休日
生徒総会に向けた会議を終え、片付けをしていると、ルドフィルに話しかけられた。
「ブレンダ、明日空いてる?」
「ええ、空いていますよ」
明日は休日だ。下町を散策しようかと思っていた以外、特に予定はなかったので頷く。
「だったら、僕と悪いことしない?」
ルドフィルの言葉に笑顔で頷く。
ルドフィルの悪いことは、楽しいことに違いなかった。
そういえば。ふと、ルドフィルを見つめる。
「どうしたの、ブレンダ?」
私やジルバルトにもあったように、ルドフィルにも二つ名があるのだろうか。
ルドフィルの特徴といえば、やはり。
アイスグレーの瞳と、柔らかな茶髪だ。
「氷……の貴公子? 違うわ。薄墨の──」
「ぶ、ブレンダ?」
ルドフィルが戸惑ったような顔で、でも、一瞬薄墨という言葉に顔を赤くした。
「ルドフィル様は、薄墨の……なんと呼ばれてるんですか?」
「な、なんでブレンダがその話を……!」
やっぱり、ルドフィルにも二つ名があるらしい。
私は、にやにやしながら、追求しようとしたけれどルドフィルは、私にクッキーの包みを取り出した。
……仕方ない。これ以上の追求は諦めよう。
クッキーの包みをもらい、半分にわってルドフィルと私で食べる。
「これ以上は、聞いちゃ駄目だよ」
「……ええ。取引しましたからね」
ルドフィルは、追求されたくないことがあるときは、お手製のクッキーを半分くれる。その半分を一緒に食べたら、取引は完了で、ルドフィルにそれ以上追求しない……というルールがあった。ルドフィルがそれをするときは、大抵私にとって面白そうな話のときが多いのだけれど。
「それにしても、今日のクッキーもとても美味しかったです」
「ほんとう? ブレンダは、いつも誉めてくれるからつくりがいがあるなぁ」
ルドフィルのクッキーはお世辞抜きで美味しい。貴族が料理をすることをはしたないと言う人もいるけれど、私はとっても素敵な趣味だと思う。しばらく話に花を咲かせた後、別れた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
鏡の前でおかしいところがないか、確認する。
ルドフィルから楽な格好できてほしい、と言われたのでワンピースにした。
「……変じゃないわ」
そういえば。
自室をでる前に、ふと思い出して、アクセサリー入れからイヤリングを取り出し、耳に飾る。
「……うん、このワンピースに似合ってる」
ルドフィルも覚えているだろうか。
覚えているといいな。
そう思いながら、自室を後にした。
◇ ◇ ◇
「お待たせしました」
ルドフィルはすでに、女子寮の門の前で待っていた。
楽な格好でという指定通り、ルドフィルも平民のような服を着ている。
「ううん、ぜんぜん待ってないよ。! 懐かしいものつけてるね」
ルドフィルがイヤリングをみて、目を細める。
このイヤリングは、幼い頃──まだ、私が自由に笑えていた頃に、露店でルドフィルが私にプレゼントしてくれたものだった。あの頃の私には大きすぎて、つけられなかったけれど。
こうしてつけると時の流れを感じる。
「まだ持っていてくれて、嬉しいよ。似合ってる」
そういってルドフィルが片腕を差し出した。
「ありがとうございます」
微笑んで、エスコートを受ける。
さて、ルドフィルとの楽しい休日の始まりだ。




