必死に
どうして、ジルバルトが謝るんだろう。
「ボクたち相性が良すぎるみたいだ」
相性が良すぎる?
ジルバルトは、ふと、声を落として、私を見つめた。
「ボクの目は、普通じゃない」
……普通じゃない。
そう言われて、アレクシス殿下に言われたことを思い出す。ジルバルトの瞳が魔眼かもしれない話。
「……驚かないんだね。もしかして、誰かから聞いた?」
「それは……」
でも、まさか、本当に?
戸惑っているとジルバルトは頷き、そして吐き出すように言った。
「そう、ボクの瞳は魔眼なんだ」
ルビーのような綺麗な瞳。でも、赤い瞳はそれ自体はそれほど珍しいわけじゃない。ミランだって、赤色だ。
それなのに、どうしてジルバルトの瞳は。
いや、そんなことどうでもいい。
「気持ち悪いでしょ……! ブレンダ」
ジルバルトの手を握った。
温かい。ちっとも、気持ち悪いとは思わなかった。
「……ブレンダ」
ジルバルトが戸惑ったように私を見る。途方にくれた迷子みたいな顔だと思った。
「そんなこと思うはずがありません。私にとって、ジルバルト様は大切な先輩ですから。それに」
微笑んで、ジルバルトを見つめる。
「ジルバルト様は、さっき、魔眼の力で助けてくださいましたよね? ありがとうございます」
ジルバルトのおかげで、深呼吸ができた。そして、そのお陰で、私は記憶に囚われなかった。
「でも、ブレンダが混乱したのもボクのせいなんだ」
ジルバルトは、悲しげな顔をした。
「ボクの目には2つ力がある。──人を思う通りに動かせること、そして、悲しい記憶を増幅させること」
悲しい、記憶。
「ブレンダは、雨に思い入れがあるっていったよね。偶々かと思っていたけれど、この前のあれもボクのせいだ。ボクが側にいたから──」
ジルバルトが、私を見つめる。
「記憶の増幅は誰かれ構わず、起きるわけじゃなくて、特別相性がいい人にしか起こらないんだ。でも、悲しい記憶なんて思い出さないに越したことはない」
もしかして、ジルバルトが、人を避けていたのはそういう理由があったのだろうか。
「だから、ブレンダ」
「いやです」
ジルバルトが困ったように笑う。
「まだ、全部言ってないよ」
「でも、いやです」
なんとなく、ジルバルトは別れを告げようとしている気がした。もう、自分には関わるなと。
「記憶については、問題ありません。私が乗り越えるべきことですから」
いつまでも過去に囚われている。
いつかは、それもやめなくちゃいけないと思っていた。
「だから、遠ざけようとしないでください」




