魔眼
「魔眼?」
魔眼。自分の思う通りに人を動かせる力を持つという、特別な瞳のことだ。
けれど、それはもうずっとずっと過去のこと。現在は、そんな瞳を持つ人はいない──いない、はずだ。
「ああ、魔眼だ」
アレクシス殿下は頷く。
ミランはクライヴが送っていったので、生徒会室に残っているのは、私とアレクシス殿下だけだった。
「ジルバルト・ローリエに違和感を覚えたことは?」
私が、ジルバルトに違和感を?
そんなこと一度もなかった。
首を横に振るとアレクシス殿下は、眉を寄せた。
「それも魔眼の力か……」
つまり。アレクシス殿下は、こう言いたいのだろうか。ジルバルトが魔眼の持ち主であり、私がそれに惑わされていると。
「私はジルバルト様に何かされたことは、一度もありませんよ」
ジルバルトに初めて会ったときも、ジルバルトは私を無理やり言うことを聞かせることはなかった。……少し、感じが悪かったけれど。
けれど、アレクシス殿下は納得していない様子だった。
「それが惑わされているんだ」
「ジルバルト様は、私の大切な先輩です」
ジルバルトの瞳が魔眼であろうと、どうであろうと。それだけは、変わらない事実だった。
「……っ、そうか、ブレンダにとって、ジルバルト・ローリエは、『先輩』なんだな?」
「そうですが……?」
それが何なのか。
けれど、アレクシス殿下は、なぜか、満足したようだった。
「わかった。だが、くれぐれも気を付けてくれ」
◇ ◇ ◇
まだ、寮の門限まで時間があったので、図書室に向かう。中間テストに向けて勉強しなければならないし、今朝借りた本も読んでみたい。
図書室は、流石に遅いからかあまり人はいなかった。でも、ジルバルトは勉強していた。きっと、この熱心な姿勢が学年二位をとる秘訣なのだろう。
そんなことを思いながら、問題をいくつか解き、飽きたら本を読んだ。
……なるほど。
断る時は、そうすればいいのね。
興味深く読んでいると、図書室の閉館の時間がきてしまった。
慌てて片付けをして帰ろうとしたら、ジルバルトに声をかけられた。
「暗いから、送るよ。それに、雨も降りそうだし」
ジルバルトと他愛もない話をしながら、帰る。
その途中で雨が、降ってきた。
慌てて傘をさそうとして、記憶が混乱する。
真っ黒な世界で白百合が際立っている。
そして、泣き叫ぶ声。
「……ダ」
赤い血、そして──、幸せそうな……。
「ブレンダ、『ボクを見て』」
「え?」
ルビーのような赤い瞳と目が合う。
「大丈夫だよ、『ゆっくりと、深呼吸をするんだ』」
言われるがままに、深呼吸する。だんだんと、落ち着いてきた。ええと、そうだ、ここは学園の帰り道。
「ありがとう、ございます。ジルバルト様……?」
ジルバルトのお陰で、混乱せずにすんだ。けれど、ジルバルトは悲しそうな顔をしていた。どうして。
「ごめん、ブレンダ」




