繁く通っていただろう。そうだな、恐らく週一で、


 この時間から飲んでいる人間というのは、さすがに少々お堅い土地柄もあり誰一人といないのだが、今ですらこのワクワクとした感覚がせり上がってきているのだ。

 もしもこれが宵の口ならば、さぞや夢のような空間へと変貌してくれる事だろう。

 なら、人通りの少ない今のうちに、ダリアが好きそうな店をピックアップしておくのが懸命だろう。

 幸いにして、ここまで個性あふれる店達ならば、ある程度料理の傾向も分かるというもの。

 今だって目の前には、巨大な魚の標本をそのまま看板にした店が居を構えている。

 これは恐らく魚の店……一応ここもピックアップしておくか。


 そうして、美味しそうな、そしてあいつが喜びそうな店をチェックしながら通りを奥へ奥へと進んでいた時の事だ。

 店の数も疎らになり、そろそろ通りの終わりである川が見えてきた頃。

 その川にかかる橋の上で、思い詰めた顔をした一人のエルフが流れる川をぼんやりと眺めていた。

 この時間はこの場所を通る人間が少ないのか、その人物以外に人の姿はない。

 そしてまるで陰を背負っているかのような陰鬱な空気と、まるで重たい物を背にしているかのように曲がった腰。

 なんだ、今にも川に飛び込もうとしているようじゃないかまるで。

 思わずそんな事を思ってしまった時だった。

 こちらの考えが伝わったかのように、その人物が橋の手すりを上り始めたのだった。


「んな!? おい待て!」


 こちらの声が聞こえたのか、酷く狼狽えた顔で振り向いたその人物。

 年齢は分からない。だが見た目は妙齢のお姉さまのように思える。

 焦げ茶がかった金髪と、紺色の瞳。だが……目の下の隈が酷い。

 そんな彼女が、まるで俺が近寄るのを恐れるかのように、そのまま手すりを飛び越え、そしてそのまま川へと――


「間に合えよ!」


 一足で橋を駆け、手すりの隙間から手を差し伸ばし、今にも橋から消えてしまうところだった彼女の腕を強く掴む。

 その瞬間、重力に従い落ちる彼女の重さが肩へと伝わる。

 が、さすが化物スペックなんともないぜ。そのまま片手で持ち上げ、手繰るようにして彼女をゆっくりと橋の上へと戻していく。

 再び現れた彼女の顔は、全てを諦めたかのような、深い絶望に彩られていた。

 ……やっぱこれ自殺ですよね……見た感じ結構な美人さん……何に絶望してあんな狂行に奔ったのだろうか。


「どうして止めたのよ! 放しなさいヒューマン!」

「命を粗末にするんじゃありません。寿命が違えど互いに命は一つ。その大切さくらいはヒューマンでも知っているよ」

「……世の中には命よりも大切なものだってあるのよ!」

「そいつも重々承知。いいからこっちに来な。……話くらい、幾らでも聞くから」


 こんな事してる場合じゃないのは分かっているのだが。

 だが、見てしまったのなら仕方がない。どうせ夜まで暇な身だ。話を聞くくらい、別に良いだろ?


(´・ω・`)追伸 報酬期間終わった次の日にクリファドアーム出ました。SEGA許さない

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