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電波塔から降ってきた天使を助けたら、強制的につきまとわれる守護天使になりました。  作者:


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第5話 天使の決断

 翌朝、カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ますと、そこには既に身支度を整えたフワロが立っていた。


「おはようございます、藤木さん」


「……おはよう、フワロさん」


 いつもなら「あと五分ですぅ……」と布団にしがみつく彼女を無理やり引き剥がすのが、俺の日課だった。だが、目の前の天使は凛と背筋を伸ばし、静かに微笑んでいる。 ああ、本当に終わったんだな。あの騒がしくも愛おしい日常が、もう戻らないのだと改めて突きつけられた気がした。


「どうかされましたか?」


「……いや、なんでもない。すぐ準備するよ」


 俺は逃げるように洗面所へ向かった。 出勤の支度を急ぐ俺を、フワロはただ黙って見守っている。その視線を感じるたび、胸の奥がチリチリと痛んだ。 その時。


「っ……!」


 短く、苦しげな声が漏れた。見ると、フワロがこめかみを押さえてよろめいている。


「おい、大丈夫か!?」


「……すみません。何でも、ありませんから。少し、立ち眩みがしただけです」


 彼女は無理に微笑んで誤魔化した。だが、その瞳はどこか遠く、自分自身の内側を探るような、ひどく不安定な光を宿していた。 俺はそれ以上追求できず、逃げるように家を出た。


 仕事は、驚くほどいつも通りだった。 誰にも邪魔されず、静かに、淡々と過ぎていく時間。あのフワロがいなかった頃の、本来の俺の日常だ。……なのに、どうしようもなく退屈で、胸に空いた穴から冷たい風が吹き抜けていく。


 そして、あっという間に迎えた夜。 帰り道、俺たちはあの電波塔の近くまで差し掛かっていた。街灯に照らされたフワロのヘイローが、残酷なほど美しく輝いている。


「フワロさん、この辺りでいいですよ。ここからはもう家まで一本道だし。……今まで守ってくれて、ありがとう」


 これで終わりだ。俺は精いっぱいの感謝を込めて、彼女に背を向けようとした。


「待ってください」


 フワロの声は、夜の空気に凛と響いた。


「今日までが期限ですから。最後まで責任を持って、あなたをお守りします」


「……だよな。あいつじゃないんだし、そう言うと思ったよ」


 自嘲気味に呟いた俺に、フワロは一歩、歩み寄った。


「藤木さん。……あなたは、あの子(・・・)に会いたいですか?」


 その問いに、俺は言葉を失った。 フワロは静かに語り始めた。昨夜から今日にかけて、俺の隣で過ごす中で、彼女が何を感じていたのかを。知らないはずの記憶が脳裏を駆け巡り、胸を締め付けるような熱い痛みが、ずっと彼女を責め続けていたことを。


「あなたの知っているフワロは、きっとまだ消えていません。私の中に……いえ、私たち(・・・)の中に、確かに存在しています」


「……頼む。会わせてくれ」


 俺の絞り出したような声を聞くと、彼女は一瞬、あのバグのフワロによく似た、いたずらっぽくも優しい笑みを浮かべた。


「わかりました。……これが、私の果たすべき、最後の守護です」


 刹那、凄まじいまでの聖なる力が彼女の全身から立ち昇った。 夜の闇を黄金色が塗り潰し、彼女の両手からはパチパチと稲妻のような火花が散る。彼女は祈るように指先を組み、凝縮されたその輝きを、迷うことなく己の円環へと叩きつけた。


「お願い……届いて……!!」


「お、おい! 何してんだ! せっかく直ったヘイローを――!」


「これで、いいんです……!」


 ――ピシッ。


 静寂を切り裂くような、硬い音が響いた。 黄金の円環に、鋭い亀裂が走る。彼女は自らの手で、完璧な自分を「壊した」のだ。 溢れていた光が霧散し、フワロの身体から力が抜けていく。彼女はそのまま、糸が切れた人形のように膝を突いた。


「フワロ!」


 駆け寄ろうとした俺の腕に、何かが飛び込んできた。


「う、う、うわあああああん!」


 顔を上げ、俺の服を掴んで大声で泣き出したのは――鼻水を垂らし、涙で顔をぐちゃぐちゃにした、俺の知っている「アホなフワロ」だった。



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