宵闇
昼食と午後の授業が終わった。今日も生徒会の仕事がある。せっかくだし、今日もミランと一緒に生徒会室に行こう。
そう思って廊下にでると、まだ隣のクラスはホームルーム中のようだった。
……ミランを待っていよう。
廊下で今朝ジルバルトにもらったクリップを弄んでいると、隣のとなりの教室──一年生は全部で三クラスだ──から、アレクシス殿下がでてきた。
アレクシス殿下も生徒会室にむかうのだろう。
そう思いながら廊下の窓の外を見る。
「……?」
窓の外を眺めているとふと、人の気配を感じて、視線を前に戻す。
ミランだと思ったから、思わずうきうきで、視線を向けると、私の目の前に立っていたのはアレクシス殿下だった。
「……」
「…………?」
なにか、私に用事だろうか? それとも、端にいたつもりだったけれど、邪魔だった?
そう思い一歩後ろに下がると、その距離を詰められる。
「……あの?」
用事があるにしても、これほど接近する必要性を感じない。私が戸惑っていると、暗い瞳でアレクシス殿下は口を開いた。
「君は……」
「はい」
「……ああいった男が好みだったのか?」
ああいった男。それはいったいどういった男性のことでしょうか。そもそもアレクシス殿下が異性の好みなどを話題に出すことが異常事態な気がする。
「だから、私の前では……、感情を見せなかったのか?」
アレクシス殿下が翡翠の目を細めて、私を見た。
……ええと。
何だかよくわからないけれど、アレクシス殿下の中では、アレクシス殿下が私の好みから外れていたから、感情表現をしなかったととらえられているようだった。
私は別にアレクシス殿下がどうだから、ではなく、単純に父から禁じられていただけだ。
「……父の言葉を守っていただけです」
「君のお父上──スコット公爵が?」
「はい」
私の父は時間をとめてしまった。ただ、それだけの話だった。
「それは──」
アレクシス殿下がなおも尋ねようとしたところで、教室からミランがでてくる。
ミランは私たちの姿を発見すると、少しだけ顔をしかめた。
「アレクシス殿下、ブレンダさんと距離が近すぎるように思うのですが……」
「あ、ああ。そうだな、すまない」
ミランの言葉にアレクシス殿下が、数歩下がる。平民である私からは言い出しづらかったので、ミランの指摘はとてもありがたかった。
「ブレンダさんの今の立場をお考えになるべきだと申し上げます」
ミランは遠回しに私がアレクシス殿下の婚約者でないことを言ってくれた。
いくら、生徒会という関わりがあるからといっても、平民の私が廊下という誰でも通れる場所で接近してアレクシス殿下と話している、だなんて。
あらぬ噂がたてられかねない。
ミランはそのことを心配してくれたのだろう。
「…………わかった」
そういって、アレクシス殿下は去っていったけれど、そのわかったには何か含みがあった。
アレクシス殿下を視線で見送ったあと、ミランと歩く。
「ありがとうございます、ミラン様」
「いいえ、だってあなたは私の友人だもの」
そういって微笑むミランに思わず、嬉しくなってしまう。友人。何度きいても良い言葉だった。
「そういえば、その髪飾りどうされたの?」
私が歩きながらクリップをつけると、ミランは興味津々な様子で近寄った。
「ああ……これは、ジルバルト様からいただいたんですよ」
私がそういうと、ミランは驚いた顔をした。
「ジルバルト……、ジルバルト・ローリエ様のこと?」
「ええ、はい。そうですが……」
「あなた、あの人嫌いで有名な方とよく仲良くなったわね。ジルバルト様は、宵闇の貴公子と呼ばれるほど、お顔が整っていらっしゃるから、ぜひ、婚約者になってほしいと突撃した女子生徒も多かったの。でも、全部ばっさりだったらしいとも聞いたわ」
貴族の婚約者は、王族などを除いて、この学園期間で決められることが多い。
……と、いうことはおいておくにしても。
「よ、宵闇の貴公子……」
いかにもジルバルトが嫌いそうな二つ名だった。氷姫だとあんなにからかってきたくせに、自分もなかなかに恥ずかしい二つ名をもっているらしい。
私が、思わず笑っていると、ミランも温かい瞳をした。
「ええ、すごいわよね」
これは、いいことを聞いてしまった。
もし、今度ジルバルトと話すことがあったら、話題にだしてみよう。
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