可愛い後輩
図書室の係員の人に、そろそろ閉館の時間だと告げられる。勉強を終えて帰ろうとすると、ジルバルトに引き止められた。
「暗いし女子寮まで送るよ」
確かに外を見ると、真っ暗だった。
せっかくなので、好意に甘えることにする。
「ありがとうございます」
ジルバルトと、帰り道を歩く。
「……ブレンダ」
「はい」
「ありがとう」
何のことだろう? 私が首をかしげると、ジルバルトは言った。
「クライヴのことだよ。色々、相談にのってくれたんでしょ」
……そういえば、あれから何度かクライヴとミランについて話をしたのだった。
「クライヴはずっとカトラール嬢が好きだったから、だから、ほっとしてる」
そうなんだ。今後クライヴはミランの気持ちだけじゃなくて、カトラール侯爵家の気持ちも変えなければならないけれど。あれほどの想いがあれば、きっと大丈夫だろう。
そう思いながら、ふと、空を見上げると、一際綺麗に光る赤い星が見えた。
「ジルバルト様みたいですね」
ジルバルトの瞳にそっくりなその星を指差してそういうと、ジルバルトはへぇ、と言った。
「雪解け姫は、ボクを口説いてるの?」
「! ち、ちが──」
前もこんなやり取りがあった。そう思いながら、ぶんぶんと首をふると、ふはっとジルバルトは笑った。
「そんなに慌てて否定しなくてもいいじゃない。ちょっとからかっただけだよ。でも……」
でも? 何だろう。
「ありがと。ボクの瞳、気持ち悪いとは思わないんだね」
気持ち、悪い?
「とても綺麗なのに?」
「……だから、そういうことを軽率に言わないの。勘違いするでしょ」
でも、事実だ。私がそういうと、ジルバルトは、複雑な顔をした。
「最近わかってきたけど、ブレンダって、ほんと、そういうところあるよね」
「そういうところ?」
「わからなくていいよ。ボクの後輩が可愛いなってだけの話だから」
そういって、ジルバルトは私の髪をわしゃわしゃと撫でた。
「……髪型がくずれ──」
抗議をしようとして、やめる。ジルバルトはとても優しい顔をしていた。
しばらくされるがままになっていると、ジルバルトは、ブレンダって犬みたいだよね、と笑った。
「犬!?」
動物に例えられたのは初めてだ。
「うん、犬」
私も犬は好きだけれど。それは、誉められているのか、貶されているのか。複雑な気分になりながら、私は自室に帰ったのだった。




