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第9話 タズフェル迷宮


 屋敷から二時間ほど馬車を走らせて、レイドリア一行はダズフェル迷宮に到着した。

 迷宮内では基本的にレイドリアとウィスプの二人で行動し、必要に応じて後方で待機する護衛が手を出す手筈となっていた。


「この迷宮でメインとなる魔物は、スグルナーという蛇の魔物。全長は一メートルほど。魔物にしてはコンパクトなサイズね。毒牙を持つからそれには注意」


 言われるまでもなく、レイドリアはそれを頭に入れていた。


「他にも、知能はありませんが、本能的に待ち伏せによる攻撃を好みます」


「うむ、よろしい。まあこのレベルの魔物なら、苦戦することはないと思う」


 そう言いながら、レイドリアとウィスプはダズフェル迷宮に足を踏み入れた。


「これが迷宮……!」


 ダズフェル迷宮はそれほど大規模な整備がなされた迷宮ではなく、どちらかというと天然の要素が多く残った迷宮だった。

 例えばヴィアーヌ領最大の迷宮、リヴェラ迷宮などは、等間隔に照明が設置されており、道も整備され、拡大工事もしてあった。

 対してダズフェル迷宮はというと、中を照らすのは壁に張り巡らされた光苔だけで、天井や壁も洞窟そのままといった感じで不揃いである。

 だが、レイドリアはそんなところにも興奮していた。


「〈灯火〉」


 ウィスプが魔法で光を灯す。辺りの視認性はグッと上がった。


 レイドリアはゆっくりと深呼吸をした。ジメジメと湿気のある空気であるにも関わらず、いつもよりも滑らかに鼻を通り、全身に巡った気がした。


「なんだか気持ちがいい空気ですね」


 その感想を率直に述べると、ウィスプはわざとらしく顔を顰めた。


「あなた、それ本気で言ってる? こんなジメジメした汚い空気、なかなかないわよ?」


「そうでしょうか……?」


 自分のウィスプとの間に決定的な違いがあると自覚して、その要因はなんだろうと思案に浸りかけたレイドリアだったが、それはすぐに打ち切られた。


「来たわよ、スグルナー」

 

 ウィスプの言葉通り、眼前には一メートルほどの蛇が鎌首を構えていた。


「シャーッ!」


 威嚇をしたかと思えば、スグルナーはレイドリアに向かってニョロニョロと突進してきた。


 とはいえ、レイドリアに焦った素ぶりはない。初めての実戦とはいえ、そこら辺の十三歳とは格が違った。


「〈沈毒〉」


 レイドリアの詠唱すると、小さな針のようなものがスグルナーに向かって放たれた。

 その針がプツリとスグルナーに刺さると、同時にスグルナーの動きが止まった。


「おおっ、さすがっ」


 〈沈毒〉。針そのものが毒であり、刺さると同時に、体内に沈むように溶け出し、即座に効力わ発揮する毒魔法。神経伝達を阻害し、スグルナー程度の大きさの魔物なら五から三分ほどは無力化することができる。


 レイドリアはナイフを取り出すと、動けなくなったスグルナーに突き刺した。スグルナーの息の根は、これで完全に止まった。


 死体となったスグルナーは、しばらく経つと迷宮に吸い込まれて消える。

 これは昨今定説になりつつある『迷宮は生きている』という言説の一番の証左だった。

 迷宮は迷宮内で独自の生態系を築かせ、死体を食べることによって存続している。人間は大きな魔物を倒してくれるため迷宮にとって都合が良く、宝箱を設置することで誘き寄せているのだ。


 スグルナーは消えたがその場に残されたものがあった。


「これが魔石ですか」


 普段は空気中に漂う『魔素』が濃縮されたアイテムで、魔導具などの動力源として使われる。

 冒険者たちの主な収入源はこれだ。

 強い魔物からは大きく濃密な魔石が取れ、当然高値で取り引きされる。


「これはランク的には……Dというところですか?」


「そうね。Dだと思う」


 魔石はその大きさと密度をもとにランク付けがされており、EからSで分かれる。

 最低位のEとなるとほとんど値がつかないが、Dからはまともに金を受け取ることができる。


「今日は第一階層しか探索しないつもりだから、このまま進みましょう」


「はい」


 



 二時間ほどが経った。

 ここまで、スグルナーばかりを討伐し、順調に毒魔法の効力と使い所を学んでいた。


「じゃあ、そろそろ引き返しましょうか」


 魔力量としてはまだまだ余裕があったが、精神的な疲れが思わぬ事態を起こさないとも限らない。初めてということもあり、ウィスプはここで実戦を終了する決断をした。


「わかりました」


 レイドリアもそれに同意した。


「帰り道は魔法で記録してるから大丈夫……っと」


 ウィスプは突然、何かに気づいたように一点を見つめた。

 その後に、レイドリアもその何かに気がついた。


「ネズミ……スクラットですか」


 ネズミの魔物、正式名称ではスクラット・ラットという。

 スグルナー以外の魔物との遭遇はこれが初めてだった。スクラットはレイドリアが今まで読み漁ってきた魔物図鑑の、その一番最初に記されるような魔物だ。初心者御用達の弱い魔物である。


 だが、それは一匹である場合の話だった。


「二十四」


 ウィスプがその数を瞬時に把握する。


「制圧しなさい。レイドリア」


 いつになく真剣な口調だった。


「はい——〈毒霧〉」


 〈毒霧〉はこういった数の多い雑魚戦では特に役に立って魔法だ。

 霧はレイドリアの意図の通りにスクラットたちを包んだ。

 一匹、また一匹とスクラットが絶命していく。


 そうして、二十三匹のスクラットが絶命した。残るのは少し大きな個体。


「チューッ!」


 そのスクラットは、果敢にもレイドリアに飛びついてきた。


「〈沈毒〉」


 スクラットの進行方向に針を構えるだけでよかった。針はスクラットに刺さり、スクラットは動かなくなった。


 ナイフでトドメを刺すと、しばらくしてスクラットは迷宮に吸い込まれた。


 二十四匹のスクラットたちからは、E級の魔石しか取れなかった。


次回から『学院編』になります。

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