親友
さて。今日は、待ちに待った(?)中間テストだ。
「よし」
昨夜は勉強を早めに切り上げ、ぐっすり眠ったので、体の調子はすこぶるいい。
私は、鏡でおかしなところがないか確認してから自室を出た。
今日は図書室まで行く時間が惜しいので最後の詰め込みに教室で勉強をすることにした。
……と、その前に。忘れ物をしていないか確認する。うん。筆記用具はちゃんと揃ってる。大丈夫そうだ。
教室内はテストの直前だからか、みんな静かにしており、とても集中できた。
◇ ◇ ◇
テストが、終わった。
全問あっているかは別として、空欄は一つも作らなかった。後は、結果を待つのみだ。
テストは午前中に終わってしまうので、午後からは暇と言えば暇になる。
今日は、生徒会の集まりもないしどうしようか。帰りのホームルームが終わり、ぼんやりしていると、話しかけられた。
「ブレンダさん」
「はい」
ミランだ。隣の教室からやってきたらしいミランは少しだけ気恥ずかしそうに私を見ている。
「……どうしました?」
そういえば、最近はテスト勉強で忙しくあまりミランと話せていなかった。だから、こうしてミランが話しかけてきてくれて嬉しい。
「大事な話があるの。……一緒に私の部屋に来てくださる?」
もちろん、断る理由がない。
「わかりました」
二人で他愛ない話をしながら女子寮まで帰り、ミランの部屋へ。
ミランは手ずから紅茶を淹れてくれた。それを少しだけなめてから、ミランはそっと言った。
「クライヴ様と婚約をすることになったわ」
「! おめでとうございます!」
私は思わず、満面の笑みを浮かべた。
よかった。クライヴの恋は実ったのね。
「ありがとう」
「何かお祝いをしないと……! ミラン様は、甘いものがお好きですよね?」
と私が興奮気味に尋ねると、ミランは恥ずかしそうに笑った。
「ありがとう。あなたに祝ってもらえて、その言葉だけで嬉しいわ」
でも、とミランは続けた。
「このことは、まだ、公表しないでおこうと思うの」
「どうしてですか?」
こんなにめでたいことなのに。私が首をかしげると、ミランは言った。
「アレクシス殿下のことよ。アレクシス殿下に婚約者が新たに決まるまでは──、黙っていた方がいいと思ったの。だって」
ミランの心配にはっとする。私とミランは、ダンスパーティでアレクシス殿下が踊った二人だ。そのうちの一人の婚約が決まってしまえば、必然的に周囲の関心は私だけに向く。
「ですが、それでは……。ミラン様のせっかくのお祝いです。私のことは気になさらないで下さい」
そうだ。私とミランは友人だ。私は、ミランの足を引っ張りたいわけじゃない。それに。
「アルバート様も、早く発表したいのでは?」
クライヴは、ずっとミランに恋をしていた。
そのミランと婚約者同士にようやくなれたのだ。周囲に自慢したいに違いない。
「クライヴ様もわかってくれたわ。……ブレンダさん、私」
ミランがまっすぐに私を見る。
「クライヴ様も大事だけれど、私はあなたのことも同じくらいに大事なの」
「……ミラン様」
どうしよう。嬉しすぎて、泣きそうだ。
「ミラン様は、優しすぎます。でも、私はミラン様の足を引っ張りたくはありません」
私が俯きながらそう言うと、ミランはテーブルに置いた私の手を握った。
「大丈夫よ。この程度で引っぱられるほど、私は弱い女じゃないわ」
「!」
自信満々にそう言い放たれた言葉に思わず顔をあげる。ミランが優しく笑っていた。
「だから……私の友人をやめようなんて思わないで」
「!」
なんで、ミランには何でもお見通しなんだろう。
結局我慢できずに零れてしまった私の涙を、ミランはそっとハンカチで拭ってくれた。
「だって、あなたは親友だもの」
ミラン!!!
私は思わず立ち上がって、ミランに抱きついた。
ミランは、そんな私に苦笑しながらも、優しく抱きしめ返してくれたのだった。




