提案
ぎぎ、と音がしそうなほどゆっくりと、振り向く。どうか、私の予想が外れていますように、と祈りながら。
けれどやはり私の予想通り、そこにいたのは、アレクシス殿下だった。
「アレクシス殿下」
私は溜め息をつきたいのをぐっと、押さえてアレクシス殿下に向き直る。
翡翠のその瞳からは感情が窺えない。
「ブレンダ……。その、体調は良くなっただろうか?」
そういえば。
アレクシス殿下も、ミランと踊ったあと医務室に行かれたのだった。
アレクシス殿下の前から消えるのに、体調不良を使ってしまったから、これはもしかすると、嫌味なのだろうか……と思ってしまうのは、私が穿った見方をしすぎなのだろうか。
「はい。あの後、すぐに良くなりました。アレクシス殿下にはご心配をおかけしました」
「いや……、良くなったのなら構わない」
用件はそれで終わりだろうか。
あまり人目のあるところでの会話は、私にとってもアレクシス殿下にとっても、よろしくない。
「それから……」
アレクシス殿下が口を開いたところで、予鈴のチャイムが鳴った。
「申し訳ありません、アレクシス殿下。ホームルームが始まってしまうので、また、放課後に生徒会室でお願いいたします」
そういって失礼だとは思いつつも、礼をして教室に入った。
◇ ◇ ◇
お昼休みになった。教室内でも、相変わらずみんなの物言いたげな視線が気になったけれど、特に追求されることはなかった。
それが果たして良かったのか悪かったのかわからないけれど。
その視線から逃れるように、購買部でパンを買って屋上へ行く。
屋上に行くと、ようやくまともに息が吸える気がした。
「……はぁ」
「ブレンダ、浮かない顔だね」
聞き覚えのある声に振り向くと、ルドフィルだった。ルドフィルは、やぁ、とひらひらと手を振った。
「……もしかして、ダンスパーティの件、かな」
「噂になってますよね、やっぱり」
頷くと、ルドフィルはまぁね、と苦笑した。
「ごめん。僕が助けてあげられれば良かったんだけど、ローリエ殿の方が早かったから」
「いえ、ありがとうございます」
一曲踊るのは約束だった。だから、それは仕方のないことだ。
問題は、アレクシス殿下が二曲しか踊っておらず、そのうちの一曲が私だということ。
「ブレンダはさ」
「はい」
「アレクシス殿下のこと、どう思ってる? 好意があるのか、それとも──迷惑、なのか」
「……それ、は」
友人としてなら、友愛を抱いている。
臣下としてなら、敬愛も。
でも、元婚約者とするならば。
「……困ります。私は、ただのブレンダですから」
アレクシス殿下が、私に抱いて下さっているのが何にせよ、平民には身の余るものだった。
「……そうだよね。ねぇ、ブレンダ」
「はい」
「僕と、婚約しない?」




