私と赤頭巾
*短編の私と赤頭巾と同じ内容です。
私は森の一匹狼。
比喩表現などではなく、森で暮らす一匹の狼だ。
銀色に輝く毛並みは自慢の一つで、鋭い牙もふさふさとした尻尾も、強固な爪も手入れを欠かしたことはない。
しかしながら誠に残念なことに、自慢の種も、武器として扱うべく牙と爪も役に立つことはほとんどない。
何故なら私はベジタリアンで、特に木になっている果物や、茂みに生えている野菜を好んで食べるからだ。
生粋の狼であればまた違うのだろうが、私は人狼と呼ばれる種族で、別に肉を食べなきゃ困ることもない。
生まれた森から世界を見たいと飛び出たのは、まだ狼から人型になれない幼い頃だ。
もう両親の記憶もおぼろげで、故郷への帰り道も判らない。
それでも紆余曲折を得て辿り着いたこの森は、私にとって楽園とは言えなくても、十分に住み心地がいい場所だった。
───一点を除いては。
今日も今日とて食事を終えた私が、枝振りがいい木の上で昼寝をしていたところ、鬱陶しい気配が近付いてきた。
動物的本能は人間よりも鋭いので、足音は遥か前から聞こえている。
頭部にある三角の耳をぴくぴくと動かし両手で塞ぐと、やがてくる『災い』から身を守るために小さくなって葉に紛れるように隠れる。
これだけ枝振りがいい木の、しかも天辺付近にいるなら見つかるまい。
そう思いながら器用に寝返りを打つと、どしんと嫌な震動が身体を貫いた。
「な、何事だ!?」
「あ、やっぱここにいたー!おっはよー、狼さん!今日も遊びに来たよー!」
「!!?」
眼下から聞こえる声に、嫌な汗が額から滲む。
恐る恐る枝の隙間から下を覗けば、小麦色の肌をしてムキムキマッチョな体を白のタンクトップで覆った男が、好青年さながらの笑顔を浮かべてこちらを見上げていた。
結構距離があるのに、視線が絡んだと感じたのは絶対に間違いじゃない。
一瞬で全身に鳥肌が立ち、ビビビビっと尻尾の毛が逆立った。
「───貴様、赤頭巾!?」
「そう、俺だよー!もう、太陽が上がってからずっと探しちゃったじゃないか。また住処を変えたの?狼なのに木の上で寝るなんて珍しいね」
「貴様が私の寝床に毎日襲撃するから住めなくなるんだろうが!って言うか、その斧を止めろ!木が倒れるだろ!」
「あはは、倒すために斧を使ってるんだよ。俺じゃそこまで上れないし、そうなると君に降りてきてもらうしかないだろ?」
「降りるのは嫌だ!」
「そう言うと思ったから、手っ取り早く切り倒してるんだ。俺って用意周到だからね」
きらりと白い歯を輝かせて告げた男に、旋律が走った。
この森に来て初めて会ったのは、不似合いな赤頭巾を被るよく判らない感性の子供だった。
狼にしかなれなかった頃に餌や寝床を与えてくれた少年は、きこりの祖父母と暮らしていた。
祖父母の反対を押し切ってまで毎日毎日仲良しの友達として扱ってくれていたのに、ある日私が人に変化できると知ってから徐々に態度が変わり始めた。
どう変わったのかわからないが、どこかが変わってしまったのだ。
人狼の一族は人間に変化できるようになれば一人前だ。
だから私は与えられるだけの生活ではなく、自活すべく彼の家を飛び出したのだが、赤頭巾を被る少年は、赤頭巾を被る青年になっても未だに私を追いかけてくる。
森のどこに逃げても必ず見つけ出し、どこまでもどこまでも、追いかけてきた。
「どこに行っても無駄だよ、狼さん。君は俺のものだって、俺が拾ってからずっと決めてるんだから」
ずずん、と木が倒れた音がして、目の前が土煙で視界が遮られる。
それでも何とか持ち前の身体能力を活かしてバランスを整えて着地する体勢を取ると、ぽすりと何かに受け止められた。
「ほら、捕まえた」
酷く満足そうな声に顔を上げれば、至近距離にいつの間にか随分と大人びた顔がのぞきこんできた。
こげ茶色の瞳が眇められ、私の頭に頬を摺り寄せる。
狼でしかなかった頃からと全く変わらぬ親愛の表現に嘆息すると、今日も掴まってしまったかと、私は一つため息を落とした。
*狼・・・石橋を叩いて壊すタイプの慎重派でありながら、突如として猪突猛進に突っ走るタイプ。
珍しい人狼と呼ばれる種族の子供であり、人狼しか住まない森から好奇心で抜け出して旅をしていた。
悪運が強いので生き延びで、なんとか安息の地を見つけるが、最近は安息の地も穏やかじゃない。
見た目:小さくて華奢。しかし狼なのでその気になれば強いし、身体能力もいい。銀色の毛並みとふさふさの尻尾が自慢。
*赤頭巾:おなかの空き過ぎで行き倒れていた狼を拾った。両親はなく、祖父母に育てられていた。祖父の職業がきこりで、現在は彼もきこりをしている。
なので力持ちで身体もかなり小麦色の肌のマッチョになっていた。
森の奥深くで隠者のような生活をしてるため、友達も居ない。そこで現れた狼を友達として大切にしていたが、狼が人の女の子にもなれると知って溺愛の意味が変わってしまった。
最近では彼女との追いかけっこが密かな楽しみ。
見た目は爽やかな青年だが、中身は割りとSっけが強く構いたがりの寂しがり。




