スマートな
ミランとお話しした翌朝。
小鳥の囀りで目を覚ます。
「んー……ふわぁぁ」
大きく伸びをして起き上がりカーテンを開けると、柔らかな日差しが射し込んだ。
ダンスパーティが終わると今度は中間テストに向けて忙しくなる。
私は特待生なので、好成績を維持しなければならない。
だから、頑張らないと。
そんなことを考えながら、制服をブラッシングしてから、身を通す。
鏡でおかしいところがないか確認していると、髪が気になった。
肩より少しだけ伸びた水色の髪は跳ねやすいのでそろそろまた、切るべきだろう。
本当は、これくらいの長さになったら楽にくくれるのだけれど、なぜだか、クリップをつけてしまう。
手軽なのもあり、思った以上にクリップを気に入っているようだった。
「よし!」
今日からまた、頑張ろう。
◇ ◇ ◇
いつもより早い時間に出たにも関わらず、図書室は普段より人が多かった。
みんな、中間テストに向けて勉強をしているのだろう。
私も負けていられない。
幸いにして、いつもの席は空いていたので、座る。
隣のジルバルトに小声で挨拶をする。
ジルバルトも挨拶を返してくれた。
図書室は静かで、とても勉強が捗った。
……そういえば。勉強を終えて片付けをしていると、ふと、本棚に目が留まった。
この学園の図書室の蔵書はとても多い。
けれど、私が本を読む目的で利用したことはなかった。
いつも今度借りてみよう、でそのままだ。
今日こそ、何か借りてみようか。
鞄をもって、本棚の前を歩いていると、興味深い本のタイトルが目に入った。
『メリグリシャの口説き方』
メリグリシャ語といえば、隣国の古代語だ。そして、ジルバルトの選択している第二外国語でもある。
以前、メリグリシャ語でジルバルトをからかったら、反対に口説いている風に聞こえるとからかわれてしまったのよね。
そう思い、手に取ると──。
「誰か口説きたい相手でもいるの?」
「!?」
突然耳元で囁かれ、思わずびくりと体を揺らしてしまう。
「もう、驚かせないでください」
後ろに振り向くと、思った通りジルバルトだった。
ジルバルトはごめんごめん、と全く心がこもっていない謝り方をすると、その隣の本を抜き出した。
「ブレンダはさ、どっちかと言うと、こっちの方が必要じゃない?」
隣の本のタイトルは、スマートな断り方、だった。
……確かに。
自意識過剰ではあるけれど。アレクシス殿下が気にかけて下さるのは嬉しい。でも、アレクシス殿下は友愛だけを抱いているとは考えにくい。
元婚約者である私に必要以上に拘るのは、独占欲めいたものがあるのではないかと、考えている。
でも、その感情は、私にとってもアレクシス殿下にとってもよろしくないものだ。
だって、私はもうただのブレンダなのだから。
「借りてみます」
頷くと、ジルバルトは満足そうに微笑んだ。
◇ ◇ ◇
教室に向かっていると、周りの視線が気になった。
ちくちく、というよりはざくざくと視線が突き刺さる感じがする。
……それもそうか。
平民の私が、アレクシス殿下が踊った二人のうち一人なのだ。
いったいどういうつもりだと、詰め寄られても仕方がない。
でも、視線が気になるだけで、誰にも問い詰められることはなく、教室にたどり着くことができ──。
「ブレンダ」




