星集め祭の準備
急いで教室に行くと、何とか間に合った。……良かった。
穏やかに時間が過ぎ、放課後になった。今日の放課後は、生徒会の仕事があるので、生徒会室に向かう。
生徒会室にみんなが集まると、新しいイベントについての説明が始まった。
今度は生徒会側が主催の一か月後に行われる星集め祭というイベントだ。星集め祭は、その名の通り、学園中に隠された小さな星形のプレートを集めるイベントだ。
このイベントは、いつもなら放課後の時間――つまり夕方から夜にかけて行われるため、プレートには発見しやすいように発光する塗料を塗らなければならないようだ。
今回は、上級生と下級生の交流が目的らしく、上級生と下級生のペアをくじで決めるらしい。
「以上が、今回のイベントの概要だ。毎年恒例のイベントだが、塗料の発光効果が一年は持たないから、塗りなおす必要がある。なので、今日は、塗料を塗る作業を行おう」
……という、クライヴの言葉と共に、どさりと大きな袋が床に置かれた。わずかに空いている隙間から除くのは大量のプレートだ。
「わぁ……」
これをこの少人数でやるのは骨が折れそう。そう思って、周囲を見回すと上級生はみんな覚悟を決めた瞳をしていた。
……なるほど。毎年の恒例行事だものね。よし、私も頑張るぞ!
黙々と作業を進める。一つ一つ綺麗に塗ろうと思ったら時間がかかるなぁ。でも、せっかくの楽しいイベントだ。みんなに見つけた時に喜んでもらいたいから、手抜きはできない。
実際に、丁寧に塗ったものを、かざしてみるととてもきれいに光っていた。本当の星みたいだ。
あ、今度は赤色に塗るんだ。赤の瞳と言うと、ジルバルトやミランの瞳が思い浮かぶ。……なんてことを考えながら、塗っていると、隣から声をかけられた。
「ブレンダさん」
その柔らかな声に手を止めて、視線を向ける。二年生の生徒会役員である、シルビア・タロット伯爵令嬢だ。甘栗色の髪に黒い瞳の彼女は、穏やかな美女として有名だった。
「はい、タロット様」
「あら、タロット様なんて他人行儀な呼び方をしないで。みんな、わたくしのことはシルビアって呼ぶわ」
むぅ、と頬を膨らませたその姿はなるほど、確かに美しい。
「……では、シルビア様。なんでしょうか?」
「ふふ、ありがとう。ほら、あなたのお隣はいつも人気でしょう? せっかくお隣に座れたのだからお話ししたいと思って」
……確かに、彼女と話したことはあまりなかった。私はいつもミランの隣か、ルドフィル、──なるべく避けてはいるけれど、たまにどうしても座らなければならないときだけ、アレクシス殿下の隣に座っていた。
「私もシルビア様とお話ししたいです」
「……良かった」
他愛ない話をしながら、再び作業を再開する。
「ねぇ、ブレンダさん」
「はい」
「ブレンダさんには、恋人はいる?」
そう言って首をかしげながら、シルビアの塗料を塗る手は止まらない。……流石は、二年生だ。
シルビアは鉱山を複数有する侯爵家子息との婚約が決まっていたはずだ。
彼のことを誰かに聞いてもらいたいのかな。
「いいえ、いません」
……でも、好きな人はいる。もちろんそんな余計なことは、言わないけれど。
「そうなのね」
「……はい」
頷きながらシルビアを見ると、彼女はにっこりと微笑んだ。
「ブレンダさん──あなた、とっても可愛いわね」
「!?」
今の問答に、可愛いが見出だせるところがあったかしら。
「──素直で、可愛い」
うーん? よくわからないけれど、シルビアの言い方からは嫌な感じはしなかった。むしろ親愛の念すら感じられる。
「わたくしね、ずっとあなたとお話ししてみたかったの。本当は、氷なんかじゃないんじゃないかって、ずっと思ってた」
……氷。私が影で氷姫なんて恥ずかしい名前で呼ばれていたことだろう。
「やっぱり、噂はあてにならないわね。それでね、そんなあなたにお願いがあるのだけれど──……」
なんだろう?
「──になってほしいの」
私も負けじと丁寧に塗料を塗っていると、思わぬことを言われ、筆を取り落とした。
「……え?」
大丈夫? と言いながら、落とした筆を拾ってくれたシルビアは相変わらず美人だ。……って、そうじゃなかった。
「だからね、わたくしの──いもうとになってくださらない?」




