ダンスパーティ 2
「……ああいった男が好みなのか?」
ああいった男。前も同じようなことを言われた気がする。
あのときは、よくわからなかったけれど。今回のああいった男、とは、十中八九ジルバルトのことだろう。
それにしても。アレクシス殿下が、なぜ、私の異性の好みを気にするんだろう。いくら友人になったとはいえ、過干渉な気がする。
……謎は尽きないけれど。
ジルバルトのことを異性としてどう思うかと言ったら。
「魅力的な方だと思います」
体調を気遣ってくれたり、飲み物をとってきてくれたり。ジルバルトは優しい。優しい人は好きだ。
「……そうか」
アレクシス殿下は、なぜか更に複雑そうな顔をした。
「それでも、私は──。……ブレンダ」
「はい」
アレクシス殿下は一度言葉を切り、続けた。
「そのドレス、とても似合ってる。私と踊ってくれないだろうか?」
今は二曲目に入ったところだ。踊るなら、次の曲からだろう。アレクシス殿下と一曲踊る約束をしたのはちゃんと覚えてる。……としても。三曲目は、まだ平民が第二王子と踊るには早すぎはしないだろうか。
それとも有象無象の一人なのに、私が気にしすぎなのだろうか。
でも、こうして誘われてしまった以上、断る方が角がたつかしら。
「……喜んで」
頷くと、アレクシス殿下はほっとした顔をした。
「ブレンダ、飲み物をもってきたよ」
「ありがとうございます」
ジルバルトが飲み物を手に戻ってきた。私たちの間に漂う微妙な空気に気付いたジルバルトはそっと、私の側にたった。
「君のパートナーをダンスに誘ったんだ」
アレクシス殿下がそういうと、ジルバルトはにっこり笑った。
「そうですか。ブレンダ、今日はせっかくのダンスパーティだから、楽しんでおいでよ」
「はい。ありがとうございます」
丁度そこで、二曲目が終わった。アレクシス殿下にエスコートされて、ホールの中央へ行こうとした直前、ジルバルトは囁いた。
「しつこかったら体調不良を使うか、思いっきり足を踏みつけるんだよ」
どういう意味だろう?
疑問に思いながらも、アレクシス殿下に気付かれないように頷くと、ジルバルトは満足そうに微笑んだ。
アレクシス殿下と、踊る。
「アレクシス殿下、改めて、ドレスを贈ってくださりありがとうございます」
「さっきも言ったが、とても似合っている。着てくれてありがとう」
アレクシス殿下の翡翠の瞳と目が合う。
今までダンス中にその翡翠の瞳と目が合うことはなかったから、とても不思議な気がする。
そんなことを思いながらも踊っていると、あっという間に三曲目は終わった。
「アレクシス、殿下?」
それなのに。おかしい、まだ、手が離されない。
「……君を、あの男のところに行かせたくない」




