第10話 合代さん彼氏いるのかな
奏人の家のソファでくつろぐ。
さすがに昨日の三連戦は応えて、体には疲労が溜まっている。傷は大方癒えたものの、疲労はどうこうなるものではないみたいだ。
「殺さなかったのミスったかな……」
変にダンジョンの外で人を殺して騒ぎになるのは避けたい。
「碧の倫理観、たまに思うけど本当にカスだよね」
「まあな……。じいちゃんからよく戦争の話とか聞いてた影響がでかいと思う」
「碧のおじいちゃんって、徒手空拳最強って言われてたんだよね。やっぱりいっぱい人殺したのかな……」
「山ほど殺したって言ってた。でも優しい人だったから、人を殺すってラインを越えることがそのままその人の人間性を表すわけじゃない、って観念が染みついてる」
「碧に関しては普通に人間性が終わってるから殺しに迷いがないみたいなところあると思うけど」
俺は定期的に奏人から人柄ディスをいただく。
自覚はある。昔から性格は悪い方だ。たまにサイコパスと言われることもある。
「奏人の人間性との落差がでかいからよりカスに見えるだけだろ」
「いや、絶対基準で考えても普通にクソ倫理観だよ? 電車で優先席躊躇なく座るタイプじゃん」
「年寄りには譲るぞ」
「でも妊婦とか体調悪い人には譲らないよね。おじいちゃん子だからって老人贔屓はよくないと思う」
老人を贔屓するのと、自分を贔屓するのと、その程度の違いしかない。
「今日はさすがにダンジョンは潜らないでしょ?」
「ああ。西野にはもう潜れないし、ゆっくり次に目標にするダンジョン決めるわ」
「やっぱりでかいところ行くの?」
「いや、でかいところだとその分実力者も多いからなるべく避けたい」
西野ダンジョンですら、凡骨劣太のような実力者がいたのだから、大きなダンジョンには彼以上の実力者がウロチョロしていること間違いない。
あとは、単純に人目が多いので配信者狩りには向かない。
「東京のダンジョンは激戦区って聞くよね」
「日本初のダンジョンがある都だしな」
押上ダンジョン。スカイツリーの直下から伝播するように、ダンジョンが数々誕生していった。
「スカイツリーはピサの斜塔よりも傾いたんだってね」
基本的に、ダンジョンの地形や壁は魔力によって強化されており崩れることはない。
誕生の瞬間にはスカイツリーは傾いたが、今後はダンジョンの確固とした地形により、これまでよりも安定した地盤になると予想されている。
「真っ当に配信者やればいいのに。魔拳流、結構映えると思うよ」
「……まあ、やってもいいんだけどな。今は配信者スレイヤーっていう地位が安定してきたから、このままいくつもりだ」
何か大きな組織の後援があればその考えは変わるかもしれないが……。
「僕ちょっと買い物行ってくる。何食べたい?」
「うーん、シチュー」
「いいでしょう。今日はせっかく碧もいるし、本気でシチューを用意してあげよう」
そう言って奏人は出かけていった。
「あいつ頭いいし料理できるしいい大学行ってるし、なんで彼女いないんだろう」
はっ、もしかして俺のことが……?
「申し訳ないがBLはNG。俺は美女と付き合いたいんだ」
そう、例えば合代春穂みたいな……。
合代さん、めちゃくちゃ可愛かったな。殴り合いにならなければワンチャンあったのかな、後悔するなあ。
いや待て、そもそも向こうから襲い掛かってきただろ。じゃあ俺悪くないじゃん。
あれ、でも合代さんのお父さんを殺した俺が悪いのか?
はー待て待て、冷静に考えて合代さんのお父さんが俺を急に殺そうとしたんだろ。じゃあ俺悪くないじゃん。
「なんというか、必然?」
配信者スレイヤーにさほどこだわりもないんだから、おとなしく社長の提案を受けておけばよかったのか?
でも、明らかに条件がブラックだ。合代不動産以外にダンジョンの成果提供できないし、報酬も中抜きがあるだろうし。
福利厚生は会社に所属したほうが手厚いだろうが、この世界はそれ込みで会社が得をするように作られている。ならフリーランスで戦った方がいいんじゃ……?
「もうわからん。っていうかそもそも、社長殺してなくてもワンチャンすらなかった可能性もあるからな、今の選択で正解な気がしてきた」
合代さん彼氏いるのかな。何とかして良好な関係を築けないだろうか。
「次のダンジョン探すか……」
でかいダンジョンで出会いを探した方がいい気がしてきた。




