特別に思う理由
劇が終わり、アレクシス殿下にエスコートされて、女子寮の前まで帰ってきた。
「とても楽しかったです。誘ってくださって、本当にありがとうございました!」
そう言って私が礼をすると、アレクシス殿下は穏やかに微笑んだ。
「私も楽しかった。こちらこそありがとう、ブレンダ。では、また」
そう言って軽やかに去っていくその背を見つめる。頭の中ではまだ、あの時の笑顔が響いていた。
◇◇◇
楽しかった休日が終わり、今日からは再び学園が始まる。
「ブレンダ」
女子寮の門前でおはよう、と言いながら手を振っているのは、ルドフィルだ。今日はいつもより自室を出るのが五分も遅かった。ルドフィルのこと、待たせちゃったなぁ。慌てて、足早にルドフィルのほうへ向かう。
「ブレンダ、そんなに急がなくても――」
でも、ルドフィルをこれ以上待たせるわけにはいかないわ。
さらに大きな一歩を踏み出したところで、足を思いっきり滑らせ、転びそうになり目を閉じる。でも、体がぐらついたのは一瞬で、すぐに頼もしい何かに支えられた。
「……っと。大丈夫、ブレンダ?」
恐る恐る目を開けると、ルドフィルが微笑んでいた。
「はい。……ルドフィル様、ありがとうございます」
あと少しの距離だったルドフィルが咄嗟に支えてくれたから、怪我をせずにすんだ。
「ううん、ブレンダに怪我がなくてよかった」
そう言いながら、私の頭に優しく手を置いたかと思えば、すぐにぱっと手を引っ込めた。
「……ルドフィル様?」
ルドフィルらしくないその姿を不審に思い、首を傾げる。
「あ、ああ、いや、ごめん。びっくりさせたよね」
ただ……、と困ったような顔で、ルドフィルは続けた。
「こういうのが、僕が『従兄』から抜け出せない原因かなって思って」
……実のところもう、ルドフィルのこととっくに一人の男の人だって思ってる。でも、確かにさっきの手は、ドキドキというよりも安心のほうが勝った。
そう正直に伝えようかと思って、悩んでいると、ルドフィルは私をまっすぐに見つめた。
「……ねぇ、ブレンダ」
「は、はい!」
その瞳がとても真剣なものであることに気づき、思わず姿勢を正す。
「僕が、なんでブレンダのことを一人の女の子として特別に思っているのか。そのことを、伝えたことはなかったよね」
ざっと今までのことを思い返してみたけれど、確かに……なかった気がする。
「……はい」
「それはね、ブレンダが僕のことを『一番』にしてくれたから」
その言葉と同時に女子寮のそばに植えられている、マリーゴールドが香った。
マリーゴールドは、ルドフィルの実家である、マーカス家にも植えられている花だ。
一気に記憶が呼び覚まされる。
「ブレンダのおかげで、今の穏やかな――穏やかであろうとする僕がいる」
そう、いつも穏やかな印象が強いルドフィルが、穏やかではない時期があったのだった。




