美咲の日記 その17の2
美咲の日記 その17の2
まだ2回目だけど見慣れてしまったような景色。目的の病院まではもう少し。迷っている気持ちを無視するようにバスに乗り込んだあたし。そんなあたしの背中を支えるように優しく手を添えてくれていた真由。この前乗った時よりもバスのスピードが速く感じられた。このままじゃすぐに到着してしまう。あたしの心は知らずと焦っていたのかもしれない。隣りに座る真由の手を無意識に握ってしまっていたから。
見覚えのあるガソリンスタンドの先の、見覚えのある角を左に曲がると、遠くに見覚えのある四角い病院が現れた。見覚えのある駐車場を通り過ぎ、見覚えのある茶色いスクリーンに囲まれたバス停があの日と変わらずにそこにはあった。あたしはあの日と同じようにバス停に書かれた「市立函館病院前」という文字を呟いていた。
「さあ、行くよ」と真由はあたしの手をひいた。あたしは手をひかれるがままにバスを降りた。中に入るとまたあたしは足を止め吹抜けを見上げていた。そしてそこで大きな深呼吸をしたのだった。
「今日は正面からでいいよね」
いった真由の表情もやや固くなっているように見えた。あたしは出来るかぎり大きく目を見開き、うん、と答えた。
ここのエレベーターに乗るのは初めてだった。前回は非常階段を4階まで歩いて昇り、真由と2人で、ぜいぜい、いっていたのを思い出す。デジタルの表示が1から2へ、2から3へとゆっくりと舐めるように変わるのをあたしは唾を飲み込みながら見つめた。
「大丈夫?」真由はそんなあたしを見ながら心配そうな表情でいった。「私がついてるからね」と今度はニコっと笑顔を見せてくれた。そのお陰であたしの気持ちが幾分ほぐれたようにも感じた。
そして予定通りデジタル表示は4を示した。すぐ下にある時間の表示が11時10分に点滅している。あたしの決心を訊こうともしないエレベーターの扉は、どうぞ、といわんばかりに開いたのだった。
「やっぱ、やめる?」降りようとしないあたしに向かって真由がいった。「知らなくていいことも世の中にはあると思うけど、私たちはまだそんな年じゃない。今から逃げだしてちゃ、一生逃げる癖がついちゃうよ」と、勇気を出せ、といわれたような気がした。
あたしは顔を上げた。そして、大きく頷いた。
エレベーターから降り左右を確認してみた。するとあたしから見て右側に、それこそ見覚えのあるロビーが見えたのだ。その中でも特にあの大画面のTVはよく覚えていた。ということは、その先を左に曲がるとすぐそこ、ということだ。目的地・キムラリツコのいる部屋は。
「私が先に見てこようか?」と真由はいってくれたが、あたしはそれに対し、ありがとね、といって先に歩き出していた。
一歩一歩近づいていた。真実へと、知らなくてはいけない真実へと向かって。もう余計なことは考えていなかった。何を喋ろうかとか、何を訊こうかとも何も。
一歩、一歩進むにつれ、明るい日射しが差し込むロビーが近づいてくる。あたしの心も同じように晴れやかになっていた。開き直ったわけではない。あたし自信が強くなったような感じにさえなっていた。




