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【書籍2巻2/10】感情を殺すのをやめた元公爵令嬢は、みんなに溺愛されています!【コミカライズ】  作者: 夕立悠理
二章

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あなたの笑み

 世界で一番私のことを知る、男の人。それが誰かと言われれば、現時点ではルドフィルだろう。ルドフィルは私の従兄で、もう一人の兄のような存在だった。でも今は――。


『もう、僕は君の兄ではいられないけれど。それでも、君を大切に思う気持ちは変わらない。大好きだよ、ブレンダ』


 今は、一人の男の人だ。


 アレクシス殿下は、世界で一番私のことを知る、男の人になりたいのだという。それがどういう意味なのか、図りかねていた。それは、かつてのルドフィルのような存在になる、ということなのか、それとも私の――。


 どちらにせよ、私に言えることは。

「アレクシス殿下、私は……」

 私は、アレクシス殿下のことを好ましく思っている。もっと言うと、好きだ。一人の異性として。でも。

「私は、……いえ。そう言って頂けて、とても嬉しいです」


 無難な言葉を紡いで自分の気持ちを隠す。どうか、どうか、これ以上ないほど、高鳴っている胸の音がアレクシス殿下にばれませんように、とそう願いながら。


 アレクシス殿下は私の表情を見て、一瞬だけ目を細めたけれど、何かを言われるようなことはなかった。


 ――それからは馬車の中で、今日の天気だとか、本当に他愛もない話をして過ごした。昨日見た夢の話が終わったところで、丁度馬車が止まる。


「ブレンダ」

「ありがとうございます」


 アレクシス殿下にエスコートされて馬車から降りる。


 そういえば、行き先を聞いていなかった。ここは、どこだろう。そう思いながら、辺りを見回す。ここはどうやら、何かの裏口のようだった。

「アレクシス殿下、ここは……」

 尋ねた私の手をとり、アレクシス殿下は微笑んだ。

「楽しみにしていてほしい」

 手を引かれて歩いていくと、暗い細いところから、急に明るくて大きな扉の前についた。そこに立っている男性に、アレクシス殿下が何かを渡す。


 すると、扉が開き――。

「わぁ……!」


 今、自分がいるのがどこなのか理解した瞬間、思わず歓声を上げてしまった。


「……喜んでもらえただろうか?」

「はい!」


 アレクシス殿下が連れてきてくれたのは、この国で一番有名な劇団の劇場だった。

 私が以前この劇場に足を運んだのは、お母さまが亡くなる前なので、もうずっと昔のこと。


 しかも、アレクシス殿下が用意してくれたのは、一番いい席だった。半個室のようになっていながら、ステージがよく見える。


 ……あ。でも、どうしよう……!


 急に焦りだした私を、アレクシス殿下が不思議そうな顔で見る。

「どうした?」

「あの、アレクシス殿下、私――」

 アレクシス殿下とのお出かけ、ということだったので、ある程度はお金を持ってきてはいるけれど。それでも、心もとない。


 直球に、お金がそんなにありません!


 と言える勇気はなく、かといって、このまま私だけ無銭で観劇するわけにもいかない。

 どうしたものか、と頭を悩ませていると、アレクシス殿下は、ああ、と頷いた。


「チケットのことなら、気にしないでくれ」

「ですが……!」

「君が『私のために』着飾ってくれただけで、十分だ」


 ……ずるい。そんなに穏やかな顔をされたら、何も言えなくなる。

 到底、チケット代に見合うものではないことだけど。それでも、あなたが、そういうのなら。

「……ありがとうございます」

 せめて、感謝の気持ちを込めて、微笑んだ。

◇◇◇


 劇が始まった。劇の内容は、騎士の青年とお姫様の恋物語だ。


 さすが有名な劇団なだけあって、その演技はどれも素晴らしい出来だった。

 この劇にはあまり陰鬱とした場面はなく、笑いを誘うものが多い。


 だから、私は思わず、何度か笑ってしまったのだけど。

 ……そういえば。私、アレクシス殿下が声に出して笑った顔を見たことがないわ。


 アレクシス殿下が微笑んだ姿は、何度も見たことがある。笑った、姿も。でも、アレクシス殿下が声に出して笑った姿は、見たことがないわ。


 もしかして、この劇ならひょっとして……。


 そう思って、ちらりと隣を見ると、新緑の瞳と目があった。

「!?」

 え、なんで、目があうの?


 びっくりして、目を逸らしてしまった。

 もしかして、アレクシス殿下は、あまりこの劇が面白くなかった?


 いやいやそんなはず――。今だってコミカルな表情が、こんなにも笑いを誘うもの!


 今度こそ、笑っているはず。笑いながら、期待を込めてアレクシス殿下を見ると、やっぱり、目があった。


 でも、今度は目を逸らさずに、アレクシス殿下を見つめ返すと、気づいたことがある。

 アレクシス殿下は、まるで――ずっと欲しかったものを手に入れた、子供のような顔をしていた。そして、心底嬉しそうに、声に出して笑ったのだ。

「……ははっ」



 なんで、私を見て笑ったのかはわからないけれど。


 それでも、その笑みは私の胸に響いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] アレクシス…本当に本当にこれでいいのか? ってやっぱり思うよね〜。
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