あの頃のように
「……僕のことを悪く言う人たちもいたけれど。それでもあの日、君が何にもなれなかった僕を一番にしてくれた」
僕は、僕自身を認めることができたんだ、そう続けながら、ルドフィルは私を見た。
「ありがとう、ブレンダ。あの時は、恥ずかしくてお礼なんか言えなかったから」
「いえ、当然のことをしただけですから。でも、あの日の言葉が少しでもルドフィル様のお役に立てたなら、嬉しいです」
ルドフィルは、なぜか不服そうな顔をした。
「ルドフィル様?」
どうしたんだろう。首を傾げていると、ルドフィルは、あのさ、と切り出した。
「ずっと思ってたんだけど、その呼び方と敬語をやめない?」
「ですが、私は平民ですし」
それに父から感情を殺すように言われた時から、私はルドフィルのことも他人行儀な呼び方をしていた。
「僕にとっても、ブレンダは最高の従妹だったよ。……でも今は、共に歩んでいきたい一人の女の子で、僕は君と対等のつもり」
一人の女の子。改めてそう言われると、緊張する。
「ブレンダがどうしても嫌なら、無理にとは言わないけれど。普通に話してほしい。周囲の目が気になるなら、二人きりのときだけでもいいから」
……どうしよう。ちょっと悩む。でも、ルドフィルが私を対等に扱いたいという気持ちが嬉しい。
「わかりました……ううん、わかったわ、ルドフィル」
あの頃とは、少し違う関係性の私たち。それでも、あの頃のように満面の笑みで名前を呼んだ。
「ありがとう、ブレンダ」
屈託のないその笑みに、胸が温かくなった。……とそこで、ずっと立ちどまっていたことを思い出し、歩き出す。
「行こうか」
「うん」
◇◇◇
学園についたのでルドフィルと別れ、図書室に向かった。
いつものようにジルバルトの隣に座り、挨拶をすると、ジルバルトも小声で返してくれた。
集中して問題を解いていると、少しだけ疲れた。そこでふと横を見ると、温かな瞳と目があった。
とても穏やかなその眼差しは、包み込まれるような心地よさがあった。
「──」
思わず瞬きも忘れてじっと見つめてしまう。
「どーしたの?」
その瞳は変わらぬまま小声で尋ねられて、ようやく瞬きをした。
「いえ、ただ──……」
ただ、あまりにもその瞳が綺麗で温かくて。その理由を尋ねようとしたけれど、なぜか言葉にできなかった。
「ん?」
──そこで丁度予鈴が鳴った。
慌てて勉強道具を片付けて鞄に詰め込んでいると、ペンが一本落ちて、ジルバルトの方に転がった。
「はい」
微笑みながら取ってくれたペンを、お礼を言いながら受けとる。
「ありがとうございます」
温かな眼差しは、変わらず私を見つめている。
「ブレンダ」
ジルバルトはゆっくりと私に近づき、髪に触れた。
その瞬間、バチッと音がした。
「え──」
「ごめん! 小さなゴミがついてたから、取ろうと思ったんだけど。……静電気かな」
でも今はまだ、春が終わって夏の入りはじめくらい。冬ならわかるけど、この時期には静電気を感じにくそうだ。
じゃあ、さっきのは何だったんだろう。
……って、そんな場合じゃなかった!
「取ってくださりありがとうございます!」
とりあえず、お礼を言う。私の早口なお礼に、時間がそんなにないことに気づいたらしいジルバルトも急いで片付け、その場はそのままお開きとなった。




