恋
「……それ、は」
思い出すのは、真っ赤な血だ。
「……はい」
頷く。私は、恋をして、父のようになってしまうことを恐れている。
「恋が、怖い?」
「……はい」
私が再び頷くと、ルドフィルは微笑んだ。
「僕のことも、怖い?」
「……いいえ」
恋は、怖い。正確には、私が恋をしてその結果変わってしまうことが怖い。
でも、ルドフィルのことは怖いとは思わなかった。
「……ねぇ、ブレンダ」
アイスグレーの瞳でルドフィルが私を見つめる。
「僕は、君が好きだよ。君に恋をしてる」
恋は時に、自制がきかなくなることもあるけれど。それでも、それを含めて僕はこの感情を大切に思ってる、とルドフィルは告げた。
「君は、叔父様とは違う」
……そうだろうか。
本当に?
戸惑う私を見透かすように、ルドフィルは優しく微笑んだ。
「きっと、恋をすればわかるよ。もちろん僕と恋をしたくなるように頑張るつもりだけれど。………君が誰かに恋をして、その呪いから解けてくれたら嬉しい」
◇ ◇ ◇
放課後になった。
今日は生徒会の仕事がある。
廊下でミランを待ち、一緒に生徒会室に向かう。
「ミラン様」
「どうされたの?」
私はふと、立ち止まって、ミランを見る。
そしてこっそりミランに囁いた。
「ミラン様は、恋を……されていますか?」
私が尋ねると、ミランは途端に顔を真っ赤にして小さく頷いた。
「……ええ」
その相手はクライヴだろう。
私は、そんなミランを眩しく思いながら見つめた。
「ミラン様は、更にお綺麗になられましたね」
ミランは元から美人だけれど、最近とても輝いて見える。そういうと、ミランははにかんだ。
「それは、クライヴ様のおかげね」
「アルバート様の?」
少しでも綺麗だと思われたくて、最近お手入れを特に念入りに行っているのだとミランは続けた。
「そうなのですね」
恋はきっと悪いものじゃない。ルドフィルもミランも、クライヴも。みんな輝いて見えるから。
問題なのは、恋をした人間がどう変わるのか、だということもわかってる。
でも、私は。
急に黙った私を心配そうにミランが見つめた。
それに、何でもないと首を振って、他愛もない話をしながら、生徒会室までを歩いた。
◇ ◇ ◇
「ブレンダ」
生徒会の仕事が終わった後、アレクシス殿下に話しかけられる。ミランはクライヴと一緒に帰っていた。
生徒会室に残っているのは、私とアレクシス殿下だけだ。
「はい」
なんだろう。
「君は、誰かに恋をしているわけではないと言ったな」
そう言われて、私が恋と愛の違いという本を借りたときのことを思い出した。
「……はい」
……そう、だと思う。
「そして、知りたいとも」
「はい」
「ならば、私の話を聞いてくれないか?」




